2003年に登場したスズキツインは、軽自動車初のハイブリッドシステム搭載車として業界の注目を集めた革新的なモデルでした。全長2,735mmという国産軽自動車最小級のコンパクトボディに、わずか658ccの直列3気筒エンジンを搭載した2シーターの軽乗用車です。発売当初のガソリン車は49万円という低価格で設定され、省資源・低価格・高い環境性能を兼ね備えた唯一無二の存在でした。
しかし、時代を先取りしすぎた感が強く、販売は伸びず、わずか2年8か月という短い期間で生産が終了してしまいました。当時は2人乗りのコンセプトが市場に理解されず、軽自動車に求める価値観も現在とは異なっていたのです。2005年8月の生産終了から約20年が経ちましたが、その革新的なコンセプトは今なお多くの自動車愛好家から愛され、復活を望む声が絶えません。
ツインに搭載されたハイブリッドシステムは、当時としては極めてユニークな設計でした。エンジンとトランスミッションの間にわずか8cm厚さの超薄型モーターを直結する「モーターアシスト式パラレルハイブリッド」方式を採用し、加速時にモーターがエンジンをアシストする仕組みになっています。この仕組みにより、ハイブリッドA グレードで10・15モード34.0km/Lの超低燃費を実現しました。
さらに注目すべき点は、バッテリーの選択です。当時のトヨタプリウスは高価なニッケル水素バッテリーを使用していましたが、ツインは通常の鉛蓄電池を改良したものを搭載することで、軽自動車の価格帯での実現を可能にしました。街乗りでのストップ&ゴーが多い使用環境を想定し、アイドリングストップシステムも同時に導入。限られた資源を有効活用し、環境負荷を最小限に抑える配慮が随所に見られます。
2024年10月、自動車専門誌「マガジンX」の報道では、スズキが電気自動車(BEV)としての極小コミューターの投入を検討している可能性が指摘されています。2023年のジャパンモビリティショーに出展されたハスラー風の4人乗りBEVコンセプトカーと異なり、さらに小さい2人乗りのタウンコミューターの開発も進められているとのこと。
予想では、軽量でコンパクトな2人乗りBEVとして実現されれば、省資源化と低価格化を同時に達成できるとされています。発表予想時期は2027年以降で、全長2,985mm×全幅1,475mm×全高1,530mm程度のサイズが想定されています。「やっと時代がツインに追いついた」と称される新型ツインの登場により、20年前に先駆けたコンセプトが現代技術と融合する可能性が高まっているのです。
ツインの復活を待つ間、市場にはいくつかの代替候補が登場しています。トヨタC+podは全長2,450mmと、ツインよりもさらにコンパクトな電気自動車として、リース専用で販売が開始されています。同じく日産サクラと三菱eKクロスEVは、軽規格の電気自動車として実用的な選択肢となっており、これらは従来の軽自動車よりもEV化を優先した新世代の小型車です。
ガソリン車の選択肢としては、ダイハツミライースやスズキアルトが低燃費と低価格を両立させています。ミライースは「第3のエコカー」として2011年に発売され、現在も販売が継続されており、中古車市場では20万~110万円程度で購入可能です。ツインのコンセプトに最も近い超小型モビリティとしての存在は限定的ですが、これらの車種が現在のニーズに応える代替役となっているのが実情です。
ツインは生産終了から既に20年近くが経過していますが、中古車市場ではなお取引されています。流通量は極めて限定的で、2022年12月時点での在庫は全国でもわずか1台程度と報告されています。中古価格相場は60万円前後で、走行距離は3~4万kmという比較的少ない車両が多いのが特徴です。
買取相場を見ると、2004年式(平成16年式)で最高30.2万円、2005年式で最高27.2万円という価格帯となっており、年式による減価は緩やかです。これはツインが希少性の高い旧車として再評価されつつあることを示唆しています。YouTubeなどで旧車再生企画の対象として取り上げられることも増え、自動車愛好家の間では「伝説の名車」として高い評価を受けるようになりました。
