市販品より安く済むと思って自作すると、材料費だけで3万円超えることがあります。
アッパーマウントとは、サスペンションのショックアブソーバー(ダンパー)上部と車体側のタワー部を接続するパーツです。一般的なストラット式サスペンションでは、このアッパーマウントがダンパーの動きを受け止めつつ、ステアリング操作時の回転を吸収する役割を担っています。
ストロークアップとは、ダンパーが上下に動くことのできる距離(ストローク量)を増やす改造を指します。純正状態ではサスペンションの最大ストロークが限定されており、特にローダウン後は有効ストロークが大幅に減少してしまいます。たとえば車高を40mm下げると、バンプ側のストロークがほぼゼロになる車種もあります。はがきの横幅(約100mm)を思い浮かべると、40mmがいかに大きな変化かイメージできます。
つまり、ストロークが足りないということです。
ストロークアップのためにアッパーマウントを改造または自作する目的は、ダンパーの取り付け位置を車体側で上方にオフセットさせることにあります。アッパーマウント内部にスペーサーを設ける、または座面を加工して高さを変えることで、ダンパー本体を10〜30mm程度上方にシフトさせ、バンプストロークを稼ぐ設計が一般的です。
アッパーマウントには、ピロボールタイプとゴムブッシュタイプの2種類があります。自作の観点では、ピロボールタイプのほうが構造がシンプルで加工しやすい反面、乗り心地への影響が大きく、ロードノイズも増加します。一方、ゴムブッシュタイプは快適性を保てますが、ゴム部品の選定と圧入作業が必要で難易度が上がります。
構造を理解してから加工に入るのが原則です。
自作アッパーマウントに使用する素材の選定は、安全性に直結するため最も重要なステップです。一般的に使用される金属素材はS45CやS50Cといった機械構造用炭素鋼、またはA6061やA7075といったアルミ合金です。
S45C(炭素鋼)は引張強さが約690MPa以上あり、加工性も高いため自作では定番の選択肢です。一方、A7075(超々ジュラルミン)は引張強さが約570MPaと炭素鋼に迫る強度を持ちながら、密度がS45Cの約1/3と軽量で、競技用途では好まれます。ただし、溶接が困難でねじ切り加工時の注意が必要です。
これは素材選びの基本です。
自作に必要な主な工具と材料のリストは以下のとおりです。
旋盤を自前で持っていない場合、近隣の機械加工業者やDIYファクトリー系のシェア工房に依頼することもできます。全加工を外注すると工賃込みで1個あたり15,000〜35,000円程度が目安です。市販のスペーサーキットが8,000〜15,000円で購入できることを考えると、純粋な工賃だけで市販品を超えるケースも少なくありません。
材料費と加工費の合計は想定外になりがちです。
また、ピロボールの選定では「許容アキシャル荷重」と「許容ラジアル荷重」の両方を確認することが重要です。走行中のサスペンション荷重は路面状況によって動的に変化し、静荷重の3〜5倍に達する場面もあります。乗用車1台あたりのバネ上重量を約800〜1,000kgとすると、1輪あたりのバネ上重量は約200〜250kgです。動的荷重を3倍で計算すると、600〜750kgf以上の荷重に耐えるピロボールが必要ということになります。
自作アッパーマウントの設計で最初に決めるべきことは「何mmストロークアップさせたいか」という目標値です。この数値がすべての寸法設計の基準になります。
目標ストロークアップ量の決め方は、現状のバンプストロークの実測から始めます。ジャッキアップしてタイヤを外し、ダンパーがフルバンプする直前のショックアブソーバーの余裕ストロークをメジャーで計測します。この値が現状のバンプストロークです。たとえばこの値が10mmしかない場合、最低でも20〜30mmのストロークアップが必要と判断できます。
ストロークアップ量が決まったら、アッパーマウント座面の高さを同量だけ上方にオフセットする設計にします。ただし、座面を上げすぎるとダンパーロッドの有効長が車体側に干渉する場合があるため、ロッド露出長にも余裕を確認してください。一般的にはストロークアップ量の上限は30mmとされることが多く、それ以上は別途ロッド延長や車高調本体の改造が必要になります。
設計図の作成には、フリーCADソフト「Fusion 360(個人・非商用は無料)」が有用です。3Dモデルで干渉確認ができるため、加工前のミスを防ぎやすくなります。
| ストロークアップ量 | アッパーマウント座面オフセット量 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 10〜15mm | 10〜15mm | 軽いローダウン車のバンプ対策 |
| 20〜25mm | 20〜25mm | 中程度のローダウン・峠走行 |
