車のガソリンタンクの構造と燃料システム完全解説

自動車の燃料タンクは単なる燃料貯蔵容器ではなく、安全性と効率性を両立した精密なシステムです。内部構造から材質、配置まで詳しく解説。あなたの愛車の燃料システムを理解していますか?

車のガソリンタンクの構造

車のガソリンタンクの構造
基本構造

外側シェル、内部バッフル、燃料ポンプで構成される精密システム

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安全装置

圧力調整バルブ、フィルター、ロールオーバーバルブで多重安全対策

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材質と工法

軽量化と防錆を実現する樹脂製タンクとブロー成形技術

車のガソリンタンク本体の基本構造と主要部品

現代の自動車のガソリンタンクは、単純な燃料貯蔵容器ではありません。外側のシェルと内部のバッフルプレートで構成される精密なシステムです。

 

外側のシェルは燃料を外部から保護する役割を果たし、内部には燃料の偏りを防ぐバッフルプレートが設置されています。このバッフルプレートは、車両の加速や減速、旋回時に燃料がタンク内で偏ることを抑制する重要な部品です。

 

タンク内部には以下の主要部品が組み込まれています。

  • 燃料ポンプ: モーター駆動による電動式で、燃料をエンジンに供給
  • 燃料フィルター: 異物混入を防ぐためタンク内の取り入れ口に設置
  • 燃料計用フロート: 液面高さを測定してメーターに電気信号を送信
  • フューエルベーパーバルブ: 燃料蒸気による圧力上昇時に圧力を解放

燃料ポンプは直流整流子モーターを採用する電動フューエルポンプが一般的で、ポンプ自体はタービン式が多く採用されています。モーターの回転軸に備えられたインペラーという羽根車が回転することで燃料を圧送する仕組みです。

 

車のガソリンタンクの材質と製造工法の進化

従来のガソリンタンクは防錆塗装を施した鋼板製が主流でしたが、現在では軽量化が可能な樹脂製フューエルタンクが主流となっています。

 

現代の樹脂製タンクには、燃料蒸散規制に対応するため、特殊な多層構造が採用されています。

  • HDPE(高密度ポリエチレン): 外層と内層
  • EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体): 中間層
  • ブロー成形工法: 複雑な形状を効率的に製造

この3層構造により、低燃料ガス透過性を実現し、ガソリンが蒸発して気体となった蒸気(エバポガス)の大気放出を大幅に削減しています。

 

樹脂製タンクの利点は軽量化だけでなく、防錆性能とスペース効率の向上にもあります。複雑な車体形状に合わせて自由度の高い設計が可能で、車内空間を最大限活用できます。

 

車のガソリンタンクから給油口までの燃料供給システム

給油口を開けた時に見えるのは実は燃料タンクではありません。給油口から燃料タンクまでは「フィラーパイプ」と呼ばれる給油パイプで繋がっており、このフィラーパイプを通じて燃料が車両下部に設置された燃料タンクに入ります。

 

フィラーパイプの特徴。

  • 材質: 黒い樹脂製のホースが多く採用
  • 長さ: 車種によっては1mほどの長さ
  • 容量: 約3リッター程度の燃料を蓄えることが可能
  • 構造: 燃料キャップ、フィラーネック、フィラーチューブで構成

フィラーパイプは車両衝突時の衝撃に備え、燃料タンクと柔軟に接続されています。この設計により、事故時の燃料漏れリスクを最小限に抑えています。

 

また、フィラーパイプには給油時に内部の空気を排出するため、ブリーザーチューブという細いチューブが平行して備え付けられています。このシステムにより、スムーズな給油が可能になっています。

 

車のガソリンタンクの安全装置と圧力管理システム

現代のガソリンタンクには、火災や爆発を防ぐための多重安全対策が講じられています。

 

主要な安全装置。

  • インレットチェックバルブ: 満タン時の燃料逆流防止
  • フィルリミットベントバルブ: 給油量の規制
  • ロールオーバーバルブ: 転倒時の火災防止
  • フューエルベーパーバルブ: 圧力上昇時の安全弁

特に注目すべきは、ハイブリッド車の普及に伴う新たな課題への対応です。エンジンが停止している時間が長くなることで、ガソリンタンク内では燃料蒸発による圧力が高まりやすくなっています。

 

この問題に対処するため、最新の技術では「高圧密閉タンク構造」が開発されています。FRP(繊維強化プラスチック)でタンク外周を補強し、内部には柱構造を設けることで、高圧に耐えられる構造を実現しています。

 

車のガソリンタンクの配置戦略と重量バランス設計

燃料タンクの搭載位置は、単純にエンジンに近い場所に設置すれば良いというものではありません。車両の重量配分、コスト、安全性など、様々な条件を総合的に考慮して決定されています。

 

フロントエンジン車の配置パターン

  • リア配置: 給油口が後方、燃料タンクもリア側
  • フィラーパイプ: 短い
  • 燃料系統配管: 長い
  • メリット: 重量バランスの改善
  • フロント配置: 給油口が後方、燃料タンクがフロント側
  • フィラーパイプ: 長い(最大1m程度)
  • 燃料系統配管: 短い
  • メリット: コスト削減、整備性向上

特殊な配置例

  • ポルシェ(RR車): 前輪車軸付近に燃料タンク配置
  • ハイエース: セカンドシート下に配置
  • トラック: シャーシにステーとバンドで固定

燃料の重量も設計上重要な要素です。ガソリン70リッターで約52kgの重量が加わるため、フロントに重量が集中しすぎる場合は、リアに燃料タンクを配置してバランスを保っています。

 

また、燃料タンクは車両の保安基準「最低地上高9cm」を満たす必要があり、下げすぎると基準に適合しなくなるほか、車両底部の接触による破損リスクも考慮する必要があります。