相対論効果と金の色や錆びにくさの理由

金が金色に輝き錆びない理由は、実は相対性理論と深く関係しています。車のアクセサリーや装飾品として使われる金の特性を、相対論効果という観点から科学的に解説します。なぜ金は特別な輝きを持つのでしょうか?

相対論効果と金の特性

金の特性を理解する3つのポイント
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相対論効果による電子の質量増加

光速に近い速度で運動する電子の質量が増加し、s軌道が収縮・安定化する現象

金色の発色メカニズム

6s軌道と5d軌道のエネルギー差が小さくなり、青色光を吸収して黄金色に輝く

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化学的安定性と錆びにくさ

6s軌道の安定化により電子が取れにくく、酸化されにくい特性を持つ

金は車のアクセサリーやカーエンブレム、内装装飾など、高級感を演出する素材として広く使われています。その美しい金色の輝きと錆びにくい特性は、実は相対性理論という物理の大理論によって説明できる驚くべき現象なのです。金の原子番号は79と大きく、原子核付近の電子は光速の58%ほどの速度で運動しており、この高速運動が相対論効果を引き起こします。
参考)【金はなぜ金色なの?】 相対論効果 Relativistic…

相対論効果が金の電子軌道に与える影響


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相対論効果とは、光速付近で運動する物体の質量が静止時よりも重くなる現象です。金の1s軌道の電子は光速の58%という非常に高速で運動しているため、相対論効果により質量が約1.2倍に増加します。質量が増えた電子は原子核に強く引き付けられ、s軌道が収縮して安定化します。この収縮に伴い、全てのs軌道とp軌道が縮小し、逆にd軌道とf軌道は拡大するという興味深い現象が起こります。
参考)【大学化学】電子の相対論的効果と金・銀の色の違い

軌道が収縮するとエネルギーが下がって安定化し、拡大するとエネルギーが上がります。金では特に6s軌道が顕著に安定化され、一方で5d軌道は不安定化するため、二つの軌道のエネルギー差が小さくなるのです。この相対論効果は原子番号が大きいほど顕著になり、金の一つ上の周期にある銀(原子番号47)では相対論効果が無視できるほど小さくなります。
参考)金の色と相対論効果

金が金色に輝く科学的メカニズム

金が美しい金色に輝く理由は、相対論効果によって6s軌道と5d軌道のエネルギー差が小さくなることにあります。金原子の最低励起エネルギーは約2.4eV(約500nm)という可視光領域に入るため、青色から紫色の光を吸収します。白色光が金の表面に当たると、青色の光だけが吸収され、赤色と黄色の光が反射されるため、私たちの目には金色に映るのです。
参考)金はなぜ金色か - はじめよう固体の科学

もし相対論効果を考慮しなければ、6s軌道と5d軌道のエネルギー差は非常に大きく、紫外線のような高エネルギーの光しか吸収しません。その場合、金は銀と同じように可視光を吸収せず、銀色に見えるはずです。RGBカラーモデルで考えると、赤色(R)と緑色(G)を混ぜると黄色になり、そこに金属光沢が加わることで金色の輝きが生まれます。youtube​
参考)月と金(ゴールド)が青色に見えないのは同じ原理

金が錆びない理由と化学的安定性

金が錆びにくい理由も相対論効果で説明できます。6s軌道が収縮して安定化しているため、電子が非常に取れにくく、イオン化エネルギーが高くなっています。これにより金は酸化されにくく、酸素や水と反応して錆びることがほとんどありません。金は化学的に非常に安定した元素であり、酸やアルカリといった多くの化学物質に対しても反応しません。
参考)金触媒における相対論効果:色と錆びにくさとルイス酸性の意外な…

金のイオン化傾向は極めて小さく、これが酸化されにくさの直接的な原因です。濃塩酸と濃硝酸の混合液である王水以外には溶けないという特性を持ち、この化学的安定性が車のアクセサリーや装飾品として長期間美しさを保つ理由となっています。空気中や水中でも安定して存在し、アンティークの金製品が何百年経っても輝きを失わないのは、この相対論効果による特性のおかげなのです。
参考)金が錆びない金属である理由は? 錆びる例外と錆びにくい貴金属…

金触媒における相対論効果の応用

金の相対論効果は、触媒としての性質にも重要な影響を与えています。均一系の金触媒として知られる塩化金は、ソフトで強力なルイス酸として機能します。金は一価(Au(I))と三価(Au(III))の酸化状態を取ることができ、これも相対論効果で説明できます。​
一つ目の電子は安定化された6s軌道から取れるため取りにくいのですが、二つ目と三つ目の電子はd軌道から取れるため比較的取りやすくなっています。このため、金はイオン化エネルギーが高いにもかかわらず三価の状態も取ることができるという一見矛盾した性質を持ちます。自動車産業における触媒技術においても、金の相対論的特性を活用した研究が進められています。
参考)https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/128104/files/190327-Gima-3207-0.pdf

金と他の金属の比較から見える相対論効果

金の周りの元素、特に水銀(Hg)も相対論効果の影響を受けています。水銀は原子番号80で、金から電子が一つ増えただけの電子配置を持ちますが、常温で液体という特異な性質を示します。金では安定化された6s軌道に電子が一つだけ入っているため化学結合を形成しやすいのですが、水銀では6s軌道が閉殻(電子が2つで満杯)になっているため、他の原子と化学結合を組むことが困難です。youtube​
参考)水銀はなぜ液体か - はじめよう固体の科学

銀(Ag)との比較も興味深い点です。銀は原子番号47と金より小さいため、相対論効果が無視できるほど小さく、4dバンドから5sバンドへの遷移が紫外領域に対応します。そのため銀は可視光を吸収せず、一般的な金属光沢を持つ銀色を示します。このように、周期表で近い位置にありながら、相対論効果の大きさの違いによって全く異なる性質を示すのです。​
参考リンク(相対論効果による金の特性について詳しい解説)。
Chem-Station - 相対論効果と金の性質
参考リンク(金の色を相対論から理解するための化学科コラム)。
東邦大学化学科 - 金の色と相対論効果
参考リンク(金触媒における相対論効果の詳細な解説)。
もろぴーの化学解説 - 金触媒と相対論効果

 

 


時間の日本史 ~日本人はいかに「時」を創ってきたのか~