免許証の持ち込み写真が「厳しい」と感じられる最大の理由は、従来、判定基準が曖昧だったことです。警察庁の統計によると、条件を満たしているはずなのに却下された申請が相次ぎました。2021年9月の通達では、国家公安委員長が「申請者の利便性向上のため、個人識別が容易な写真は受け付ける」との基本的な考え方を示しました。しかし現場では、依然として厳格な運用が続いており、「規定を満たしても断られた」という苦情は後を絶ちません。
持ち込み写真の審査が厳しい理由は、画像をスキャンして免許証に転載する技術的制限にあります。スキャン過程で画質が劣化するため、原版となる写真は完璧である必要があります。また、システムが顔認証に使用するため、顔部分の面積が写真全体の3分の1前後であることが重要です。このセンシティブな要求が、多くの申請者を悩ませています。
さらに、都道府県によって判定基準に微妙な差があることも問題です。東京都で受理された写真が大阪府で却下されるなど、地域差が生じています。内閣府規制改革推進室に寄せられた声によると、「人物の影が写り込んでいた」という理由で却下された事例も報告されており、細部への厳格さが顕著です。
持参写真が却下される理由の大多数は、見落としやすい細部にあります。最も多いのが「背景への影の映り込み」で、自然光で撮影した際に自分自身や撮影者の影が背景に落ちることが原因です。これは規定上「無背景」という条件に抵触するため、一見しただけでは問題なくても却下される傾向があります。
次に多いのが「頭上の余白不足」です。免許証システムでは、顔全体を正確に認識するため、頭上に最低限のマージンが必要です。「顔をより大きく見せたい」と頭を上に詰めた写真は、システムの読み込み時にエラーが生じるため却下されます。一般的には頭頂部から写真上部まで約2~3cm程度の余白が目安とされています。
また、背景と服装の色が同化しているケースも多くの申請者が経験しています。例えば、白い背景に白いシャツを着用した場合、肩のラインが明確でなくなり、識別が困難になります。写真スタジオではこうした点をチェックしてくれますが、セルフ撮影では見落としやすい要素です。
持参写真でしばしば問題になるのが、受理後の「画質変化」です。申請者が高画質で撮影した写真でも、免許センターのスキャナーでデジタル化される際に、色合いが沈むか鮮やかすぎる方向へ変わり、輪郭がぼやける傾向があります。これは機械の特性によるもので、避けられません。
実際に、複数の申請者が「思っていたのと異なる仕上がり」と報告しています。特にスマートフォン撮影で多いのが、撮影環境の色温度の違いによる色味の変化です。寒色系で撮影すると、スキャン後は暖色系に補正されることもあり、当初の印象とは異なる免許証写真となる可能性があります。
こうした事態を防ぐために、持参予定の写真をあらかじめ複数回、異なる条件下で撮影しておくことが有効です。背景の色を数種類試す、照明角度を変える、肌色が自然に見える服装を検討するなど、「スキャン後も劣化に耐える」基準で選別することが重要です。本来は修正不可の写真ですが、複数の選択肢を用意することは規定違反ではありません。
2021年9月の警察庁通達は、市民からの多数の苦情を受けての改善でした。それまでは、警察窓口の職員による属人的な判断が蔓延しており、同じ条件の写真でも受理・却下が分かれるケースが多発していました。この不透明性が社会問題化し、内閣府規制改革推進室へ苦情が集中したため、官房長官の指示で基準見直しが行われました。
具体的には、条件緩和が実施されました。2021年以前は許可されていなかったカラーコンタクトやサングラス、「微笑程度」の笑顔が認められるようになりました。また、日常的に使用している眼鏡やカツラの着用も可能になり、より多くの申請者が「ありのままの姿」で撮影できる環境が整備されました。
しかし、これらの緩和にもかかわらず、現場では依然として厳しい運用が続いているという報告も聞かれます。警察庁の通達では「受理できない場合は理由を明確に説明すること」と都道府県警察に指示していますが、実装が進みきっていない地域も存在します。この点では、最新の基準を事前に確認することが、申請者側の重要な自衛手段となっています。
持参写真での免許証申請には、いくつかのリスクがあります。最も大きなリスクは「当日に交付されない」という点です。通常、免許センターでの撮影なら即座に免許証が発行されますが、持参写真の場合は1~2時間の待機が生じることが多く、多くの都道府県では「後日交付」と明記しています。この点は官公庁サイトでも確認できますが、予期しない時間的負担が生じます。
さらに、持参写真の場合は前日までの予約が必須です。また、都道府県によっては「1日20人まで」と人数制限を設けているところもあり、先着順の申請になります。時間帯によっては予約が埋まっており、希望日時での申請ができない事態も考えられます。このため、免許の有効期限に十分な余裕を持って、2~3週間前からの段階的な準備が推奨されます。
万が一、会場で写真が却下された場合のリスクも考慮する必要があります。その場で撮影し直す際、メイクや髪型の修正ができない環境では不利な写真になる可能性があります。対策として、持参当日でも会場での再撮影に応じられるよう、「会場でも撮り直せる」という認識で訪問することが大切です。一部の免許センターでは会場に証明写真機が設置されており、その場で対応できるケースもあります。
■ 持参写真の規格詳細:警視庁「免許写真判断基準チェック表」
https://www.police.pref.tokyo.lg.jp/
■ 関連情報:北海道警察の免許用写真基準
https://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/guide/menkyo/menkyo-syashin.html
■ 埼玉県警の持参写真による免許更新案内
https://www.police.pref.saitama.lg.jp/f0110/menkyo/kousin-jisansyashin.html