高速道路の工事では、通行止めと先頭固定規制という二つの規制方法があります。先頭固定規制がなぜ採用されるのかについて、その効果を理解することが重要です。NEXCO中日本の試算によると、通行止めではなく集中工事の複合規制を実施した場合、年間の工事規制回数が約4300回から約2670回に削減されるという明確な効果があります。つまり、先頭固定規制により、年間1600回以上の規制を回避でき、一般ドライバーの総合的な交通影響を大幅に軽減できるのです。
パトロールカーが先頭で低速走行する主な目的は、前方に車両が存在しない「空白時間」を人為的に作ることです。高速道路での工事作業は、時速100km/hで走行する車両との接触リスクと隣り合わせにあります。規制設置作業や矢印板、ラバーコーンなどの設置では、作業員が本線上で活動する必要があり、この危険性を軽減するために先頭固定規制が不可欠なのです。
複数台の管理車両が横一列に並ぶことで、全車線をふさぎながら走行し、その前方に走行車両がない状態を数分間維持します。このタイミングで作業員が橋の架橋作業、つらら落とし、除雪作業など、本線を横断する必要のある作業を実施するのです。緻密な計算のもとで作業時間、走行速度、規制開始地点が設定され、安全性と交通流の両立が目指されています。
先頭固定規制は、短時間の作業に限定されるわけではなく、多くの実運用が存在します。冬場の除雪作業では路面の雪を除去する必要があり、トンネル内部の「つらら落とし」作業では落ちた氷を取り除く数分間の作業時間が求められます。特に注目すべきは、大規模な架橋工事での活用です。山陽道の上空に架かる東播磨道の橋建設では、移動作業車が橋ブロックを本線上で移動させるため、2週間ごとに先頭固定誘導規制が繰り返し実施されました。夜間22時から翌朝6時までの8時間のうち、約2時間おきに1回の頻度で規制が行われるという計画的な運用が行われています。
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先頭固定規制の実施に際して、警察の協力は不可欠です。白黒のパトカーが1台または2台、先頭車両に追従することで、法的権限と安全性の両面が強化されます。規制箇所付近のインターチェンジ、サービスエリア、パーキングエリアからの本線流入が一時的に封鎖される場合があり、この流入規制もあわせて計画されることで、前方の車両がない状態をより確実に作り出しているのです。
先頭固定による低速走行規制の速度設定は10~20km/h程度に設定されており、管理車両の前方との速度差により通行車両がいない時間を生み出す仕組みになっています。実施にあたっては、緻密な計算のもとで作業にかかる時間、規制の出発地点、走行速度の設定などが割り出され、慎重に計画が立案されるのです。
参考:乗りものニュース「高速道路の『動く交通規制』とは?なぜかノロノロ運転になるパトロールカー」では、先頭固定規制と他の工事規制の比較について詳しく説明
先頭固定規制の仕組みは、レーシングサーキットで使用されるセーフティーカー方式に非常に似ています。危険が発生した際に、レーシングのセーフティーカーが先導して速度を制御するのと同じように、高速道路でも管理車両が前方で低速走行することで、後続車両の速度をコントロールするのです。
この類似性が示唆するところは、「交通の流動性を保ちながら安全性を確保する」という原則です。通行止めは最も安全ですが、交通流への影響が最大です。一方、先頭固定規制は、交通流への影響を最小限に抑えながら必要な安全性を確保する、バランスの取れた規制方法といえるでしょう。冬季の除雪やトンネルのメンテナンス、架橋工事といった必要不可欠な作業を、運転者の流動性を損なわないまま実施できる点に、この規制方法の優れた工夫が表れています。
高速道路で起こる交通流の乱れには、しばしば工事規制が関係しています。先頭固定規制は一見、不便に感じられるかもしれません。しかし、その背後には作業員の安全確保、交通流の維持、そして一般ドライバーの総合的な利便性を両立させるという、緻密に計算された交通規制の運用哲学があるのです。年間数千回の工事規制が安全かつ効率的に実施される仕組みを理解することで、高速道路利用時の視点もまた変わるでしょう。