本人尋問を欠席した瞬間、あなたの主張がすべて相手の言い分に塗り替えられます。
交通事故が起きて示談交渉が決裂した場合、最終的に裁判へと進むことになります。裁判では書面による主張のやり取りが中心ですが、争点が事故態様や過失割合に関わる場合、裁判所が「当事者の言葉で直接確認したい」と判断したとき、本人尋問の手続きが行われます。
本人尋問が特に必要とされるのは、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像がなく、事故状況に関する当事者の言い分が真っ向から食い違っているケースです。たとえば、どちらが優先道路を走っていたか、交差点進入時の速度、信号の色など、書面だけでは決め手に欠ける場合が典型です。
逆に言えば、客観的な映像証拠が存在するケースでは、本人尋問なしに和解が成立することもあります。これは意外ですね。ドライブレコーダーを搭載していることで、裁判の早期解決につながるケースが実際に存在するのです。
交通事故裁判の審理期間は、裁判所の統計によれば平均12.4ヶ月とされており、そのうち約16.7%が6ヶ月以内に終結しています。本人尋問は裁判の最終盤、判決の直前に行われることが多く、裁判全体の流れの中でも特に重要な場面となります。
本人尋問の流れとしては、事前に「陳述書」を作成して提出し、当日は主尋問・反対尋問・補充尋問という順番で質疑が進みます。所要時間は当事者1名につき30分〜60分程度が一般的です。
参考:本人尋問の具体的な流れと尋問事項について詳しく解説されています。
交通事故裁判の尋問事項まとめ【当日の流れ・準備や服装も紹介】|弁護士法人VS総合法律事務所
「仕事が忙しいし、弁護士に任せておけばいいだろう」——そう思っているドライバーは要注意です。本人尋問に限っては、弁護士による代理出廷は認められません。
民事訴訟法第208条には、次のように明記されています。
「当事者本人を尋問する場合において、その当事者が、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓若しくは陳述を拒んだときは、裁判所は、尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる。」
つまり、正当な理由なく欠席した場合、裁判所は相手方の主張を「真実」として扱えるようになります。これが「真実擬制」と呼ばれる制度です。
具体的にどういう状況が起きるか、考えてみましょう。たとえば過失割合で争っていて、あなたが「過失は20%のみ」と主張し、相手が「あなたの過失は80%」と主張しているとします。この状況で本人尋問を無断欠席すると、裁判所は相手の「過失80%」という主張を真実と認める可能性が生じます。総損害額が500万円だった場合、20%過失なら自己負担が100万円で済むところが、80%過失では400万円もの自己負担になりかねません。差額は実に300万円です。
欠席した後で意見を改めて述べることも一切できません。これは取り返しのつかない不利益です。
もちろん「真実と認めることができる」という規定であり、裁判所が必ず相手方の主張を採用するわけではありません。ただし、重大な不利益を受けるリスクが極めて高いことは間違いなく、欠席という選択肢は事実上ありえないと覚えておく必要があります。
参考:民事訴訟法208条の解釈と本人尋問欠席時のリスクについて詳しく解説されています。
【裁判の流れ】交通事故の裁判に要する期間とその負担|立花法律事務所
本人尋問の欠席がすべて致命的な不利益につながるかというと、そうではありません。「正当な理由がなく」という条件がついているため、正当な理由があれば話は変わります。ここが重要です。
正当な理由として認められやすいのは、病気・入院による体調不良(医師の診断書が必要)、交通事故や災害などの不可抗力、家族の危篤・葬儀などの緊急事態です。これらの場合、事前に裁判所へ連絡し、診断書などの証明書類を添付して期日変更を申請することで、尋問が延期されるケースが多いです。
逆に「仕事が外せない」「遠方で交通費がかかる」といった理由は、正当理由として認められにくい傾向があります。厳しいところですね。
無断欠席と正当理由ありの欠席では、結果に雲泥の差があります。無断欠席の場合は前述の真実擬制が発動するリスクがありますが、正当理由が認められれば期日が変更されるだけで、主張の機会を失うことはありません。
出廷できないと分かった時点でとるべき行動は、以下の順番で動くことが原則です。
