省エネ法では、一定規模以上のエネルギーを使用する事業者を特定事業者として指定し、その一覧を経済産業省のウェブサイトで公表しています。特定事業者に指定されるのは、事業者全体でのエネルギー使用量が年間1,500kl(原油換算値)以上の事業者です。この基準は、工場や事業場など、事業者が設置するすべての施設におけるエネルギー使用量の合計で判断されます。
参考)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/004/
特定事業者の一覧には、法人番号、事業者名称、本社所在地、代表者名などの情報が掲載されています。また、省エネ法では事業者をS・A・B・Cの4段階にクラス分けする「事業者クラス分け評価制度」が設けられており、特に省エネ取組が優良なSクラス事業者については、資源エネルギー庁のホームページで公表されています。
参考)特定事業者等のクラス分け実施結果(Sクラス公表)
| 事業者区分 | 指定基準 | 主な例 |
|---|---|---|
| 特定事業者 | 事業者全体で1,500kl以上 | 大型製造業者 |
| 特定連鎖化事業者 | フランチャイズチェーン全体で1,500kl以上 | コンビニチェーン本部 |
| 認定管理統括事業者 | グループ企業一括管理 | グループ経営企業 |
| 第一種エネルギー管理指定工場等 | 単独の工場・事業場で3,000kl以上 | 大規模製造工場 |
特定事業者の指定基準となるエネルギー使用量の原油換算値は、電気、ガス、石油などの各種エネルギーを統一的な単位で評価するための指標です。事業者は、使用する各エネルギーを原油換算値に換算し、その合計値で特定事業者への該当性を判断します。
参考)省エネ法の特定事業者とは?要件・義務・罰則を徹底解説【エネル…
省エネ法では、法人格を有する事業者単位でのエネルギー管理が求められています。これは、事業者全体のエネルギー使用量を把握し、効率的な省エネ対策を実施するためです。通常、1つの法人が1つの事業者とみなされるため、子会社や関連会社などは独立した法人として別々に扱われます。
参考)省エネ法のエネルギー管理指定工場等とは?対象事業者や報告義務…
事業者が年度で1,500kl以上のエネルギーを使っている場合、その使用量を国に報告し、特定事業者として指定を受ける必要があります。指定を受けると、省エネ活動に関する体制構築や計画策定、現状報告などの義務が課されることになります。
特定事業者に指定されると、複数の義務が課されます。最も重要な義務の一つは、エネルギーに関する管理者・担当者の選任です。全ての特定事業者は、「エネルギー管理統括者」と「エネルギー管理企画推進者」をそれぞれ1名ずつ選任し、届出をしなければなりません。
参考)https://www.smbc.co.jp/hojin/magazine/planning/about-act-on-the-rational-use-of-energy.html
エネルギー管理統括者は、事業経営の一環として事業者全体の鳥瞰的なエネルギー管理を行い得る者(役員クラスを想定)とされ、選任すべき事由が生じた日以後、遅滞なく選任する必要があります。一方、エネルギー管理企画推進者は、エネルギー管理士免状所有者またはエネルギー管理講習修了者の資格が必要で、選任すべき事由が生じた日から6ヶ月以内に選任しなければなりません。
参考)https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/sho_energy/senkainin.html
さらに、特定事業者は毎年度のエネルギーの使用状況等について、翌年度7月末日までに事業者の主たる事務所(本社)の所在地を所管する経済産業局に定期報告書を提出する義務があります。中長期計画書の提出も必要で、省エネの取り組みで2年連続S評価を取得することで、一定期間提出が免除されます。
参考)省エネ法の特定事業者とは?条件・義務を分かりやすく解説
省エネ法では、特定事業者が義務を履行しない場合の罰則が定められています。エネルギー使用状況届出書を届出しなかった場合や虚偽の届出をした場合は、50万円以下の罰金が科されます。同様に、定期報告書や中長期計画書を提出しなかった場合、虚偽の報告をした場合も50万円以下の罰金となります。
参考)改正省エネ法の罰則
エネルギー管理統括者、エネルギー管理企画推進者、エネルギー管理者、エネルギー管理員の選任・解任の届出について、届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合は20万円以下の過料が科されます。さらに重大なのは、これらの管理者を選任しなかった場合で、100万円以下の罰金が科されます。
参考)https://www.amita-oshiete.jp/qa/entry/000444.php
判断基準の遵守状況やエネルギー消費原単位の推移について、エネルギーの使用の合理化の状況が著しく不十分と認められた場合は、合理化計画の作成指示が出されます。指示に従わない場合には企業名の公表や命令が行われ、命令に違反した場合には100万円以下の罰金に処せられます。
参考)https://www.nta.go.jp/taxes/sake/kankyohorei/pdf/05.pdf
省エネ法は工場や事業場だけでなく、運輸に関する事業者も直接規制の対象としています。輸送部門では、一定以上の車両台数を保有する事業者が「特定貨物・旅客輸送事業者」として指定されます。具体的には、トラックなら200台以上、鉄道なら300両以上の輸送能力を有する者が対象となります。
参考)https://www.nx-soken.co.jp/topics/lreport05
特定貨物輸送事業者には、自家物流を行っている事業者も含まれる点に注意が必要です。つまり、貨物自動車運送事業法といった個別の事業法に基づく許認可を受けた貨物輸送事業者だけでなく、自家用貨物自動車を使用して自家物流を行っている者も対象となります。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kankyo_site/50.sonota/pdf/pamph_gaiyo.pdf
