近年、夜間運転時に対向車のヘッドライトが眩しいと感じるドライバーが急激に増加しています。JAFが実施した読者アンケートでは、実に96%の人が「夜間、ヘッドライトのハイビームを眩しいと感じたことがある」と回答しており、この問題の深刻さが浮き彫りになっています。
この現象の背景には複数の要因が絡み合っています。
これらの技術的進歩は安全性向上を目的としていますが、同時に新たな問題も生み出しているのが現状です。
LEDヘッドライトが眩しく感じられる理由は、単純に明るさだけの問題ではありません。芝浦工業大学名誉教授の入倉隆氏によると、「LEDによってライトの色温度が高くなっていることも理由のひとつ」と指摘されています。
色温度と眩しさの関係
LEDの白い光は色温度が高く(通常5000K~6500K)、人間の目には青白く感じられます。この高い色温度の光は、従来のハロゲンランプ(約3200K)やHIDランプ(約4300K)と比較して、以下の特徴があります。
配光特性の変化
現代のプロジェクタータイプやマルチリフレクタータイプのヘッドライトは、照らす部分とそうでない部分がクッキリと分かれる特性を持っています。これにより、ロービームの上限ギリギリまで強い光が配光されているため、路面の起伏や勾配による車体の動きで、ロービームのままでもハイビームと同じような配光になってしまう状況が発生しています。
従来のレンズ式ヘッドライトでは周囲に拡散する光が自車の存在を知らせる役割も果たしていましたが、現在の集光型ライトではこの効果が失われ、対向車への眩惑が増加する結果となっています。
2017年3月の道路交通法改正により、「夜間等の運転時は灯火を上向きとすべきであることについて記載を明確化」されました。この改正が、現在の眩しいライト問題の大きな要因となっています。
法的規定の正しい理解
道路交通法では、ヘッドライトは以下のように定義されています。
法律上は昔からハイビームが基本でしたが、2017年の改正でこれが強調されたことで、「どこでもハイビームで走るのが正しい」という誤解が広まりました。
実際の運用における問題点
市街地では先行車や対向車がいて当然であり、ハイビームで走れる状況は滅多にありません。しかし、以下のような問題が発生しています。
警察が「夜間等の運転時は灯火を上向き」を強調した理由は、横断中歩行者の死亡事故データの解析結果でしたが、この情報が一人歩きして誤った運用が増加しているのが現状です。
ヘッドライトの光軸調整不良は、対向車の眩惑を引き起こす重要な要因の一つです。適切な光軸設定がなされていない場合、ロービームであっても対向車や歩行者に強い眩しさを与えてしまいます。
光軸調整が狂う主な原因
光軸調整の重要性
本来、光軸はヘッドライトの地上高よりも下に向いていなければなりません。適切な光軸調整により。
光軸調整は専門的な技術と設備が必要なため、信頼できる整備工場での定期的なチェックが推奨されます。
対向車のライトが眩しいと感じた際の適切な対処法を知ることは、安全運転において極めて重要です。
即座に実行すべき対処法
装備による対策
アダプティブヘッドランプ(AHL)の導入
最新技術として、カメラで先行車のテールランプや対向車のヘッドライトを認識し、その方向のLEDのみを消灯する「アダプティブヘッドランプ」が実用化されています。この技術により、対向車を眩惑することなく遠方まで照らすことが可能になっています。
ただし、AHLを搭載した車種はまだ限られており、より簡易的なAHS(オートマチック・ヘッドライト・システム)の方が普及しています。
自車の眩惑防止対策
自分の車が他車を眩惑しないための対策も重要です。
ドライブレコーダーの普及により、眩しいライトが原因で事故が発生した場合、その責任の一部を問われる可能性もあるため、適切な配慮が求められています。
夜間運転時の安全確保には、技術的な対策と運転者の意識向上の両方が不可欠です。今後も車両技術の進歩とともに、より安全で快適な夜間運転環境の実現が期待されます。