コンパクトクルーザーEV復活の可能性とFJクルーザーの進化

トヨタのコンパクトクルーザーEVは2021年に発表されたコンセプトカーで、FJクルーザーの後継として注目されています。デザイン賞受賞の実績もあるこの電動SUVは果たして市販化されるのでしょうか?

コンパクトクルーザーEV復活の可能性

コンパクトクルーザーEVの概要
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2021年発表のコンセプトカー

トヨタのEV戦略発表会で16台のうち1台として公開

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2022年カーデザイン賞受賞

イタリアの権威ある賞のコンセプトカー部門で評価

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フランスED2でデザイン

ニースのデザインセンターが中心となって開発

コンパクトクルーザーEVの発表背景と戦略

トヨタは2021年12月14日のバッテリーEV戦略発表会で、2030年までに30車種のEVを世界市場に投入する計画を発表しました。この野心的な計画の中で、コンパクトクルーザーEVはコンセプトカーを中心とした16台のEVの1台として世界初公開されました。

 

このコンセプトカーは、フランス・ニースに拠点を置くトヨタの欧州デザイン部門「トヨタED2(Toyota Europe Design Development)」のチームが中心となってデザインされています。トヨタデザインのシニアゼネラルマネージャー、サイモン・ハンフリーズ氏は「EVの研究は30年以上続いており、長い道のりを歩んできた。顧客はEVについて話し、ライフスタイルを表現するゼロエミッション車を望んでいる」と語り、コンパクトクルーザーEVがこのトレンドに合致することを強調しています。

 

特に注目すべきは、このモデルがアクティブでアウトドアレジャーを楽しむ若者をターゲットとしていることです。都市部の若いユーザーに向けて、トヨタのオフロードの強い伝統に基づいた独自の魅力的な四輪駆動EV体験を提供することを目指しています。

 

コンパクトクルーザーEVのデザイン特徴とFJクルーザーとの関係

コンパクトクルーザーEVのデザインは、多くの自動車愛好家にFJクルーザーを彷彿とさせます。しかし、デザイナーたちは「初代ランドクルーザーとトヨタにおけるオフロードの伝統」からインスピレーションを得ており、つまりはレトロフューチャーなFJクルーザーとの類似性を持っています。

 

外観の特徴として、以下の要素が挙げられます。

  • 角ばったシルエット: オフローダーをイメージさせるワイルドなスタイリング
  • 大きなコの字型ヘッドライト: 力強いデザインを演出
  • 「TOYOTA」ロゴ配置: フロントグリルでオフロード感を強調
  • 樹脂パーツの多用: 前後バンパーやサイド部、ワイドなフェンダーに装着
  • スキッドプレート: 前後に装着されたオフロード仕様

興味深いことに、FJクルーザーの特長だった丸型ヘッドライトは、最新のLED技術を使ったスリムな角型ライトに置き換えられています。一方で、ブルーのボディカラーに樹脂ブラックのバンパーとフェンダーエクステンション、四角いドアミラー、太いリアピラーなどに、FJクルーザーの特徴が継承されています。

 

コンパクトクルーザーEVのカラーバリエーションと内装

トヨタの欧州部門は、世界初公開から半年後にコンパクトクルーザーEVの新たなCGを公開し、多様なカラーバリエーションを提案しています。

  • ビーチ仕様: イエローのボディにシルバーのライン
  • マウンテン仕様: グリーンのボディにオレンジのライン
  • ランドスケープ仕様: シルバーのボディにオレンジのライン

これらのバリエーションは、さまざまなシーンに合う個性的なスタイルを提案しており、ユーザーのライフスタイルに応じた選択肢を提供することを意図しています。

 

内装については詳細な発表はありませんが、欧州トヨタが公開したプレゼン動画内で内装CGが確認できます。水平基調のインパネに大画面の液晶ディスプレイを組み合わせ、楕円のような独特な形状のステアリングホイールが特徴的です。ブラック基調のインテリアにはオレンジ加飾が用いられ、アクティブな内装となることが予想されます。

 

コンパクトクルーザーEVの市販化可能性と課題

コンパクトクルーザーEVの市販化については、現時点では正式な発表がありません。しかし、2022年6月に「2022カーデザインアワード」のコンセプトカー部門を受賞したことで、再び注目を集めています。

 

市販化の可能性を考える上で重要なのは、FJクルーザーの販売実績と課題です。FJクルーザーは2006年に北米で発売され、日本では2010年から2018年まで販売されましたが、そのユニークなデザインにも関わらず、日本での売れ行きは期待ほどではありませんでした。

 

FJクルーザーが抱えていた課題。

  • デザインの個性が強すぎる: 一般ユーザーには「使いこなせそうにない」という印象
  • 実用性の問題: 観音開きドアによる乗降性の悪さ
  • 燃費性能: 4リッターV6エンジンで実燃費5km/L強

一方で、EV化によって解決される課題もあります。

  • 環境性能: ゼロエミッションの実現
  • トルク特性: EVの瞬発力がオフロード走行に適している
  • 静粛性: 電動化による騒音の大幅な削減

コンパクトクルーザーEVの技術的優位性と市場での位置づけ

コンパクトクルーザーEVが市販化された場合、電動SUV市場での独自のポジションを確立する可能性があります。トヨタのオフロード技術とEV技術の融合により、以下のような技術的優位性が期待されます。
オフロード性能の向上
EVの特性を活かしたオフロード走行が可能になります。電動モーターの瞬発力と精密な制御により、従来のエンジン車では困難だった繊細なトラクション制御が実現できます。また、バッテリーの低重心配置により、安定性も向上することが予想されます。

 

サイズ感の最適化
「コンパクト」という名称が示すように、従来のランドクルーザーよりも小型化されることで、都市部での取り回しが向上します。欧州トヨタが公開した集合写真を見ると、スタッフよりも車高が低いことが確認でき、日常使いにも適したサイズ感になることが期待されます。

 

デザインの進化
初代ランドクルーザーのスタイリングを踏襲しながらも、現代的な解釈を加えることで、レトロフューチャーな魅力を実現しています。J80を彷彿とさせるグリルとクリーンなラインにより、2017年に発表されたコンセプトカー「トヨタFT-4X」を進化させたような外観となっています。

 

市場での位置づけとしては、アウトドアレジャーを楽しむ都市部の若いユーザーをメインターゲットとしつつ、環境意識の高いユーザーにもアピールできる可能性があります。特に、従来のオフロード車では実現できなかった静粛性とゼロエミッション性能により、新たな顧客層の開拓が期待されます。

 

さらに、トヨタの強みである信頼性と耐久性をEVに適用することで、他社の電動SUVとは差別化された製品になる可能性があります。長年にわたるオフロード車の開発経験と、プリウスで培ったハイブリッド技術の蓄積により、実用性の高い電動オフロード車の実現が期待されます。

 

コンパクトクルーザーEVの市販化は、トヨタのEV戦略における重要な一歩となる可能性があります。2030年までに30車種のEVを投入する計画の中で、このモデルがどのような役割を果たすのか、今後の動向に注目が集まります。