レクサスのスピンドルグリルは、2012年にデビューした4代目GSから本格的に採用が始まった革新的なフロントデザインです。それ以前のレクサス車は上下2分割グリルで上が逆台形、下が台形という比較的控えめなデザインでしたが、海外の高級ブランドに対抗するため、より強いインパクトを持つデザインアイコンが必要でした。
BMWのキドニーグリルやアウディのシングルフレームグリルのように、各自動車メーカーがブランドを象徴するフロントデザインを採用する中、レクサスも独自のアイデンティティを確立する必要がありました。スピンドルグリル採用前のレクサスは、エンブレムを外すとどこのメーカーかわからないほど押し出しの弱いデザインでした。
この課題を解決するため、レクサスは上下のグリルを繋いだ一体化デザインを採用し、機能性と美しさを両立させた革新的なフロントフェイスを生み出しました。発表当時は賛否両論ありましたが、継続的な採用により現在では完全にレクサスの象徴として定着しています。
スピンドルグリルの「スピンドル」は、紡績機で糸を巻き取る紡錘(ぼうすい)を指します。この紡錘は横から見ると中央がくびれた形状で、まさに砂時計のような特徴的なシルエットを持っています。レクサスはこの形状をモチーフに、逆台形のアッパーグリルとハの字型のロアグリルを組み合わせて一体化したデザインを創り出しました。
興味深いことに、トヨタグループの本家である豊田自動織機との関連性が噂されていましたが、レクサス側は公式にこれを否定しています。実際の開発意図は「グリルが大きい=高級車のイメージをやめたい」「多くの空気をロワーグリルから取り込むための下側の台形型を発展させた結果」というものでした。
レクサスの開発関係者によると、「スピンドルグリル」という名称を使うことになった当初、世界各国でこの言葉が何を表現するために使われているか、どんなイメージを持たれているかも詳細に調査したといいます。このような綿密な検討を経て、現在の名称とデザインが決定されました。
レクサスのスピンドルグリルは、車種やグレードによって様々なデザインバリエーションが存在します。これにより、統一感を保ちながらも各車種の個性を表現することに成功しています。
車種別デザインの特徴:
これらのバリエーションは、単なるデザインの違いではなく、各車種のキャラクターや用途に応じた機能性も考慮されています。例えば、SUVモデルでは冷却性能を重視した開口部の配置、スポーツモデルでは空力性能を考慮したデザインが採用されています。
2022年に発表されたEV専用モデル「RZ」では、スピンドルグリルの概念が大きく進化しました。EVではエンジン冷却用のラジエーターが不要となるため、従来のグリル機能は必要ありません。しかし、レクサスはブランドアイデンティティを維持するため、「スピンドルボディ」という新たなデザイン手法を開発しました。
レクサスデザインのプロジェクト・チーフ・デザイナーである草刈穣太氏によると、「塊(かたまり)」としてスピンドルを作っていくことに注力したといいます。グリルから一体化してボディを作っていき、ボンネット前端が少し飛び出した独特のグラフィックだけでなく、フードも含めた一体としてスピンドルの形に造り上げていきました。
この進化により、スピンドルグリルは単なるフロントグリルから、車体全体のデザインを統括するコンセプトへと発展しています。これは自動車デザインの新たな可能性を示すものとして、業界内でも注目を集めています。
スピンドルグリルの採用は、レクサスの販売実績に大きな影響を与えました。2012年の採用開始から4年連続で世界販売台数を伸ばし、2016年にはクロスオーバーSUVのNXとRXが販売台数をけん引して67万7,615台を販売しました。
市場での評価ポイント:
2015年3月には、北米市場の高級自動車販売台数でメルセデス・ベンツを抜いて、BMWに次ぐ2位となりました。これは日本の自動車ブランドとしては画期的な成果であり、スピンドルグリルがブランド価値向上に大きく貢献したことを示しています。
インターネット上では賛否両論があるものの、実際の販売数字を見る限り、スピンドルグリルは世界的に評価されているデザインアイコンといえるでしょう。特に海外市場では、日本車の控えめなデザインから脱却した大胆なスタイリングが高く評価されています。
レクサスのスピンドルグリルは、単なるデザイン要素を超えて、ブランド戦略の成功例として自動車業界全体に大きな影響を与え続けています。今後のEV時代においても、スピンドルボディという新たな形で進化を続けるこのデザインアイコンの動向に、世界中の自動車ファンが注目しています。