北関東北部横断道路は、栃木県北部の東北自動車道から出発し、矢板市、那須塩原市、大田原市を経由して茨城県へ進入。さらに大子町、高萩市へと至る計画です。現在のところ、正式なルート選定は「計画段階評価」段階に進んでいないため、具体的に各自治体を通過するかについてはまだ検討中です。この道路が実現すれば、従来の北関東自動車道よりも北側に位置し、東北地方の中通りから太平洋岸への新しい交通ルートが誕生することになります。
現在の栃木県北部から茨城県太平洋側への移動は、国道461号を使わざるを得ません。この国道は多くの区間でセンターラインがなく、クルマ1台分の道幅しかない部分も存在。事実上の「生活道路を暫定的につなげた」レベルであり、移動効率は極めて低い状況が続いています。
北関東北部横断道路が構想路線にとどまっている理由は、まだ本格的な事業化プロセスに乗っていないためです。国による事業化の第一歩は「計画段階評価」で、ここで地元アンケートなどの意見を反映させながら概略ルートが決定されます。その後、都市計画決定、環境影響評価を経由してようやく正式な事業化となります。
2023年12月に設立された「北関東北部横断道路整備促進同盟会」は、栃木県と茨城県の9自治体で構成されています。那須塩原市、那須町、矢板市、大田原市、那珂川町、大子町、高萩市、日立市、常陸太田市が一致団結し、国土交通省への要望活動を展開中。栃木県の「道路施策検討有識者懇談会」でも、2024年度中に本格的な検討を予定しており、機運が着実に高まっています。
この地域は「高規格道路空白地帯」と呼ばれるほど、幹線道路が極めて不足しています。東北道と常磐道をつなぐ東西軸は、北側では福島県の白河~いわきを結ぶ「あぶくま高原道路」「磐越自動車道」ルート、南側では栃木~水戸をつなぐ「北関東自動車道」がありますが、その中間100km近くはほぼ放置された状態です。
さらに深刻なのは、鉄道網の欠落です。郡山と水戸を結ぶJR水郡線は完全に南北ルートであり、東西移動としての機能を果たしていません。つまり、この地域から東西方向への移動を希望する住民や企業は、北関東道まで迂回するか、国道461号の狭い道を進むしかない状況が数十年続いています。特に北茨城地域は沿岸部に位置しながら、内陸部からのアクセスが著しく悪いという矛盾を抱えています。
北関東北部横断道路の実現が強く望まれている背景には、防災上の重要性もあります。茨城県の常磐道は太平洋沿岸部を走るため、津波災害時には復旧まで全く使用できなくなるリスクがあります。東北自動車道が南北軸である以上、常磐道が機能しない状況では、太平洋側の住民や企業は孤立するわけです。
北関東北部横断道路が実現すれば、常磐道に依存しない新たな東西移動ルートが確保され、大規模災害時の代替ルート機能を果たしますます。また地震による激震地帯である日立市近辺から東北方面への緊急移動も可能になり、災害時の避難経路多重化が実現します。実際に地元からは「災害時のリスク低減」を理由に、整備促進を求める声が多く上がっています。
北関東北部横断道路が実現した場合の経済効果は計り知れません。現在、大子町や那珂川町といった内陸の町は、栃木県北部の観光地と茨城県太平洋沿岸の観光地の双方から遠く離れた位置にあります。この道路ができれば、日光・矢板・塩原といった栃木の名所と、北茨城の海岸線が有機的に結ばれ、広域観光ルートの構築が可能になります。
さらに物流面でも大きな変化がもたらされます。現在、栃木県北部から茨城県北部への物資輸送には、北関東道経由で300km以上の迂回を余儀なくされています。北関東北部横断道路が完成すれば、この距離が100km程度に短縮され、輸送コスト削減と所要時間短縮により、地域経済全体が活性化する見込みです。小売業や製造業の立地選択肢も広がり、新規投資の誘致が期待できます。
国土交通省公式サイト:新広域道路交通計画の詳細情報を確認できます
栃木県庁公式サイト:県道路施策検討有識者懇談会の進捗状況を確認