新型トヨタ・クラウンスポーツが登場した時、最も頻繁に比較対象として名前が挙がったのがポルシェ・マカンです。この比較が繰り返される理由は、単なる見た目ではなく、数値データに基づいた明確な共通点にあります。
両車のボディサイズを並べて比較すると、その類似性は驚くほど明らかになります。クラウンスポーツの全長が4,710mmに対し、マカンは4,726mm——わずか16mmの差に過ぎません。全幅ではクラウンスポーツが1,880mm、マカンが1,927mmで47mm差、全高ではそれぞれ1,560mmと1,621mmで61mm差となっており、ミドルクラスSUVのカテゴリー内でほぼ同等のプロポーションを持っています。
さらに注目すべきは、ホイールベースの近さです。クラウンスポーツの2,770mmに対してマカンは2,807mm——わずか37mmの差です。このようにタイヤの外径までほぼ同じという点は、横から見たシルエットが酷似していると感じさせる最大の要因となっています。
クラウンスポーツがマカンをベンチマークに開発された可能性も指摘されています。ポルシェ・マカンは現在のポルシェ販売を支える柱であり、その完成度は世界的に高い評価を得ています。トヨタがグローバル展開を見据える中で、このライバルを詳細に研究したことは十分推測可能です。
一見すると似ているクラウンスポーツとマカンですが、フロントデザインを細部まで観察するとブランドアイデンティティの違いが明確に現れます。
クラウンスポーツは薄型の切れ長ヘッドライトと細い上部グリル、そしてバンパー下部に大きな開口部を持つ意匠を採用しています。このフロントフェイスはトヨタの新世代デザイン言語を忠実に反映したもので、先進的で鋭い表情を表現しています。
一方のマカンは、ポルシェ伝統のティアドロップ形ヘッドライトに大型のセンターグリルとサイドエアインテークを配した、より攻撃的で存在感のある顔つきです。ライト形状の違いだけでも、クラウンスポーツの「鋭い眼光」とマカンの「力強い迫力」という異なる印象を生み出しており、同じSUVカテゴリーであってもブランドごとの哲学が明確に表現されています。
また、フロントオーバーハングの短さはどちらも共通していますが、全体のフロント開口部の大きさや形状は大きく異なります。マカンはより大きく堂々とした開口部を持つ傾向があり、クラウンスポーツはより整理された洗練された開口部デザインとなっています。
クラウンスポーツが「高級SUVに似ている」と感じさせる最大の要因は、側面から見たシルエットの類似性にあります。クーペSUV的な流麗なシルエットが両車に共通しており、これが「似ている」という印象を強く与えています。
クラウンスポーツもマカンも、フロントからリアに向けてルーフが緩やかに下降し、キャビン後半が絞り込まれるデザインを採用しています。このスポーツカーのような躍動感を演出する手法は、SUVが単なる実用車ではなく、走る喜びを提供する乗り物へと進化していることを示す象徴的なデザイン表現です。
特にクラウンスポーツのデザイン哲学は「リアビュー重視」で開発されており、盛り上がったリアフェンダーが造形上のハイライトとなっています。この張り出した後輪周りのラインはマカンにも共通するグラマラスな表現で、セクシーさを感じさせる共通項があります。しかし、詳細に比較すると、リアフェンダーの膨らみ具合、サイドウィンドウの形状、ドアハンドルの位置や形状にはそれぞれの個性が明確に表現されています。
ポルシェ・マカン以外にも、クラウンスポーツはランボルギーニ・ウルスと比較されることがあります。この比較は、低い車高とワイドなボディプロポーションという共通項に基づいています。
ウルスは「スーパーSUV」というジャンルを確立した車で、角ばった戦闘機のような独自デザインが特徴です。クラウンスポーツとウルスは、細部こそ大きく異なりますが、SUVながらも一般的な車高より低く構える点では共通しており、スポーティでワイドな佇まいを演出しています。
