日産ジュークRは2011年10月に正式発表された、世界でも類を見ない革新的なクロスオーバーSUVです。このプロジェクトは「世界最速のクロスオーバー」を目指し、日産テクニカルセンター・ヨーロッパが主導となって開発されました。
開発には英国のレイ・マロック・リミテッド社が参画し、同社はBTCC(英国ツーリングカー選手権)で日産をタイトルに導いた実績を持つ名門チューナーです。生産はセバーン・バレー・モータースポーツが担当し、まさに英国のモータースポーツ界の精鋭が結集したプロジェクトとなりました。
このモデルの最大の特徴は、日産のフラッグシップスポーツカーGT-Rの心臓部を、コンパクトSUVのジュークに移植したことです。単なるエンジン移植ではなく、ドライブトレインや4WDシステム、ブレンボ製ディスクブレーキ、RAYS製アルミホイール、さらにはステアリングやメーター類まで、GT-Rのコンポーネントを徹底的に移植しています。
初代ジュークRに搭載されたのは、GT-R 2010年モデルをベースとした3.8リッターV型6気筒ツインターボエンジン「VR38DETT」です。このエンジンには専用チューニングが施され、487馬力を発揮します。
性能面では、0-100km/h加速がわずか3.7秒、最高速度は257km/hを記録しています。これは通常のジューク(4WD、欧州仕様)の0-100km/h加速8.6秒、最高速200km/hと比較すると、まさに別次元の性能です。
興味深いことに、ベースとなったGT-R 2010年型の0-100km/h加速3.5秒、最高速度311km/hと比較すると、ジュークRは加速性能でGT-Rにほぼ匹敵し、最高速度では若干劣るものの、SUVとしては驚異的な数値を叩き出しています。
市販モデルでは2012年型GT-Rのドライブトレインが搭載され、出力が553馬力まで向上しました。この性能向上により、ランボルギーニやフェラーリなどのスーパーカーと互角以上の勝負を繰り広げる動画が話題となりました。
2015年6月25日、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにて、さらなる進化を遂げた「ジュークR 2.0」が披露されました。この2.0バージョンは、ジュークの販売5周年を記念して開発されたモデルです。
ジュークR 2.0の最大の特徴は、ベースエンジンがGT-Rのハイエンドモデル「GT-R NISMO」に変更されたことです。これにより最高出力は600馬力まで向上し、まさにモンスター級の性能を実現しました。
外観面でも大幅な変更が加えられ、よりGT-Rに近づいた形状のバンパーが装着されました。デザインは初代の奇抜さを保ちながらも、より洗練された仕上がりとなっています。
残念ながらジュークR 2.0は市販されませんでしたが、17台の生産計画があったとされています。しかし実際の生産台数はそれよりも少なかった可能性が高く、まさに幻のスーパーカーとなりました。
当初ジュークRはワンオフのショーカーとして製作されましたが、2012年5月3日に英国日産が限定生産を正式決定しました。この決定により、世界で最も希少なスーパーカーSUVの一つが誕生することになりました。
生産計画では17台から23台の製造が予定されていましたが、実際にはわずか5台しか生産されませんでした。さらに驚くべきことに、この5台のうち2台は日産が保管していたため、実際に一般に販売されたのはたった3台のみでした。
価格設定も話題となり、当時のレートで約5000万円という「ぶっ飛んだ」価格が設定されました。この価格は当時の高級スーパーカーと同等以上の水準で、ジュークRの特別さを物語っています。
この希少性により、ジュークRは現在では伝説的なモデルとして語り継がれています。2012年のドバイ24時間耐久レースでペースカーを務めたことも、その特別な地位を示すエピソードの一つです。
ジュークRの登場は、自動車業界に大きな衝撃を与えました。従来のSUVの概念を覆し、「クロスオーバーSUVもスーパーカーになれる」という新たな可能性を示したのです。
このモデルの独自性は、単なる高性能化にとどまらず、異なるカテゴリーの車両を融合させた点にあります。コンパクトSUVの実用性とスーパーカーの性能を両立させるという、当時としては前例のない挑戦でした。
また、ジュークRは日産の技術力の高さを世界に示すショーケースとしても機能しました。GT-Rで培った技術を他のモデルに応用する可能性を実証し、日産のエンジニアリング能力の幅広さをアピールしました。
現在でも、多くの自動車メーカーが高性能SUVを開発していますが、ジュークRのような極端なアプローチを取るモデルは少なく、その先駆性は今なお評価されています。
さらに興味深いのは、ジュークRが単なる技術実証車両ではなく、実際に公道走行可能な車両として設計されていたことです。FIAの安全基準を満たすロールケージやバケットシート、5点式シートベルトを装備しながらも、公道走行に必要な法規をクリアしていました。
GT-R生産終了の発表とともに、ジュークRのような極端なプロジェクトが再び実現される可能性は低くなりましたが、その遺産は確実に自動車業界に刻まれています。