高速道路における落下物の発生状況は想像以上に深刻です。国土交通省の統計によると、令和4年度の高速道路会社による落下物処理件数は25万8千件に達しており、これは1日平均847件という驚異的な数字です。
この数字にはロードキル(野生動物の死亡事故)は含まれておらず、純粋に車両からの落下物のみを対象としています。落下物の種類は多岐にわたり、以下のようなものが頻繁に発見されています。
特に注目すべきは、2024年2月に名神高速道路で発生した事故です。前方のトラックから落下したビンのような物体がフロントガラスを貫通し、運転者が重傷を負うという深刻な事故が発生しました。また、同年6月には東名高速道路で金属製フェンス約20枚が数キロにわたって散乱し、26台の車両が被害を受ける大規模な事故も起きています。
高速道路で落下物を発生させた場合の法的責任は、道路交通法第75条の10「自動車の運転者の遵守事項」に基づいて厳格に定められています。
道路交通法第75条の10の内容
運転者は高速道路を運転する前に、燃料や積み荷の状態を点検し、燃料切れで運転できなくなることや積み荷を転落させることを防止するための措置を講じなければなりません。
処罰の内容
落下物を発生させた場合の処罰は以下の通りです。
興味深いことに、過失犯の罰金額(10万円以下)が故意犯の罰金額(5万円以下)よりも高く設定されています。これは故意犯には懲役刑の選択肢があるためで、「過失ゆえ懲役は勘弁するが、罰金額は高くする」という法的な考え方が反映されています。
実際のところ、高速道路で落下物を発生させても発覚する確率は極めて低いのが現実です。2022年度の落下物処理件数が25万8千件であったのに対し、2023年の積載物転落違反の取り締まり件数はわずか518件でした。これは発覚率が約0.2%という計算になります。
発覚しにくい理由
発覚するケース
一方で、以下のような場合は発覚リスクが高まります。
特に、落下物が原因で他の車両に損害を与えた場合は、民事責任も発生するため注意が必要です。
高速道路で発見された落下物は、各高速道路会社の専門チームによって迅速に回収・処理されています。回収された落下物の処理方法について、多くの人が疑問に思うのは「持ち主を特定するのか」という点です。
落下物の処理プロセス
持ち主特定の実態
実際のところ、落下物の持ち主を特定することは稀です。理由として以下が挙げられます。
ただし、以下のような場合は持ち主の特定が行われることがあります。
落下物事故を防ぐためには、運転前の点検と適切な積載方法が不可欠です。以下に実践的な対策法を示します。
出発前の点検項目
適切な積載方法
積載物の種類に応じた適切な固定方法を選択することが重要です。
軽量物品の場合
重量物品の場合
バイクの場合
トップケースの落下事故も頻発しているため、以下の点に注意が必要です。
走行中の注意点
緊急時の対応
万が一、走行中に積載物の異常を感じた場合は。
これらの対策を徹底することで、落下物事故のリスクを大幅に軽減できます。特に業務で頻繁に高速道路を利用する運送業者や建設業者は、定期的な安全教育と点検体制の確立が重要です。
高速道路での落下物は、発覚する確率は低いものの、一度事故が発生すれば重大な結果を招く可能性があります。法的な処罰を避けるためだけでなく、他の道路利用者の安全を守るためにも、適切な積載と点検を心がけることが全てのドライバーの責務といえるでしょう。