小松白川連絡道路は、石川県小松市の北陸自動車道小松ICと岐阜県白川村の東海北陸自動車道白川郷ICを直結する構想の高規格道路です。現在この区間は国道360号が通じているものの、特に石川・岐阜県境部分は急勾配・急カーブ・狭隘な峠道が延々と続く難所となっており、有料道路「白山白川郷ホワイトロード」として維持されています。
直線距離では50kmにも満たない近さですが、そこには急峻な「両白山地」が立ちはだかっており、道路網は極めて限定的な状況です。白山白川郷ホワイトロードは全長33.3kmで、最高標高は1450m、麓からの標高差が約1000mにも達するスーパー林道として、ドライバーからは走り甲斐のある峠道として親しまれている一方で、観光バスや輸送トラックなど大型車の道路ネットワークとしては活用できない道路状況となっています。
さらに土砂崩れなどの被害に遭うことが多く、最近でも2022年夏に道路崩落で翌春まで通行止めとなったほか、2024年も落石で1か月ほど通行止めが続くなど、災害による通行止めが頻発している状況です。
石川県の試算によると、小松白川連絡道路が開通すれば、小松市~白川村の移動時間は現在より70分もの大幅な時間短縮が見込まれています。この道路が実現すれば、信号無し、峠越え無し、災害通行止め無しで通過できるようになり、金沢や加賀市方面から白川郷を経由し、さらに松本・長野方面へ抜ける際に、従来必要だった小矢部砺波JCTまで北へ大きく迂回する必要がなくなります。
特に注目すべきは、高山~松本を高規格化する「中部縦貫道」も完成すれば、小松から松本、さらに小淵沢方面までが3時間圏内になるという点です。これにより、日本海側と中部山岳地域、さらには関東方面へのアクセスが劇的に改善されることになります。
現在の白山白川郷ホワイトロードは冬季閉鎖区間となっているため、通年通行可能な高規格道路の実現は地域にとって悲願とも言える状況です。観光面では白川郷へのアクセス向上により、北陸地方からの観光客増加が期待され、物流面では日本海側港湾と中部地方を結ぶ新たな物流ルートとしての活用も見込まれています。
小松白川連絡道路の最大の技術的課題は、両白山地を貫く長大トンネルの建設です。2021年に先進技術の検証方法を具体化し、2022年に実際に技術検証を行い、2023年には先進技術が導入できそうだと確認されるなど、少しずつ前進している状況です。
2024年3月末には「小松白川連絡道路検討会」の2回目が開催され、今後の動きとして実際に長大トンネルの技術的調査が行われていくことが決定されました。この技術的調査では、山岳トンネル工法の選定、地質調査、施工計画の策定などが行われる予定です。
長大トンネルの建設には、最新の掘削技術や換気システム、防災設備などの導入が必要となります。特に標高差1000mを超える地形を貫くトンネルでは、地質の変化や地下水の処理、施工中の安全確保などが重要な課題となります。近年の技術進歩により、これらの課題に対する解決策は確立されつつありますが、事業費や工期への影響も含めて慎重な検討が必要です。
小松白川連絡道路の事業化に向けては、現在両県が「計画段階評価」のための準備を進めています。この道路が果たす役割などの整理が進められており、白山信仰への配慮や、能登半島地震のトピックも盛り込まれる予定です。
事業化の流れとしては、まず費用便益分析などをふまえて小松白川連絡道路の整備基本方針が取りまとめられ、そこから概略ルートの決定へ進んでいくこととなります。今後は、整備に関する基本方針が地元主体で策定され、そこから国の「計画段階評価」で概略ルートが決定されていく見込みです。
ただし、東海北陸道では全線4車線化の事業が進行中であり、岐阜県でも福井~高山~松本をつなぐ「中部縦貫道」の工事が少しずつ進められている状況です。小松白川連絡道路に予算が本格投入されていくのは、これらの事業がある程度進捗した段階になる可能性が高いと考えられます。
小松白川連絡道路の開通は、単なる交通利便性の向上にとどまらず、地域経済構造に大きな変化をもたらす可能性があります。特に注目すべきは、北陸地方の製造業と中部地方の物流拠点を直結することで生まれる新たな産業クラスターの形成です。
石川県の機械工業や繊維産業と、岐阜県の航空宇宙産業や自動車部品製造業との連携が深まることで、サプライチェーンの最適化が進むと予想されます。また、白川郷という世界遺産を擁する観光地へのアクセス改善により、北陸新幹線利用者の周遊観光パターンが大きく変化する可能性もあります。
さらに、災害時の代替ルートとしての機能も重要です。能登半島地震の経験を踏まえ、日本海側と太平洋側を結ぶ複数のルートを確保することは、国土強靱化の観点からも極めて重要な意味を持ちます。この道路が完成すれば、北陸地方の孤立化リスクを大幅に軽減できるでしょう。
地域住民の生活面では、医療アクセスの改善も期待されます。高次医療機関への搬送時間短縮や、専門医療サービスへのアクセス向上により、山間部住民の医療格差解消にも寄与する可能性があります。これらの多面的な効果を総合的に評価することで、単純な費用便益分析を超えた事業価値の検証が必要となるでしょう。