スバルの3列シート車の歴史は、2008年に発売された「エクシーガ」から始まります。エクシーガは「レガシーツーリングワゴン」をベースとして開発され、3列目シートを備えた7人乗車が可能なモデルでした。このモデルは、ステーションワゴンの実用性とミニバンの乗車定員を両立させた画期的な車種として注目を集めました。
その後、2015年にはエクシーガを大幅改良した「エクシーガ クロスオーバー7」が登場しました。この車種は、ステーションワゴンをリフトアップしたようなスタイルで、まるで「レガシィ アウトバック」を7人乗りにしたかのような外観を持っていました。スバルは、この車種を「7シーターSUV」と呼び、従来のミニバンとは一線を画した新しいカテゴリーの車として位置づけていました。
エクシーガ クロスオーバー7の特徴的な装備として、後列になるほど着座位置が高くなる「シアターレイアウト」を採用していました。これにより、3列目の乗員も快適な前方視界を確保でき、大人が座れるスペースと適度なクッション性のあるシートが用意されていました。
しかし、エクシーガ クロスオーバー7は登場から2年足らずの2017年をもって生産を終了しました。同車を最後に、現在に至るまで、スバルが国内で販売するモデルに3列シート車は存在しません。
現在、スバルの3列シート車として注目されるのが、北米専用モデルの「アセント」です。アセントは2017年秋にロサンゼルスモーターショーで初公開され、2018年から北米市場で販売が開始されました。
アセントの最大の特徴は、その圧倒的なボディサイズです。全長は約5メートル、全幅は1.93メートルという堂々たるSUVで、日本のフォレスターやレガシィ アウトバックよりもはるかに大きなボディを持っています。このサイズは、北米市場の「フォレスターじゃちょっと小さい」と考えるスバルユーザーのニーズに応えるために設計されました。
搭載されるエンジンは、FA24型2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジンで、260馬力/376Nmの出力を発揮します。ドライブトレーンはもちろんスバルお得意のX-MODE AWDシステムを採用し、優れた悪路走破性能を実現しています。
シートレイアウトは全グレードが3列シートとなっており、2列目がベンチシートかセパレートシートかで7人乗りと8人乗りが選択できます。7人乗り仕様の2列目キャプテンシートは、スバルとして初採用となる装備でした。
安全装備については、最新の「アイサイト」を標準装備しており、2023年式では広角単眼カメラ式に進化しています。さらに、レーンチェンジアシストやリアクロストラフィックアラートなどの先進安全装備も充実しています。
スバルが現在日本市場で3列シート車を販売していない理由として、いくつかの要因が考えられます。
まず、3列シートを好むファミリー層には、スライドドアが求められる傾向があることが挙げられます。日本の駐車場事情や乗降のしやすさを考慮すると、多くのファミリーユーザーはミニバンのようなスライドドア付きの車両を選択する傾向があります。
また、日本の道路事情も大きな要因となっています。アセントのような全長5メートル級の大型SUVは、日本の狭い道路や駐車場では取り回しが困難な場合が多く、実用性に課題があります。
さらに、市場規模の問題もあります。日本の3列シートSUV市場は、マツダCX-8やレクサスRX、ランドクルーザーなどが存在しますが、北米市場と比較すると規模が小さく、専用モデルを投入するほどの需要があるかは疑問視されています。
燃費規制や環境性能への要求も、大型3列シートSUVの日本導入を困難にしている要因の一つです。日本の厳しい燃費基準をクリアするためには、車両の軽量化や効率的なパワートレーンが必要となり、大型SUVでは技術的なハードルが高くなります。
スバルの3列シート車が持つ技術的な特徴として、まず水平対向エンジンの採用が挙げられます。この独特なエンジン配置により、車両の重心が低くなり、優れた走行安定性を実現しています。特に3列シート車のような大型車両では、この低重心設計が操縦性の向上に大きく貢献します。
シンメトリカルAWDシステムも、スバルの3列シート車の大きな魅力です。このシステムは、エンジンから駆動輪までの駆動系を左右対称に配置することで、優れたトラクション性能と走行安定性を実現しています。雪道や悪路での走行性能は、他メーカーの3列シートSUVと比較しても高い評価を得ています。
また、スバル独自の「シアターレイアウト」は、3列目の乗員にも快適な視界を提供する画期的な設計です。一般的な3列シートSUVでは、3列目の視界が制限されがちですが、スバルの設計では後列になるほど着座位置が高くなるため、全席から良好な前方視界を確保できます。
アイサイトシステムの搭載も、スバルの3列シート車の重要な特徴です。ステレオカメラによる高精度な前方監視により、衝突回避支援や車線逸脱警報などの安全機能を提供しています。最新のアセントでは、広角単眼カメラも追加され、より幅広い状況での安全支援が可能となっています。
スバルの3列シート車の将来について考える際、まず注目すべきは電動化への対応です。現在のアセントは従来のガソリンエンジンを搭載していますが、今後は電動化技術の導入が予想されます。スバルは2030年代前半までに全世界で販売する新車の40%以上を電気自動車やハイブリッド車にする計画を発表しており、3列シート車も例外ではありません。
日本市場への導入可能性については、複数の要因が影響します。まず、日本の3列シートSUV市場の成長が挙げられます。マツダCX-8が2019年の3列シートSUVで販売台数1位を獲得するなど、一定の需要が存在することが証明されています。
また、近年のアウトドアブームやキャンプ人気の高まりにより、大型SUVへの関心が高まっています。ハイラックスやトライトンなどの大型ピックアップトラックが受け入れられつつある現状を考えると、適切なサイズの3列シートSUVであれば、日本市場でも成功する可能性があります。
技術面では、次世代のアイサイトシステムや自動運転技術の搭載が期待されます。これらの技術により、大型車両でも安全で快適な運転が可能となり、日本の道路事情にも対応できる可能性があります。
さらに、スバルの独自技術である水平対向エンジンとシンメトリカルAWDの組み合わせは、3列シートSUV市場において独特の価値提案となります。他メーカーとの差別化要因として、この技術的優位性を活かした製品開発が期待されます。
製造面では、次期型アセントを日本で生産する可能性も議論されています。これにより、コスト削減と品質向上を両立し、日本市場への導入ハードルを下げることができるかもしれません。
スバルの3列シート車は、技術的な優位性と独特の魅力を持ちながらも、市場環境や規制要件などの課題に直面しています。しかし、適切な戦略と技術開発により、今後も魅力的な選択肢として存在し続ける可能性は十分にあります。特に、電動化技術の進歩と市場ニーズの変化により、新たな展開が期待される分野といえるでしょう。