1983年2月に登場したマイティボーイは、セルボをベースとした軽ピックアップトラックとして、自動車業界に衝撃を与えました。「マー坊」の愛称で親しまれたこの車は、新車価格45万円という破格の安さで販売され、「金は無いけどマイティボーイ」というキャッチコピーで話題となりました。
セルボのBピラーから後ろを切り落とし、荷台を設けたという潔いデザインが最大の特徴です。軽トラックという分類でありながら、実質的には2人乗りのパーソナルカーとしての性格が強く、快適性も確保されていました。
販売当初は期待されたほど売れませんでしたが、生産終了後にその独特なスタイルと希少性から人気が爆発し、現在では旧車として高い評価を受けています。
マイティボーイの魅力は、そのカスタムベースとしての可能性にもあります。兄弟車である初代アルトやセルボ、フロンテのパーツが流用できるため、レストアやカスタムが比較的容易です。
特に注目すべきは「マイティボーイワークス」と呼ばれるカスタムです。アルトワークスのF5型ターボエンジンを移植することで、軽い車体に強力なエンジンを搭載し、格上の車をも凌駕する性能を実現できます。
現在の中古車市場では、状態の良い個体は100万円を超える価格で取引されており、新車価格の2倍以上の値段がついています。これは、マイティボーイの希少性と人気の高さを物語っています。
2015年に発表されたマイティデッキは、マイティボーイの現代版として大きな注目を集めました。4人乗りの軽トラックとして設計され、天井が開く「キャンバストップ」も採用した斬新なデザインでした。
660ccの直列3気筒ターボエンジンに「S-エネチャージ」を用いた簡易型ハイブリッドシステムを搭載し、走りと燃費の両面で申し分のないスペックを誇っていました。
しかし、高い評価を得たにも関わらず、マイティデッキは市販化されることはありませんでした。これにより、オープンデッキタイプの車を求める人々は、中古のマイティボーイを探すしかない状況が続いています。
現代の安全基準や環境規制を考慮すると、マイティボーイの復活には多くの技術的課題があります。
まず、衝突安全性の向上が必須です。現在の軽自動車は、歩行者保護や乗員保護のため、より厳格な安全基準をクリアする必要があります。オープンデッキ構造では、後部の剛性確保が困難になる可能性があります。
環境面では、燃費性能の向上とCO2排出量の削減が求められます。現代のハイブリッド技術やマイルドハイブリッドシステムの搭載が必要となるでしょう。
また、現在の軽自動車規格に合わせた設計変更も必要です。1980年代の軽自動車規格と現在では、ボディサイズや排気量の上限が異なるため、全面的な再設計が必要となります。
現代の自動車市場において、マイティボーイのような個性的な車両への需要は確実に存在します。SUVブームの中で、よりパーソナルで実用的な車両を求める声が高まっています。
特に、アウトドアレジャーの人気拡大により、荷物を積載できるオープンデッキタイプの車両への関心が高まっています。キャンプ用品や自転車、サーフボードなどの長尺物を積載する際の利便性は、現代のライフスタイルにマッチしています。
また、商用車としての需要も考えられます。都市部での配送業務や、小規模事業者の営業車として、コンパクトで機動性の高い車両は重宝されるでしょう。
しかし、2シーター仕様では家族利用が困難であり、マイティデッキのような4人乗り仕様への変更が現実的な選択肢となります。
現在の中古車市場での高値取引は、潜在的な需要の高さを示しており、新車として復活すれば一定の販売台数は期待できると考えられます。ただし、ニッチな市場であることは否めず、大量生産によるコストダウンは困難かもしれません。
スズキとしては、ジムニーのような個性的な車種で成功を収めている実績があり、マイティボーイの復活も十分に検討に値する企画といえるでしょう。現代の技術を活用し、安全性と環境性能を両立させた新しいマイティボーイの登場を期待する声は、今後も高まり続けることが予想されます。