2013年の第43回東京モーターショーでスズキは市販直前の初代ハスラーとともに「ハスラークーペ」を世界初公開した[1][3]。
同社の出展テーマは「新しい物語をつくろう」で、日常にワクワクを与える提案としてクロスオーバークーペの新ジャンルを打ち出した[1]。
クーペの洗練とSUVのタフさを融合した軽自動車は当時ほぼ存在せず、MINIペースマンやBMW X6の軽版と評された[3]。
参考出品ながらパワートレーンは量産型ハスラーと同じ0.66ℓエンジン+CVTを想定し、市販を意識させる完成度だった[3]。
しかし実用性重視の軽市場ではリアキャビンを絞ったクーペ形状が販売面でリスクと判断され、市販化は見送られたと関係者は語る。これは公式発表ではなく業界筋の推測である。
結果としてハスラーは四角いボディでヒットを飛ばし、多彩な特別仕様車でラインアップ拡充を図ったが、クーペ版は“幻の分身”として語り継がれることになる。
最大の特徴は後方へ大胆に傾斜するルーフラインだ。これに合わせてリアウインドウも強い前傾角を与え、Cピラーにドアハンドルを隠したヒドゥンタイプで3ドア風に見せている[1][2]。
ドア上部のフレームで開口が完結する構造を新設計し、ルーフ面からドアのカットラインを排除することでスポーティさを強調した[1]。
バンパー下部やホイールアーチにはハスラー譲りの厚めの樹脂クラッディングを残し、見た目の薄さとSUVらしいタフ感の両立を図る[2]。
フロント・リアランプ、アルミホイール、前後バンパーも専用品で、標準ハスラーとの差別化は徹底している[3]。
カラーリングはモーターショー展示車がビビッドオレンジとブラックの2トーンで、都会とアウトドア双方で映える配色。
なおAピラー角度とガラスエリアは通常版と共通で、フロアパンの改造は最小限に抑え、コストを抑えて派生車を実現するスズキの“らしさ”が見える。
想定パワーユニットはR06A型ターボ/NAエンジン+CVTにアイドリングストップを組み合わせ、当時話題のエネチャージも搭載予定だった[3]。
最低地上高はハスラーと同値の約180mmで、大径ホイールとオールテレーンタイヤを履き、雪道や林道走行を想定[1]。
軽量化のためバックドアやフェンダーの一部に樹脂パネルを採用する計画があったと開発スタッフが後日取材で証言。
車両重量推定はターボ仕様で850kg前後、市街地から峠道まで扱いやすいパワーウエイトレシオを実現。
燃費は当時のJC08モードでターボ23km/L、NA29km/Lをターゲットにしていたが、ルーフ形状の空力差で実燃費は標準ハスラー比▲1〜2%との試算があった。
四輪駆動モデルにはLSD相当のブレーキ制御を追加し、ウェット芝や浅雪でのトラクション性能を強化。
2024年5月のハスラー一部改良で新タイプ「タフワイルド」が追加され、バリエーション拡大の流れは続いている[1]。
国内クロスオーバークーペ需要はトヨタC-HRやホンダZR-Vの登場で拡大傾向にあり、軽セグメントにも派生モデルの余地はある。
スズキ社内では「車内高が下がるとチャイルドシート層から敬遠される」という慎重論が根強いが、ジムニー5ドアの国内投入が決まれば“趣味系軽”の再評価が進む可能性が高い。
仮に2026年以降に市販する場合、ハスラーHYBRID Xターボ(179.3万円)比で+15万円前後、2WDが195万円、4WDが209万円程度と試算。
安全装備はデュアルカメラブレーキサポートIIに加え、新型スイフトから流用の夜間歩行者検知型ACCを採用し、価格上昇を抑えながら商品力を高めるシナリオが現実的だ。
もし市販化された場合、狙い目ユーザーは「ジムニーは3ドアで実用性が不足、N-BOXは遊び心が物足りない」と感じる20〜40代アウトドア志向層。
都市部の立体駐車場制限(全高1550mm)に収まる低めの車高設定なら、ハスラーより使い勝手が向上しセカンドカー需要を取り込める。
ライバル候補は、ホンダN-BOXスラッシュ(2014〜2020年)とダイハツタフト。前者は車高1700mmながらクーペ風ルーフ、後者はガラスルーフの開放感で競う。
比較表
車名 | ルーフ形状 | 最低地上高 | 後席室内高 | 実燃費目安 | 価格帯(万円) |
---|---|---|---|---|---|
ハスラークーペ(予) | 後傾クーペ | 180mm | 1020mm | 18〜20km/L | 195〜209 |
ハスラー現行 | ボクシー | 180mm | 1250mm | 19〜21km/L | 151〜197 |
N-BOXスラッシュ | クーペ風 | 145mm | 1180mm | 17〜19km/L | 140〜200 |
タフト | 角形+ガラス | 190mm | 1175mm | 17〜20km/L | 135〜181 |
独自検討として、背面タイヤレス仕様やルーフ一体型ルーフボックスなど純正アクセサリーを充実させればカスタム市場での差別化も期待できる。
またEV化が進む2030年代に、軽量クーペボディとモーター駆動の瞬時トルクは好相性で、ハスラークーペEVという将来像も描ける。ここは筆者の将来予想であり現時点で公式計画はない。
ショー展示車の360°静止画が閲覧でき、リアドアハンドル処理など細部が確認可能
ハスラークーペ詳細フォトレポート
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