ラリー競技は「速く走るだけ」ではなく、指定速度の正確さを競う形式もあるため、1戦あたり80万円以上かかる全日本ラリー参戦でも「速さ不要」のクラスが存在します。
ラリー(Rally)という言葉には「再び集まる」「呼び集める」という意味があります。その原点は1911年のラリー・モンテカルロで、当時の参加者はヨーロッパ各地を出発し、険しい山々を越えてモナコへ集合するというイベントでした。現代のラリーはその精神を受け継ぎながら、大きく2つの競技形式に分かれています。
まず代表的なのがSSラリー(スペシャルステージラリー)です。一般道のうち他の交通を完全に遮断した区間=「スペシャルステージ(SS)」を1台ずつ全力走行し、その合計タイムで順位を競います。1つのSSは約5〜20kmほどで、3〜4日間を通じて合計20本前後のSSを走り抜けます。WRC(世界ラリー選手権)や全日本ラリー選手権(JRC)はこの形式です。
対してもう一つの柱がアベレージラリーです。これはラリーの原点ともいえる形式で、速さではなく「指定された平均速度で正確に走行できるか」を競います。コース上の隠しチェックポイント(CP)に、指定時刻ぴったりに到着することが求められ、早くても遅くても減点になります。一読すると驚くかもしれませんが、速く走りすぎると負ける競技なのです。
つまり、ラリー競技は「速さの競技」と「正確さの競技」の2系統が存在するということですね。
アベレージラリーはさらに第1種と第2種に分かれます。第1種は純粋な指示速度遵守の競技。第2種はその上にSS(スペシャルステージ)区間や高速走行区間が加わり、スポーツラリーとも呼ばれます。第2種のSSではCPへの到達時刻が0秒設定となるため、実質的に速さも求められる、より高度な形式です。
アベレージラリーは国内Bライセンスがあれば参加でき、体験会も各地で開催されています。ラリー競技に興味を持ったなら、まず第1種アベレージラリー体験会から参加してみるのが最短ルートです。
参考:JAFモータースポーツ ラリー入門講座(初心者向けの競技参加の流れを詳しく解説)
https://motorsports.jaf.or.jp/enjoy/begin/rally/introduction
SSラリーやアベレージラリーとはまったく異なる世界観を持つのがラリーレイド(クロスカントリーラリー)です。フランス語の「Raid(耐久力を試すイベント)」に由来する名前の通り、砂漠・ジャングル・山岳地帯など、整備されていない大自然の中を数日から数週間かけて走破する耐久競技です。
その最高峰がダカールラリーです。毎年1月に南米や中東で開催され、総距離は約5,000〜8,000km以上に達します。東京から大阪まで約500kmですから、その10倍以上を走り切るスケール感です。四輪車・二輪車・トラック・バギーなど複数のセグメントが同時にスタートするのも、SSラリーとは大きく異なる点です。
ラリーレイドはSSラリーと競技方法も違います。SSラリーが事前のコース下見(レッキ)でペースノートを作成するのに対し、ラリーレイドでは本番直前に主催者から「ロードブック」という地図情報が渡されます。GPSやトリップメーターを使いながら未知のルートを進むため、ナビゲーション能力が勝負を分ける重要な要素になります。これはかなりの違いですね。
ラリーレイドのエントリー費用は高額で、ダカールラリーへの参戦では約330万円ものエントリーフィーが必要です。加えて遠征費・パーツ代・輸送費などを含めると、1大会だけで数千万円規模になるケースも珍しくありません。それだけに、プロチームだけでなくアマチュアの「挑戦者」たちが世界中から集まる夢舞台でもあります。
参考:JAMA BLOG「今さら聞けない」シリーズ ラリー/ラリーレイド用語(SSS・リエゾン・ペースノートなど専門用語を図解で詳説)
https://blog.jama.or.jp/?p=8139
ラリー競技を語るうえで欠かせないのが「路面の種類」です。同じSSラリーでも、路面が変わればまったく別の競技に近い難しさが生まれます。主に3種類に分けられます。
| 路面種類 | 概要 | 代表的なイベント |
|---|---|---|
| ターマック | 舗装路。アスファルトや荒れた舗装など多様 | ラリー・モンテカルロ、Rally 三河湾(JRC第1戦) |
| グラベル | 未舗装路。砂利・泥・岩盤・砂地など | ラリー北海道(JRC)、ダカールラリー(砂漠) |
| スノー | 雪・氷路面 | ラリー・スウェーデン、ラリーフィンランド |
ターマック(舗装路)はグリップが高い分、コーナリングスピードも上がります。車高を低く設定して空力性能を最大限に活かすのが基本セッティングです。一方で荒れた舗装(ブロークンターマック)が混じる場合は、路面の読みが難しくなります。
グラベル(未舗装路)はサスペンションを高く設定し、ダートの掘り返しや石はねに耐えられる仕様にします。後続車が走るほどラインが荒れていくため、出走順が成績に大きく影響するという特徴があります。これは意外ですね。先に走る車のほうが不利になることもあるのです。
