日本の警察車両は長年にわたってセダン型が主流でしたが、近年SUV型パトカーの導入が急速に進んでいます。この変化の最大の要因は、2024年1月1日に発生した能登半島地震での教訓です。
石川県警では、地震による道路損壊や土砂崩れで主要道路が寸断され、従来のセダン型パトカーでは被災地への到達が困難になりました。この経験を踏まえ、車高が高く四輪駆動機能を持つSUVパトカー4台を新たに導入しました。
導入されたのはトヨタ「RAV4」をベースとした車両で、1台あたり約500万円の費用がかかっています。これらの車両は珠洲、輪島、七尾の3警察署と県警本部に配備され、災害発生時の情報収集やパトロール活動により効果的に対応できるよう設計されています。
全国各地で導入されているSUVパトカーは、地域の特性に応じて様々な車種が選択されています。特に注目すべきは、佐賀県警が導入したトヨタ「ハイラックスサーフ」です。
この車両の最大の特徴は、運転席側面のAピラー部分に取り付けられたエンジン吸気用のシュノーケルです。これにより、タイヤやエンジンルームに水がかかるような冠水場所でも、一般的な車両より安全に走行することが可能になっています。
佐賀県は平野部が多く、大雨時の冠水リスクが高い地域特性を考慮した装備といえます。同県警では「SUVタイプの車両は車高が高く悪路に強いため、災害が発生した際の活躍が期待される」と説明しています。
その他にも、以下のような多様なSUVパトカーが各地で活躍しています。
SUVパトカーの中でも特に注目を集めているのが、トヨタからの寄贈により誕生した「クラウンスポーツ」パトカーです。この車両は全国でたった1台しか存在しない極めて希少なパトカーで、愛知県警に配備されています。
クラウンスポーツパトカーはPHEV(プラグインハイブリッド)システムを搭載しており、災害時の電源車としても機能します。停電により使用できなくなった信号機や警察施設への電源供給など、様々な用途での活躍が期待されています。
導入価格はトヨタ側の意向により非公表となっていますが、グレードがSPORT RSであることから、車体価格765万円に警察装備品の架装費用を合わせて約1000万円程度と推定されています。
この車両は広報車という名目で納入されているため、基本的に取り締まり活動には従事しませんが、車内にはサイレンアンプやマイク、速度計測用のストップメーターが装備されており、交通取り締まり用パトカーと同等の仕様となっています。
SUVパトカーの導入が進む一方で、技術的な課題も存在します。最大の問題は、警察庁が定める厳格な仕様基準への適合です。
従来のセダン型パトカーは、長年にわたって蓄積されたノウハウに基づいて設計されており、特にトヨタ「クラウン」には専用のパトカーグレードが設定されています。しかし、SUVパトカーの場合、車種ごとに個別の対応が必要となり、コストや開発期間の面で課題があります。
また、SUVパトカーは以下のような運用上の特徴があります。
これらの課題を解決するため、各メーカーは警察向けの専用仕様開発を進めており、将来的にはより多くのSUVパトカーが標準化される可能性があります。
アメリカでは、日本よりも早くパトカーのSUV化が進んでいます。長年アメリカの警察車両を代表していたフォード「クラウン・ビクトリア・ポリスインターセプター」の生産が2011年に終了したことを受け、フォード「エクスプローラー」に代表されるSUVパトカーが急速に普及しました。
アメリカでのSUV化の理由は以下の通りです。
現在、アメリカの警察車両は「フォード・ポリスインターセプター・ユーティリティ」「ダッジ・パーシュート」「GM・ポリス・パーシュート・ヴィークル」などのSUVが主流となっています。
日本でも、アメリカの動向を参考にしながら、独自の地域特性や災害対応ニーズに応じたSUVパトカーの開発・導入が進んでいます。特に、日本特有の狭い道路事情や災害の多様性を考慮した仕様が求められており、今後もこの傾向は続くと予想されます。
日本の自動車メーカーも、プリウス、カムリ、アルティマなどがアメリカでパトカーとして使用されており、国際的な警察車両市場での競争力向上にも寄与しています。