クラウンスポーツ発表当初、SNS上では「ウルスに見える」との投稿も相次ぎました。特にリアクォーターからの眺めで両車とも後輪上部に張り出しがあり、力強い印象を与えるため、角度によっては「一瞬ウルスかと思った」という声も生じています。
しかし実車を前にすると、クラウンスポーツはウルスのような攻撃的でアグレッシブな表情ではなく、洗練された上品さとスポーティさのバランスを取った独自のデザイン表現となっていることが明白です。ウルスが「暴力的な美」ならば、クラウンスポーツは「知的な美」と表現できるでしょう。
クラウンスポーツが複数の高級SUVと「似ている」と話題になった背景には、現代SUVデザインが向かう共通方向があります。デザイン評論の世界では、「近年のSUVブームの中で各社デザインが収斂してきている」という見方が一般的です。
SUVは人気カテゴリーゆえに多くのモデルが乱立し、空力や安全要件、顧客の好みといった制約の中で必然と似たようなスタイルに向かう傾向があります。つまり「デザインの類似は珍しくないが、それをもって即パクリとは言えない」というのが専門家の共通見解です。
クラウンスポーツのチーフデザイナーである宮崎氏は「タイヤは大きい方がいい」「ホイールベースは短めがいい」といった「カッコよさの普遍的要件」を突き詰めたと語っており、それは欧州デザイナーたちとも共通認識だったと述べています。つまり、複数の企業が同じ出発点に立つと、自動的に似たような形態へ収斂していくのです。
これはまるで進化論における「収斂進化」のようなもので、全く異なる企業が同じ制約条件下で最適な解を求めると、似た結果に到達するということです。クラウンスポーツの「高級SUVと似ているデザイン」は、単なる模倣ではなく、SUVデザインの最先端にある必然的な形態と言えるのです。
写真を通じたSNS発信では、平面的な見た目だけで判断がなされやすく、「◯◯に似ている」という投稿が連鎖的に拡散されました。しかし実車を間近で見ると、質感の違い、細部のディテール、全体の雰囲気は全く異なることが明白になります。オーナーからは「見た目は似ていても乗ると全く違う」「実車の完成度の高さに驚いた」という声が相次いでいます。
実際にクラウンスポーツを購入したユーザーの中には、元々ポルシェ・マカンに長年乗ってきた人もいます。その人は「最初は違和感があったものの、乗り慣れるにつれ『これはこれでアリ』と思えてきて、最終的には高い評価を与えるに至った」と述べており、「トヨタ車が売れるのも頷ける」と感心したほどです。
海外メディアの評価も興味深いもので、米自動車メディアCarscoopsは「クラウンスポーツはその外観の類似性からしばしば日本の廉価版フェラーリ・プロサングエとして例えられるが、実際には独自の魅力を備えた完成度の高い車」とコメントしており、むしろ肯定的に受け取られています。
海外フォーラムでは「トヨタがよく我慢して大口のグリルを付けずに済ませた。こんな風にワゴン的なクロスオーバーは素晴らしい。スポーティで目立つ車を作ったトヨタに称賛を送りたい」といったコメントも見られ、「パクリ」ではなく「進化と挑戦の結果」として評価する向きも強いのです。
レスポンスの読者アンケートでは、クラウンスポーツのライバルとして1位ハリアー(22.5%)、2位マカン(17.5%)、3位レクサスNX(15%)が上位を占めており、市場で認識されるライバル関係が明確に示されています
クラウンスポーツのライバル車について、自動車メディアの調査では興味深い結果が出ています。読者アンケートの結果では、第1位がトヨタ・ハリアーで22.5%の得票率を集め、第2位がポルシェ・マカンで17.5%、第3位がレクサス・NXで15%という僅差での上位3車種集中という構図が明らかになっています。
