シティライン車は、インドのフォースモーターズが2023年4月11日に発売した大型SUVです。このユニークな車両の最大の特徴は、なんといっても4列シートを備えた10人乗りという設定にあります。
車体サイズは全長5,120mm×全幅1,818mm×全高2,027mmと非常に大柄で、トラック譲りのラダーフレームを採用した頑丈な構造となっています。この大きなボディを活かして、前から2人、3人、2人、3人という配置で4列シートを実現し、合計10人の乗員がしっかりと着座できるパッケージングを見事に成立させました。
シートレイアウトの特徴として、全席が前向きシートとなっている点が挙げられます。ただし、4列目シートの後ろには荷物を置くスペースがほとんどなく、多人数乗車時には快適性の工夫が求められる設計となっています。2列目シートは6:4分割で折り畳みが可能で、用途に応じてフレキシブルに使用できます。
シティライン車のデザインは、メルセデス・ベンツの高級SUV「Gクラス」を想起させる角張ったタフなスタイリングを採用しています。この「既視感ありまくり」のデザインは、多くの自動車愛好家の注目を集めています。
ヘッドライトは角張った形状を採用しており、細かいパーツはオリジナルであるものの、全体的にはGクラスっぽさを感じさせるデザインとなっています。フロントグリルやボディラインなど、どこかで見たことがあるようなディテールが随所に散りばめられているのが特徴的です。
このデザインアプローチは、インドの自動車市場における戦略的な選択と考えられます。高級車のイメージを持ちながらも、実用性を重視した設計により、多人数での移動が必要な家族や事業者にとって魅力的な選択肢となっています。
シティライン車のパワートレインには、2.6リッター直列4気筒ディーゼルエンジンが搭載されています。このエンジンは最高出力90馬力(91hp)、最大トルク250N・mを発揮し、かつてメルセデス・ベンツが開発したエンジンをライセンス生産したものとされています。
組み合わされるトランスミッションは5速MTのみというシンプルな設定で、現代的な自動変速機は用意されていません。この選択は、メンテナンスの容易さとコストダウンを重視した結果と考えられます。
ただし、車両重量が3トンを超えることを考慮すると、90馬力という出力は決して十分とは言えません。10人の乗客と荷物を載せた状態では、特に登坂性能や加速性能において制約を感じることが予想されます。しかし、インドの道路事情では通常60-80km/h以上で走行することが少ないため、実用上はそれほど問題にならないとの見方もあります。
シティライン車の価格は約15,000ポンド(約250万円から300万円)に設定されており、10人乗りSUVとしては非常にリーズナブルな価格帯となっています。この価格設定は、インドの自動車市場における競争力を考慮したものです。
フォースモーターズは設立から60年以上の歴史を持つ自動車メーカーで、過去にはメルセデス・ベンツとの業務提携をしていた時代もあります。現在は主にバスやトラックなどの小型商用車やSUVを手掛けており、商用車分野での豊富な経験がシティライン車の開発にも活かされています。
市場での位置づけとしては、大家族や事業者向けの実用的な移動手段として設計されており、高級感のあるデザインと実用性を両立させた独特な存在となっています。特に、多人数での移動が必要な場面では、その真価を発揮することが期待されます。
シティライン車には、同じプラットフォームを用いた姉妹車として「Trax Cruiser(トラックスクルーザー)」が存在します。このTrax Cruiserは、後部に横向きのジャンプシートを備えており、合計13人(12人+運転手)が乗車できる仕様もラインナップされています。
シティライン車は乗車定員こそ少ないものの、全席が前向きシートであることが大きな特徴となっています。これにより、長距離移動時の快適性が向上し、乗客の疲労軽減に貢献しています。
また、フォースモーターズの商用車製造における長年の経験が、これらの多人数乗車車両の開発に活かされています。トラックやバスの製造で培った技術により、頑丈で信頼性の高い車両を提供することが可能となっています。
このような姉妹車の存在により、ユーザーのニーズに応じてより柔軟な選択肢を提供できる体制が整っています。用途や予算に応じて、最適なモデルを選択することができるのも、フォースモーターズの強みの一つです。
海外の自動車愛好家からは「確かに最高の移動手段ではないし、車両としてはかなり古いけど、信頼性があり、頼りになる、簡単な乗り物で多くの人を移動させられる」という評価を受けており、実用性を重視したユーザーには高く評価されています。
一方で、「出力の低いエンジンについては本当にひどい。10人の乗客と荷物で息苦しくて苦しくなるだろう」という指摘もあり、性能面での課題も指摘されています。しかし、インドの道路事情を考慮すると、実用上は大きな問題にならないという見方が一般的です。
シティライン車は、その独特なデザインと実用性により、インドの自動車市場において独自のポジションを確立しています。高級車のような外観を持ちながらも、実用性と価格のバランスを重視した設計により、多様なニーズに応える車両として注目を集めています。
今後、このような多人数乗車車両の需要がどのように変化していくか、また他のメーカーからも類似のコンセプトを持つ車両が登場するかどうかが注目されるところです。シティライン車の成功は、新興国市場における自動車開発の新たな可能性を示すものとして、業界関係者からも関心を集めています。