現代の自動車用燃料タンクは、主に鋼板製と樹脂製の2つのタイプに分類されます。鋼板製タンクでは、錆を防ぐためのめっき鋼板が使用され、隙間のできないシーム溶接で組み立てられています。溶接の起点と終点は交わる形で重ね合わされ、タンク外側には防錆塗装が施されています。
一方、樹脂製タンクは軽量性と複雑な形状への対応力で注目されています。かつては燃料成分の透過が問題となっていましたが、現在では多種の樹脂を何層にも重ねて成形することで、この課題を克服しています。
樹脂製タンクの最大の利点は、サスペンション、駆動系、排気管やマフラーとのクリアランスを最小限とする複雑な造形でも低コストで量産できることです。これにより、限られた車内スペースを有効活用した設計が可能になっています。
燃料タンクの中核を成すのが燃料供給システムです。このシステムは、フューエルポンプ、燃料レベルセンサー、フィラーパイプなど複数の部品で構成されています。
フューエルポンプは、タンク内に設置されるサブマージ方式が一般的で、燃料をエンジンへ確実に送り出す役割を担っています。このポンプは、燃料に浸かった状態で動作するため、冷却効果と静音性を両立しています。
燃料レベルセンサー(フューエルゲージセンサーユニット)は、浮き(フロート)が上下することで燃料レベルを測定し、運転席の燃料計に情報を送信します。このセンサーの精度は、ドライバーの燃料管理において極めて重要な要素となっています。
フィラーパイプは給油口と燃料タンクを繋ぐ重要な部品で、樹脂製、ステンレス製、鉄製高防錆タイプなど様々な材質があります。車種によっては1mほどの長さになることもあり、燃料を蓄える役目も果たしています。
現代の燃料タンクには、様々な安全機能が組み込まれています。最も重要なのがカットオフバルブで、車両が横転した際にガソリン漏れを防ぐ装置です。この装置は、重力や衝撃を感知して自動的に燃料の流出を遮断します。
ブリーザーパイプ(チューブ)は、給油時のタンク内の空気抜きと満タン給油の規制を行います。給油量がブリーザーパイプの高さに達すると、空気ではなくガソリンがパイプを逆流し、給油ノズルが感知して給油を自動停止させる仕組みです。
セパレーターは、燃料タンク内のガソリンの流動を抑制し、流動音などを防ぐプレートです。これにより、急加速や急ブレーキ時の燃料の偏りを防ぎ、安定した燃料供給を維持しています。
さらに、ブラダータンクという革新的な技術も開発されています。これは、タンク内部にゴムなどの伸縮素材で作られた袋を入れて、燃料蒸気(ヴェイパー)の発生を抑制しながら燃料残量や内圧の変化にも対応できる仕組みです。
燃料タンクの設置位置は、安全性と車両設計の両面から慎重に決定されています。一般的には、ホイールベース間の床下に設置されることが多く、これは衝突時の安全性を考慮した配置です。
しかし、車種によっては後部座席や助手席の下に配置されるケースも増えています。これは、車内空間の有効活用と重量配分の最適化を図るためです。
形状についても、従来の単純な箱型から大きく進化しています。プロペラシャフトとの干渉を避けるための鞍型タンクや、床下空間を有効活用するためのL字型、複雑な凹凸を持つ形状など、車種に応じて様々な工夫が施されています。
これらの複雑な形状は、樹脂製タンクの加工しやすさによって実現されており、限られたスペースでの容量確保に大きく貢献しています。
燃料タンクのメンテナンスについて、多くのドライバーが誤解している点があります。かつては「水抜き」が必要とされていましたが、現在の燃料タンクでは基本的に不要となっています。
これは、最近の燃料タンクがサビに強い樹脂系材料を採用していたり、高度な防錆加工が施されているためです。従来の鉄製タンクで問題となっていた結露による水分発生とサビの問題が、材料技術の進歩により解決されています。
ただし、燃料タンクは車両の下部に剥き出しで設置されているため、段差での損傷には注意が必要です。特に、バンパーよりも燃料タンクの方が低く設置されている車種では、段差通過時に慎重な運転が求められます。
燃料計の給油口位置表示機能も、意外と知られていない便利な機能です。メーターパネルの燃料計にある三角マーク(◁または▷)が、給油口の位置を示しており、レンタカーや慣れない車両での給油時に役立ちます。
現代の燃料タンクには、環境規制に対応した蒸発ガス回収システムも組み込まれています。これは、燃料の蒸発による大気汚染を防ぐための重要な機能で、キャニスターと呼ばれる活性炭フィルターで蒸発ガスを吸着・処理しています。
また、寒冷地仕様の車両では、燃料の凍結を防ぐためのヒーターシステムが装備されることもあります。特にディーゼル車では、軽油の流動性確保のため、このシステムが重要な役割を果たしています。