自動車買取業者の査定実績では、走行距離66,961kmで30.2万円の買取実績もあり、状態の良い個体は相応の価値を保持しています。ツインを購入検討する場合は、大手中古車販売店で品質管理されている車両を選ぶことが重要です。全国200店舗以上の在庫を有する大規模中古車販売店では、ツインのような流通の少ないモデルであっても、稀にリスト上に掲載されることがあります。
ツインのエクステリアデザインは、1999年の東京モーターショーで好評を博したコンセプトカー「スズキPu-3コミュータ」の基本デザインを市販車として再現したものです。丸い球状の車体にタイヤハウスやバンパーを緩やかな曲線でつなげた特徴的な外観は、当時としては非常にユニークでした。全長2,735mmという超コンパクトなボディながら、最小回転半径3.6mを実現し、都市部の狭い駐車スペースでも容易に対応できます。
インテリアもシンプルで機能的に設計されており、センターメーターを採用することで視認性を向上させています。2人乗りという割り切った設計により、軽自動車としては異例の広々とした室内空間が確保されました。助手席がほぼ水平に倒せるため、スーツケースなどの長尺物も積み込める工夫が施されています。ガラスハッチを採用したラゲッジルームは、スーツケース1つ分程度のサイズですが、都市部での通勤やショッピング、市街地での移動という使用シーンを想定した最適なバランスが取られているのです。
参考:スズキ公式プレスリリース
スズキ 軽自動車初ハイブリッドシステム搭載「ツイン」発売
参考:カーセンサーネット 最新予測記事
次期ツインがBEVとして再挑戦 スズキは新型の軽×電気自動車を検討中
ツインが短命に終わった理由は、当時の市場ニーズとのズレにありました。2003年当時、日本の自動車購入者は、軽自動車に対してより多くの積載容量と4人以上の乗車定員を求めていました。2シーターという設定は、子育て世代や家族層には不便と映り、商用利用を想定していない点も市場拡大を阻害しました。さらに、ハイブリッド技術が一般的でなかった時代には、新型ハイブリッドシステムの価値が消費者に十分理解されず、割高感を感じられていました。
当時の燃料価格相場も現在ほど高くなく、低燃費性能へのニーズが弱かったことも一因です。安全装備の基準も現在とは異なり、エアバッグやスタビリティコントロールなどの装備充実化により、新型軽自動車の製造コストが上昇していく中で、ツインのような2人乗りモデルの採算性維持は難しくなったのです。時代を先取りしすぎた革新的モデルは、往々にしてこのような運命を辿ります。
2024年から2025年にかけて、ツインの復活が再び注目される背景には、社会情勢の大きな変化があります。第一に、電気自動車へのシフトが世界規模で加速し、小型軽量なEVプラットフォームの開発が進んだこと。第二に、高齢化社会における移動手段多様化のニーズが急速に拡大したこと。第三に、都市部を中心に「マイカーよりシェアリング」という価値観が浸透し、超小型モビリティの実用性が再認識されたことです。
さらに、ガソリン価格の上昇により、低燃費・低価格の選択肢への関心が急速に高まりました。2050年カーボンニュートラル達成に向けた政府施策も、軽量コンパクト設計による省資源化を推奨する方向に変わってきています。ツインが20年前に実現しようとしたビジョン「コンパクト・低価格・環境配慮・都市適応」は、2020年代の今まさに市場が求める価値観そのものなのです。
スズキが検討しているBEV版ツインが実現すれば、全世界で需要が高い小型都市型電気自動車のカテゴリーに、日本メーカーからの有力な選択肢が加わることになります。軽自動車規格を活用した小型軽量化により、バッテリー搭載量を削減でき、低価格と航続距離のバランスを実現できるという利点があります。これはトヨタC+podや日産サクラなどの先行モデルと比較しても、異なる価値提案ができる可能性を秘めています。
参考:グーネット 中古車レビュー
乗車定員2名のコンパクトで画期的な都市型軽自動車 レビュー