スノー(雪・氷路面)はスパイクタイヤを使用するケースもあり、グリップを確保する技術と路面温度の読みが勝敗を分けます。同じグラベルでも岩盤質の硬い路面から砂地のやわらかい路面まで千差万別で、天候次第で状況が刻一刻と変化するのがラリーの醍醐味です。
路面の違いがそのままクルマのセッティング変更につながるため、全日本ラリー選手権でもグラベル戦とターマック戦ではタイヤから足回りまで大幅に変更が必要です。1戦ごとにタイヤ代だけで約25万円かかるという現実があります。タイヤ選択が勝敗に直結するということですね。
参考:JRCA(日本ラリー競技選手協会)「ラリーってどんな競技?」(路面種類・競技ルール・全日本ラリー選手権の概要を解説)
https://www.jrca.gr.jp/guide/whats
ラリーの選手権は国際的なヒエラルキー構造になっており、頂点から入門まで段階的に整備されています。
まず世界の頂点がWRC(FIA世界ラリー選手権)です。1973年に創設され、50年以上の歴史を持つ最高峰カテゴリーです。ヨーロッパや南米ではF1に匹敵する人気を誇り、1大会の総走行距離は1,000〜1,500kmにも達します。現在はトヨタGRヤリスが強さを見せており、2019年から5年連続のドライバーズタイトルを獲得しています。
WRCの下にはFIA地域選手権があり、アジア・パシフィックラリー選手権(APRC)などが該当します。さらに国内では全日本ラリー選手権(JRC)が最高峰として機能し、北海道から九州まで年間8〜9戦が開催されます。JRCの下には各地方の地方選手権・県シリーズが続きます。
全日本ラリー選手権への参戦コストはリアルです。1大会あたりの目安はエントリーフィー約20万円・サービス費用15万円・タイヤ代25万円・宿泊交通費10万円・メンテナンス費10万円で計約80万円。年間9戦フル参戦すれば単純計算で720万円以上になります。
初心者にとっての入口として特に有効なのがTRDラリーチャレンジ(トヨタGAZOO Racingラリーチャレンジ)です。国内Bライセンス取得後、比較的リーズナブルな参加費(1組約12,000円の体験走行会も開催)で参戦できるため、ラリー入門の登竜門として定着しています。JAF公認競技のため、ここでの実績を積んで全日本選手権へのステップアップを目指せます。
また、日本国内で唯一WRCが開催されるラリージャパン(愛知県・岐阜県)は世界最高峰のラリーを間近で体感できる機会です。全日本ラリー選手権の多くが無料観戦できるのに対し、ラリージャパンは有料チケット制となっています。サービスパークでのドライバーとの交流や、豊田スタジアムを使ったスーパースペシャルステージ(SSS)観戦が特に人気です。
参考:TOYOTA GAZOO Racing「全日本ラリーとは」(選手権の体系・参戦方法・スケジュールを網羅)
https://toyotagazooracing.com/jp/jrc/about/
F1やサーキットレースと違い、ラリーはドライバーとコ・ドライバー(ナビゲーター)の2名1組で戦います。これはラリー競技が持つ最大の独自性です。
コ・ドライバーの主な役割はペースノートの読み上げです。ペースノートとは、SSを事前に下見走行(レッキ)した際に記録する「走行台本」のことです。次のコーナーのきつさ・直線距離・路面の障害物・ジャンプポイントなど、コースの全情報を記録します。
競技本番では、このペースノートをコ・ドライバーが声に出してドライバーに伝え続けます。「R3、クレスト、L4+」といった記号で表現される情報を、ハイスピード走行中のドライバーが正確に受け取れるよう、絶妙なタイミングで読み上げる技術が求められます。ドライバーは前方を見ながら、耳に入る情報だけで次の状況を把握するのです。
大切なのは、ドライバーが記憶できる量だけを、ちょうどよいタイミングで読み上げることです。
ペースノートがあるということは、コースを一から暗記する必要がありません。F1ドライバーが何十回もコースを走り込むのとは対照的に、ラリーは「完全に知らないコースを全力で走る」スポーツです。ここが他のモータースポーツとの大きな違いです。
コ・ドライバーのスキルが勝敗に直結するため、トップクラスでは専任のコ・ドライバーと長期的にコンビを組みます。全日本ラリー選手権でも、ドライバーランキングと同様にコ・ドライバーランキングが別立てで管理されており、その重要性が公式に認められています。
また、アベレージラリーではコ・ドライバーが「ラリーコンピュータ」を操作し、指示速度と実際の速度の差を計算してドライバーに伝えます。コ・ドライバーの計算精度が直接「減点の少なさ」につながるため、ナビゲーションの腕前が問われるカテゴリーといえます。コンビの信頼関係が条件です。
参考:JAMA BLOG「今さら聞けない」シリーズ 及び toyotatimes-sports「コ・ドライバーの技術に迫る」(コドライバーの役割をペースノートとともに詳解)