これは単なる偶然ではなく、市場が認識する競合関係の実態を示しています。ハリアーとマカンはクラウン・クロスオーバーのライバルでも上位にランクインしており、これら3車種がSUVカテゴリーの中核を担うポジションにあることを示唆しています。
SNS上での表面的な議論と異なり、実際にクラウンスポーツを所有してから数ヶ月が経過したオーナーからは、意外にも肯定的な評価が聞こえてきます。
元々ポルシェ・マカンに長年乗ってきたあるオーナーは、クラウンスポーツへの乗り換え初期段階では「写真で見るほど似ていない」と感じ、さらに乗り進むにつれて「実車の雰囲気は全く違う」と気付いたと語っています。特に1ヶ月半が経過した段階では「最初は違和感があったものの、今では『これはこれでアリ』と思えてきた」とのコメントを寄せており、購入への後悔はなく、むしろ「高評価を与えるに至った」と述べています。
このオーナーの最終的な感想は「トヨタ車が売れるのも頷ける」というもので、高級欧州車ユーザーからのこうした評価は、クラウンスポーツがいかに完成度の高い車であるかを物語っています。見た目の類似に惑わされることなく、実際の運転感や操作性、内装の質感を体験することで初めて、その真の価値が理解されるということです。
Business Insiderでは、新型クラウンスポーツがフェラーリ・プロサングエのデザインを模倣したのではないかという議論を取り上げており、専門家による検証が行われています
クラウンスポーツとフェラーリ・プロサングエの比較も、SNS上で話題になった一つです。フェラーリ初のSUV「プロサングエ」は超高額な4ドアSUVですが、クラウンスポーツと発表時期が近かったこともあり、「ヘッドライトの形状が似ている」「遠目には双子のよう」とささやかれています。
実際、両車ともフロントライトが細く横一文字に伸びる先進的なデザインを採用している点は共通しており、それが「顔つきが似ている」と感じさせた最大の要因と言えます。しかし詳細に比較すれば、プロサングエはフロントグリルレスで大開口を持つ攻撃的な表情で、クラウンスポーツとは細部で明確に異なります。
このような各所での比較から浮かび上がるのは、クラウンスポーツが「スーパーブランドのSUVを直接真似た証拠は存在しない」ということです。むしろ「最新SUVデザインのトレンド上での必然的な類似」と見るのが、自動車業界の専門家の共通見解となっています。
「なぜクラウンスポーツは高級SUVと似ていると言われるのか」という問いに対する答えは、単純な模倣ではなく、現代SUVデザインの進化の過程にあります。
クラウンスポーツが登場した2022年時点で、トヨタがグローバル展開を本格化させるにあたり、従来の日本市場中心だったクラウンブランドを世界で戦えるプレミアムブランドへと刷新する必要がありました。その過程で「美しいデザイン」と「楽しい走り」を追求した結果、従来の日本車にはない流麗でスポーティなスタイルが誕生しました。
このデザイン方針は、実は欧州の高級SUVと同じ出発点に立っていたのです。「カッコよさの普遍的要件」——大きなタイヤ、短いホイールベース、低い車高、ワイドなボディといった要素——は、どの企業でもグローバルスタンダードとして認識されている価値観です。
SNSの拡散効果で、「◯◯に似ている」という投稿が連鎖的に広がり、ウェブ上では「パクリ疑惑」が一人歩きしてしまいました。しかし自動車業界の常識では、各社が切磋琢磨し、良いものは取り入れながら進化していくのは自然なプロセスです。
クラウンスポーツはその事例として、「日本の自動車デザインが世界基準に追いついた——あるいは追い越した——」ことの証としても機能しています。デザインの表面的な類似性よりも、その背後にある開発思想や完成度の高さを評価すべき車といえるでしょう。
単なる「パクリ騒動」として片付けるのではなく、日本のもの作りが到達した新たなステージを示す事例として、クラウンスポーツを捉え直す必要があります。写真だけでは伝わらない質感と存在感は、実車を前にしたとき初めて理解されるのです。