トヨタのクラウンシリーズは、1991年に初代マジェスタをデビューさせ、日本市場に特化した最高級セダンとして30年近くの栄光を手にしていました。マジェスタという名称は英語の「majestic」に由来し、「威厳がある」「堂々とした」という意味を象徴しています。かつては4リッターV型8気筒エンジンを搭載した高級セダンの代表格であり、ショーファーカーとしての地位を確立していました。
しかし2018年に日本市場での販売を終了し、27年の歴史に幕を下ろしました。その背景には、セダン市場の急速な縮小とSUV市場への世界的なシフトがありました。セルシオ(後のレクサスLS)との競合関係、そしてグローバル化するトヨタのブランド戦略において、マジェスタという日本特化型モデルの役割が徐々に薄れていったのです。2022年に16代目クラウンシリーズが発表された際も、マジェスタの復活は予想されていませんでした。
2023年のサウジアラビア市場での再登場は、トヨタが世界的な富裕層市場での高級ブランド展開を再考したことを示唆しています。中東の莫大な石油収益を背景とした消費力は、従来の日本市場とは比較にならないほど強大であり、この地域の高級車需要に応えるための戦略的な判断だったのです。新型マジェスタ復活は、単なるモデル名の再利用ではなく、トヨタの次世代グローバル戦略の象徴となっています。
新型マジェスタ復活の最大の特徴は、セダンからクロスオーバーSUVへの劇的な転換です。世界的なSUV市場の拡大に対応するため、トヨタは伝統的なセダンフォルムを捨て、より実用的でアクティブなボディ形状を採用しました。この判断は、伝統を重んじるユーザーから批判を受ける一方で、新しい顧客層の獲得を実現しています。
搭載される2.4リッター直列4気筒ターボエンジンと高出力電動モーターを組み合わせた「デュアルブーストハイブリッドシステム」は、システム最高出力344馬力を発生します。これは往年の最終型マジェスタが搭載していた3.5リッターV6ハイブリッド(343馬力)とほぼ同等の性能を実現しています。駆動方式は、従来のFRではなく、後輪をモーターで駆動する「E-Four Advanced」電気式4WDシステムを採用することで、路面状況を問わない高い走破性を確保しています。
このパワートレイン構成は、環境対応と高性能の両立を目指すトヨタの最新技術哲学を体現しています。ターボエンジンの過給技術とハイブリッドシステムの組み合わせにより、燃費効率を損なわない範囲での力強い加速性能を実現。中東市場の富裕層が求める「静粛性と動力性の完全なる両立」という要求に、正確に応えるスペックとなっています。
新型マジェスタ復活のボディデザインは、基本的にクラウンクロスオーバーの基本骨格を継承しながら、随所に最上級グレードの証となる高級仕様を纏っています。最も目を引く足元は、専用デザインの21インチ大径アルミホイールで、切削光輝加工とブラック塗装が施された複雑なデザインが車両全体の高級感を一層引き立たせています。
フロントフェイスには、近年のトヨタ車に共通する「ハンマーヘッド」と呼ばれるシャープなデザインフィロソフィーが採用されています。薄く横一文字に伸びるデイタイムランニングランプと、その下に配置された最新型LEDヘッドランプユニットが、先進的かつ威厳ある表情を創出しています。これは往年のマジェスタが備えていた「重厚感」と、2026年の最新デザインが求める「先鋭性」を巧みに融合させた結果です。
サイドビューは、クロスオーバーSUVでありながらもクーペを思わせる滑らかなルーフラインが特徴であり、リフトアップされた車高と大径タイヤがもたらすアクティブな印象は、従来のセダン型マジェスタにはなかった新しい魅力を表現しています。ボディサイド及びリアには「MAJESTA」のエンブレムが配置され、他のグレードとの明確な差別化が図られています。
新型マジェスタ復活の内装は、2026年のテクノロジーと最上級グレードの証となる豪華な仕立てを融合させたものとなっています。ドライバーの目の前には12.3インチのフルデジタルメーターが配置され、その横に同じく12.3インチの大型タッチスクリーン統合ディスプレイが備わり、視認性と操作性を両立した快適な運転環境を実現しています。
ヘッドアップディスプレイ(HUD)が標準装備されることは、往年のマジェスタとの継承性を象徴しています。1991年の初代マジェスタ時代から「当時のセルシオにも非搭載の先進装備」として位置づけられていたHUDが、2026年モデルでも装備される点は、トヨタがマジェスタの伝統的な付加価値を理解していることを証明しています。11個のスピーカーで構成されたJBLプレミアムサウンドシステムは、臨場感あふれる音響空間を演出し、高級ホテルのスイートルームのような快適性を車内に実現しています。
本革シートには前席にベンチレーション機能とヒーター機能が統合され、後席にもシートヒーターが装備されています。夏場の中東市場での蒸し暑さと冬季の冷え込みの両方に対応する仕様は、サウジアラビアの気候を完全に考慮した設計です。パノラミックサンルーフが室内に開放感と明るさをもたらし、高品質なレザーと木目調パネルが随所に使用されており、触覚の次元から上質さを感じることができます。
2025年8月現在の時点で、トヨタから新型マジェスタ復活の日本国内販売に関する公式発表は一切なされていません。しかし、サウジアラビアでの成功が如何ほどのものか、将来的に日本市場への投入を検討する可能性は完全には否定できません。マジェスタという名称に対する根強いファンの熱望は、SNSや自動車愛好家コミュニティで常に話題となっており、このオリジナルマーケットでの需要喚起が経営判断に影響を与える可能性は十分にあります。
現在の日本市場においては、2024年に発売されたクラウン セダンの上級グレードが、実質的にマジェスタの役割を担っているものと見なされています。5メートルを超える堂々としたFRセダンのフォルムと、後席快適性を重視した設計思想は、まさにマジェスタの系譜を直接受け継ぐものです。しかし、最終型マジェスタ(S210型)の中古車価格が約180万円から350万円程度で取引されている現状を見ると、往年のマジェスタに対するノスタルジアは依然として強力であり、新型マジェスタ復活への期待は消費者の中に根強く存在しています。
グローバル化するトヨタの経営戦略において、日本は依然として最重要市場であり、かつてのマジェスタが象徴していた「日本の高級セダン文化」を再興する可能性は十分にあります。2026年以降、トヨタが新型マジェスタ復活を日本市場に展開するかどうかは、中東市場での販売成績と日本の富裕層からの需要動向に大きく左右されることになるでしょう。マジェスタというブランドが再び日本の道を走る日は、決して遠くない未来かもしれません。