特定貨物・旅客輸送事業者は、エネルギー使用量の削減目標を含む中長期計画を年1回提出する義務が課されます。輸送事業者ごとにエネルギー消費原単位を中長期的に見て年平均1%以上低減させることを目標とすることが規定されています。取組むべき具体的対策として、低燃費車等の導入、エコドライブの推進、貨物積載効率の向上などがあげられています。
省エネ法では、特定事業者の省エネ取組状況を評価するため、「事業者クラス分け評価制度」が設けられています。この制度は、エネルギー効率に優れた企業や工場を特定し、その情報を公表することで、他の企業も省エネルギーへの取り組みを強化するためのものです。
参考)省エネ法に基づく「事業者クラス別評価制度」について教えてくだ…
評価は、基本的に2つの主要な指標に基づいて行われます。第1の指標は、過去5年間でエネルギー効率(原単位と呼ばれる)が1%以上改善されたかどうかです。第2の指標は、業界ごとに設定されたエネルギー効率の基準(ベンチマーク)を達成しているかどうかです。
参考)省エネ法の事業者クラス分け評価制とは?概要や評価基準も解説 …
評価の結果に基づいて、事業者はSクラス(省エネが優良な事業者)、Aクラス(省エネの更なる努力が期待される事業者)、Bクラス(省エネが停滞している事業者)、Cクラス(注意を要する事業者)として分類されます。Sクラスの事業者は、優良事業者として資源エネルギー庁のホームページで公表され、中長期計画書の提出が一定期間免除されるメリットがあります。
参考)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/overview/institution/
| クラス | 評価内容 | 対応 |
|---|---|---|
| Sクラス | 省エネが優良な事業者 | 優良事業者として公表、中長期計画書提出免除 |
| Aクラス | 省エネの更なる努力が期待される事業者 | 通常の対応 |
| Bクラス | 省エネが停滞している事業者 | 注意喚起 |
| Cクラス | 注意を要する事業者 | 指導強化 |
省エネ法の輸送部門規制には、輸送事業者だけでなく「特定荷主」という制度もあります。特定荷主とは、年間の貨物輸送量が3,000万トンキロ以上の事業者を指します。トンキロとは「輸送トン数×輸送距離」で算出される、輸送の質量と距離を表す単位です。
特定荷主として指定されると、中長期計画の提出義務や委託輸送にかかるエネルギー使用状況等の定期報告義務が課されます。特定荷主としては約2,000社が該当し、国内の貨物流動の約7割をカバーするものと想定されています。
荷主に対する取組むべき対策として、モーダルシフト、3PL(サードパーティーロジスティクス)の活用、営自転換などがあげられています。また、貨物輸送の関係者間の連携を深めるための対策として、貨物輸送事業者と着荷主との定例的な懇談会、輸送状況に関する情報交換、商取引の適正化なども盛り込まれています。
車を業務で使う企業にとって、省エネ法の輸送部門規制は重要な意味を持ちます。自家物流を行っている事業者でトラック200台以上を保有している場合は特定貨物輸送事業者として、また年間輸送量が3,000万トンキロ以上の場合は特定荷主として、それぞれ規制の対象となり、エネルギー使用量の報告や省エネ計画の策定が義務付けられます。
省エネ法では、特定事業者や特定荷主がエネルギー使用量を算定する際の方法が定められています。輸送部門における算定方法には、燃料法、燃費法、トンキロ法の3つがあります。
参考)https://www.logistics.or.jp/green/report/pdf/07hint_2.pdf
燃料法は、燃料使用量に単位発熱量を乗じてエネルギー使用量を算出する方法です。計算式は「エネルギー使用量(GJ)=燃料使用量(kl)×単位発熱量(GJ/kl)」となります。この方法は最も基本的で、燃料の購入量や使用量が正確に把握できる場合に適しています。
燃費法は、車両の燃費と輸送距離からエネルギー使用量を算定する方法です。計算式は「エネルギー使用量(GJ)=[輸送距離(km)/燃費(km/l)]×1/1,000×単位発熱量(GJ/kl)」となります。実測で燃費が把握できれば精度が高いですが、混載の場合は荷主別按分が必要となるため詳細なデータ把握が必要となります。
参考)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/transport/institution/
車両ごとまたは同じ車種単位ごとに計測した実測の燃費データを使用するか、改正省エネ法の告示で示された標準値を用いることができます。自家物流を行っている荷主以外においては、燃費値について輸送事業者にデータ提供を求める必要がある場合もあります。
省エネ法は、社会情勢やエネルギー政策の変化に応じて定期的に改正が行われています。2023年4月に施行された改正省エネ法では、法律の名称が「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」に変更され、非化石エネルギーへの転換が新たに法の目的に加えられました。
参考)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/support-tools/data/kojo-kinyuyoryo24.pdf
この改正により、特定事業者は従来の省エネ活動に加えて、太陽光などの非化石エネルギーへの転換に関する取り組みの報告も求められるようになりました。定期報告では、電力・ガス・燃料などのエネルギー使用量や省エネ活動の計画・実績に加えて、非化石エネルギーへの転換状況も所定の様式で提出することが求められています。
参考)物流関連記事|省エネ法における定期報告とは?実施事項や準備・…
事業所管大臣についても変更があり、上水道業の事業所管大臣が厚生労働大臣から国土交通大臣に変更されるなど、行政組織の変更に伴う修正も行われています。特定事業者は、これらの最新の法改正内容を把握し、適切に対応することが求められています。
省エネ法の定期報告書や中長期計画書は、省エネ法・温対法電子報告システム(EEGS)を通じて電子的に提出することが可能となっており、事務手続きの効率化が図られています。特定事業者は、毎年度7月末日までに必要書類を提出する必要がありますが、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
参考)環境省_特定排出者コード検索