| 30mm以上 | 30mm以上(要・干渉確認) | 競技車両・ドリフト仕様など |
寸法が決まったら、図面に以下の項目を明記します。
公差設定が仕上がりを左右します。H7公差とは穴の仕上がりを基準とした「はめあい」の規格で、ピロボールが圧入によってしっかり固定される寸法に仕上げるために必要な指定です。これを省略すると、組み付け後にピロボールが抜けてくるという重大トラブルに発展します。
公差の指定は省略厳禁です。
実際の加工手順は、大まかに「外形荒削り→内径加工→座面仕上げ→ボルト穴加工→仕上げ・処理」という流れになります。
まず外形荒削りでは、旋盤を使って素材を指定外径より約0.5〜1mm大きい状態に削ります。その後、内径(ピロボール圧入穴・ロッド貫通穴)を加工します。内径加工は精度が重要で、ボーリングバイトで仕上げて最終的にH7公差に収めます。
座面仕上げは、ダンパーの皿部(スプリングシート当接面)との当たり面を平面度0.05mm以内に仕上げます。この精度が悪いとダンパーが傾いて組み付けられ、直進安定性の悪化やタイヤの偏摩耗につながります。
これは見落としやすいポイントです。
ボルト穴の加工は、フライス盤を使ってPCDの精度を出します。車種専用設計の場合、純正アッパーマウントのボルトピッチと完全一致させる必要があります。旋盤のみで対応する場合は、割り出し台(インデックスプレート)を活用してください。
仕上げ処理については、S45Cの場合は黒染め(四三酸化鉄処理)または塗装による防錆処理が必要です。アルミの場合はアルマイト処理が推奨されます。アルマイトは専門業者に依頼すると1個あたり3,000〜5,000円が目安です。
組み付け時の主なチェックポイントは以下のとおりです。
組み付け後は必ずアライメントを測定・調整してください。ストロークアップによってアッパーマウントの位置が変わると、キャンバーやキャスター角に影響が出ます。特にキャンバー角が想定外に変化すると、タイヤが片減りし、1セット(4本)あたり数万円の交換費用が発生することになります。
アライメント調整は工程に含めるのが原則です。
参考として、ピロボール式アッパーマウントの強度設計や荷重計算については、日本機械学会の「機械設計」関連資料が参考になります。
日本機械学会公式サイト|機械設計・材料力学の技術基準に関する情報が確認できます
自作パーツを車両に取り付ける際、多くの人が「バレなければ問題ない」と考えがちですが、これは大きなリスクを伴います。保安基準の観点では、自作したアッパーマウントは「強度等の基準に適合することを証明する書類」がない限り、車検時に指摘対象となる可能性があります。
車検における構造変更申請が必要になる場合、陸運局での審査が求められます。審査には強度計算書・材料証明書・寸法図面の提出が必要で、審査費用と期間もかかります。費用は車種・変更内容によって異なりますが、申請手数料だけで数万円、期間は数週間から1ヶ月以上に及ぶことがあります。
意外に時間とお金がかかりますね。
一方、「単純なスペーサー追加(ボルトオン)」として扱われるケースでは、既存の取り付け穴を変更せず、強度的にも純正同等以上であると判断されれば、車検を通過できる場合もあります。ただしこの判断は検査員によって異なるため、事前に陸運局に相談することを強くすすめます。
強度不足による走行中のアッパーマウント破損は、ショックアブソーバーの脱落を引き起こします。最悪の場合、タイヤが車体から外れる方向に傾き、コントロールを失う事故につながります。このような整備不良に起因する事故が発生した場合、道路交通法や道路運送車両法の違反として行政処分・刑事罰の対象になり得ます。
保安基準への適合確認は必須です。
自作に不安がある場合は、国内の信頼できるサスペンションメーカーが販売するストロークアップ対応のアッパーマウントキットを活用する方法もあります。たとえばTEIN(テイン)やクスコ(CUSCO)などの国内メーカーが、車種別に対応したアッパーマウントを販売しており、価格帯は1台分(2個セット)で20,000〜60,000円程度です。自作の材料費・加工費・工数を考慮した場合、市販キットのほうがトータルコストで合理的になるケースも多くあります。
TEIN(テイン)公式サイト|車種別アッパーマウントの適合・製品情報が確認できます
CUSCO(クスコ)公式サイト|競技・ストリート向けアッパーマウントの製品ラインナップが確認できます
それでも自作にこだわる場合は、自作品を使用する前に専門の整備工場で強度確認と取り付け確認を依頼することを検討してください。工場によっては持ち込み部品の取り付け検査・確認を行っているところもあります。費用は1時間あたりの工賃(7,000〜12,000円程度)が目安です。第三者の目でチェックを受けることで、走行中のトラブルリスクを大幅に下げることができます。
安全確認を怠らないことが条件です。