新東名高速道路の海老名以東への延伸計画は、1966年に制定された国土開発幹線自動車道建設法における「予定路線」として位置づけられています。この計画では、現在の終点である海老名南JCTから東へ延伸し、横浜泉IC(仮称)を経由して東京都内の玉川IC(仮称)まで到達する壮大な構想が描かれています。
計画の背景には、東名高速道路の慢性的な渋滞問題があります。特に海老名JCT周辺では、大和地区を中心とした深刻な交通渋滞が日常的に発生しており、経済活動に大きな影響を与えています。新東名の東京延伸により、この問題の根本的な解決が期待されているのです。
しかし、現実的には多くの課題が山積しています。まず、東京都が現時点で「新東名が都内まで来てほしい」という明確なスタンスを示していないことが大きな障壁となっています。都市計画やまちづくりプランにおいても、新東名の都内延伸に関する具体的な言及は見られません。
新東名の海老名以東延伸には、数多くの技術的課題が存在します。まず、首都圏の高密度な都市開発により、新たな高速道路用地の確保が極めて困難な状況にあります。特に横浜市内から東京都心部にかけては、既存の住宅地や商業地が密集しており、大規模な用地買収が必要となります。
また、環境影響評価の観点からも課題があります。新東名は設計速度120km/hという高規格道路として計画されているため、騒音や大気汚染などの環境負荷を最小限に抑える必要があります。首都圏の人口密集地域を通過する路線では、これらの環境基準をクリアすることが技術的に非常に困難です。
地質的な問題も見逃せません。関東平野の軟弱地盤や、多摩川などの河川横断、さらには既存の鉄道路線との立体交差など、建設工事における技術的ハードルは数多く存在します。これらの課題を解決するためには、最新の土木技術と膨大な建設費用が必要となります。
さらに、新東名の特徴である「極力カーブと勾配を抑えた構造」を首都圏で実現することは、地形的制約により非常に困難です。山間部とは異なり、都市部では既存インフラとの調整が必要となり、理想的な線形を確保することが技術的に困難な状況です。
新東名の海老名以東延伸が実現した場合の経済効果は計り知れません。現在、東名高速道路で最も交通量が多い海老名JCT-横浜町田IC間の渋滞解消により、物流効率の大幅な改善が期待されます。
特に注目すべきは、圏央道南側区間との連携効果です。圏央道南側区間が開通すれば、新東名の延伸と相まって「実質的な新東名の続き」として機能し、横浜横須賀道路から第三京浜、首都高湾岸線への多様な迂回ルートが確保されます。これにより、交通集中時の分散効果が大幅に向上します。
経済効果の試算では、時間短縮効果だけでも年間数千億円規模の便益が見込まれています。特に、首都圏と中京圏を結ぶ物流の大動脈として、製造業や流通業への波及効果は極めて大きいものとなるでしょう。
また、災害時のリダンダンシー(代替機能)の観点からも重要です。東海地震などの大規模災害時に、東名高速道路が被災した場合の代替ルートとして、新東名の東京延伸は国土強靱化の観点からも必要不可欠な社会インフラとなります。
新東名海老名以東延伸の最大の課題は、予算確保と政治的合意形成です。神奈川県は定期的に国に対して「海老名以東への延伸」を要望していますが、具体的な概略ルートの検討や事業化に向けた動きは全く見られません。
この背景には、優先順位の問題があります。現在、新東名の新秦野IC-新御殿場IC間(約25km)の建設工事が進められており、神奈川県としてはまずこの区間の完成を最優先事項としています。限られた予算の中で、海老名以東の検討に予算を割り振る余裕がないのが実情です。
2024年度予算の概要においても、海老名以東の検討については言及されておらず、要望活動などの小規模予算は継続されるものの、踏み込んだ動きは当面期待できない状況です。
国土交通省の道路整備予算全体を見ても、既存インフラの老朽化対策や維持管理費が増大する中で、新規の大型プロジェクトへの予算配分は年々厳しくなっています。特に、建設費が数兆円規模になると予想される新東名の東京延伸は、国家予算レベルでの政治的判断が必要となります。
新東名海老名以東延伸の将来展望を考える上で、現実的なシナリオとしては段階的な整備が考えられます。まず、横浜泉IC(仮称)までの延伸を第一段階とし、その後の東京都心部への延伸を第二段階として位置づける戦略的アプローチです。
技術革新の観点では、自動運転技術の普及により、高速道路の交通容量が大幅に向上する可能性があります。これにより、新規路線建設の必要性が相対的に低下する可能性も考えられます。一方で、物流需要の増大や災害対策の重要性を考慮すると、代替ルートの確保は依然として重要な課題です。
国際的な視点では、2027年のリニア中央新幹線開業により、東海道軸の交通体系が大きく変化します。これに伴い、高速道路ネットワークの再編成が必要となる可能性があり、新東名の東京延伸もその文脈で再評価される可能性があります。
環境配慮の観点では、カーボンニュートラルの実現に向けて、道路交通の効率化がより重要になってきます。新東名の延伸により渋滞が解消されれば、CO2排出量の削減効果も期待できるため、環境政策の観点からも推進の理由となり得ます。
現実的な実現時期としては、最も楽観的なシナリオでも2040年代以降になると予想されます。ただし、これは政治的合意、予算確保、技術的課題の解決など、多くの条件が整った場合の話であり、実際にはさらに長期間を要する可能性が高いでしょう。
新東名海老名以東延伸は、日本の高速道路ネットワークの完成形を目指す上で避けて通れない重要なプロジェクトです。しかし、その実現には技術的、経済的、政治的な多くの課題を克服する必要があり、長期的な視点での取り組みが求められています。