いずれにせよ、欠席が見込まれる場合は「できるだけ早く」対応することが鉄則です。期日の直前になればなるほど、変更が認められにくくなります。
「交通事故裁判に出廷しなければならない」と聞くと、毎回の期日に顔を出さなければいけないイメージを持つ方も多いでしょう。実は、本人尋問以外の通常の期日は、弁護士に依頼していれば本人が出廷する必要はありません。
裁判は1〜1.5ヶ月に1回のペースで進みますが、書面のやり取りが中心のこの期間は、弁護士が代理人として対応します。裁判所への出廷も弁護士が担当するため、被害者本人が毎回法廷に座る必要はないのです。
さらに興味深い事実があります。第1回口頭弁論期日について、被告側(多くの場合、相手保険会社側)は答弁書を提出した上で欠席するケースがほとんどです。答弁書さえ提出すれば、第1回期日の欠席は「欠席判決」の対象にはなりません。これは適法な手続きとして運用されています。
ただし「答弁書も提出せず、期日にも一切出廷しない」という完全な無視の場合は別問題です。この場合は原告の主張がすべて認められた「欠席判決」が下ります。保険会社が関わる事案ではまず起こりませんが、任意保険未加入の加害者本人と直接やり取りするケースではありえます。
弁護士費用特約が自動車保険に付帯されている場合、弁護士費用は最大300万円まで保険で賄えるため、裁判まで至ったほとんどのケースで自己負担がゼロになります。弁護士費用特約の有無を今すぐ確認することをお勧めします。
参考:通常期日の欠席扱いと欠席判決の仕組みについて分かりやすく解説されています。
交通事故裁判の流れや費用・期間を徹底解説|デイライト法律事務所
本人尋問への出廷が決まったら、準備を怠らないことが大切です。尋問の内容はすべて「尋問調書」として記録され、判決の証拠となります。準備なしに臨むのは非常に危険です。
まず、当日までに弁護士と打ち合わせを重ねて「陳述書」の内容を熟知しておきましょう。主尋問では陳述書の内容に沿って回答することが基本になります。ただし、尋問中はメモや書類を見ながら回答することが原則として認められていないため、記憶だけが頼りとなります。
当日の持ち物は、印鑑(認印、スタンプ式不可)、ボールペン、本人確認資料(運転免許証など)の3点が基本です。開廷10分前には到着して、出頭カードの記入に対応できる余裕を持ちましょう。
服装については規定はありませんが、スーツや清潔感のある服装が無難です。裁判官への印象は、言葉だけでなく見た目も関係します。
反対尋問での注意点を以下にまとめます。反対尋問は相手方弁護士が動揺を誘って失言を引き出そうとする場面でもあり、冷静さが特に重要です。
ドライブレコーダーの映像が存在する場合は、当日の証拠として裁判所に提出済みであることを確認しておきましょう。映像という客観証拠があれば、本人尋問での証言との整合性を確保しやすくなります。
参考:尋問当日の注意事項と反対尋問への対応方法について詳しく解説されています。
車好きで愛車にこだわるドライバーほど、ドライブレコーダーの重要性を意識しているはずです。しかし、その映像が裁判での本人尋問にまで影響するとなると、少し意外に感じるかもしれません。
ドライブレコーダーの映像は、交通事故裁判において最も強力な客観証拠のひとつです。映像があれば、事故態様の争いに決着がつきやすく、当事者尋問自体が不要になるか、あっても短時間で終わることが多い傾向があります。逆に言えば、ドライブレコーダーがない場合は本人尋問が事実上「最後の砦」となります。
つまりこういうことですね——映像証拠がないケースほど、本人尋問での発言が判決を左右します。
ドライブレコーダーには、前方だけでなく後方や車内を記録するタイプもあります。後方からの追突事故でも、映像があることで相手方の速度や車間距離を証明しやすくなります。裁判まで進んだ際の本人尋問の負担を減らすためにも、前後2カメラタイプへのアップグレードを検討してみることも一つの選択肢です。
また、事故発生後は映像データを速やかにコピーして保管することが重要です。ドライブレコーダーは上書き記録をするため、時間が経つと事故映像が消えてしまいます。事故発生後はすぐにSDカードを抜くか、専用アプリで保存するかして、データを保護することをお忘れなく。
万が一、裁判に至った際には弁護士に映像データを提出して判断を仰ぎましょう。弁護士が映像の証拠価値を評価し、本人尋問でどのように活用するかを戦略的に判断してくれます。
参考:ドライブレコーダーの映像が裁判での証拠として持つ意味について解説されています。