あなたの車に積んだプッシュブレイクは、フロントガラスでは一切使えません。
緊急脱出ハンマーとは、交通事故や水没などでドアが開かなくなった際に、車の窓ガラスを割って脱出するための専用ツールです。なかでも「プッシュブレイク」という名称は、先端をガラスに押し当てるだけでスプリングが自動的に作動し、ガラスを砕くタイプ(ポンチタイプ)を指します。
ポンチタイプの最大の特徴は、振り下ろす力が不要な点です。金づちタイプのように大きく腕を振る必要がなく、狭い車内でも先端を窓に「グッと押し当てる」だけで内蔵された金属製のスパイクが飛び出し、強化ガラスを瞬時に粉砕します。つまり「押すだけ」というのが最大の強みです。
使い方はシンプルな反面、知っておくべき条件がいくつかあります。まず割れるのはあくまで「強化ガラス」に限られます。自動車のガラスには強化ガラスと合わせガラスの2種類が存在し、プッシュブレイク(ポンチタイプ)を含むすべての緊急脱出ハンマーは、合わせガラスには対応していません。
| タイプ | 操作方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 金づちタイプ | 振り下ろして叩く | 最もポピュラー。力が必要 |
| ピックタイプ | アイスピックのように叩き付ける | シンプルで扱いやすい |
| ポンチタイプ(プッシュブレイク) | 先端を押し当てるだけ | 力不要、女性や高齢者にも最適 |
プッシュブレイクのようなポンチタイプは、ほぼ指一本分の力で動作するため、パニック状態でも確実に作動させやすい点が評価されています。これは使えそうです。JAFのテストでは、ヘッドレスト・スマートフォン・車のキー・傘の先といった「車内にあるもの5種類」でガラスを割る試みが行われましたが、すべて失敗し、割れたのは専用の脱出用ハンマーのみでした。万一に備えるなら、プッシュブレイクを含む専用品が唯一の選択肢といえます。
多くの商品はシートベルトカッターも一体型になっており、転覆などでシートベルトがロックしてしまった状況でも、持ち替えなしでベルトを切断→ガラスを割るという一連の動作がスムーズに行えます。シートベルトカッター付きが基本です。
プッシュブレイクを購入したものの、肝心な時に「ガラスが割れなかった」という事態は実際に起こっています。国民生活センターの調査では、緊急脱出ハンマーを実際に使った経験がある188人のうち、89人が「何らかの理由でガラスを割れなかった」と回答しています。じつに使用経験者の約半数が失敗しているのです。
その大きな原因が「合わせガラスへの誤使用」です。自動車のガラスには2種類あります。
フロントガラスはすべての車種で合わせガラスです。これが原則です。プッシュブレイクをどんな力で押し当てても、フロントガラスは割ることができません。焦ってフロントガラスに何度も押し当てても時間を失うだけになってしまいます。
さらに注意が必要なのは、静粛性向上を目的として約2割の車種のドアガラスにも合わせガラスが使われているという点です。国民生活センターの自動車製造事業者へのアンケートでも、「約2割の車種のドアガラスが合わせガラスだった」という結果が出ています。高級セダンやSUVなどを中心に、遮音性能を高めるためドアガラスに合わせガラスを採用している車種があるのです。
自分の車のガラスが強化ガラスかどうかを確認する方法はシンプルです。ガラスの端に印刷されているJISマークの横に「T」と書かれていれば強化ガラス、「L」と書かれていれば合わせガラスです。購入前・購入後の早い段階で確認しておくことを強くおすすめします。合わせガラスと分かった場合は、プッシュブレイクが使えるサイドガラスやリアガラスを事前に特定しておきましょう。
参考:国民生活センターによる緊急脱出ハンマーのガラス破砕テスト結果(合わせガラスの注意点を含む)
自動車用緊急脱出ハンマーによるガラスの破砕 – 国民生活センター
プッシュブレイクは「持っているだけ」では命を守れません。グローブボックスやトランクに入れていても、水没・転覆・衝突の直後にそこまで手が届かない可能性が高いからです。
国土交通省のガイドラインでは、緊急脱出ハンマーは「運転席から手を伸ばしてすぐ届く位置」への設置が強く推奨されています。さらに国民生活センターは、「シートベルトに拘束された状態でも手が届く場所に固定すること」を必須条件としています。設置場所が命を左右する、といっても過言ではありません。
おすすめの設置場所は以下のとおりです。
市販のプッシュブレイクには専用ホルダーが付属している商品も多く、ドアポケットやセンターコンソールの側面にスッキリと固定できます。固定方法は商品ごとに異なりますが、粘着テープ式・マグネット式・面ファスナー式が一般的です。固定が甘いと事故の衝撃で飛んでしまいます。
プッシュブレイクを選ぶ際には、専用ホルダーが付属しているかどうかも確認しましょう。固定できない商品は緊急時に車内のどこかへ転がっている可能性があり、本末転倒な事態になりかねません。取り付けた後は定期的に「本当に手が届くか」を実際にシートベルトを締めた状態で確認することを習慣にするといいでしょう。
実際に水没や事故で車内に閉じ込められた際、パニック状態でも動けるよう手順を頭に入れておくことが重要です。プッシュブレイクの正しい使い方を確認しておきましょう。
ステップ1:まず落ち着いて確認する
水没直後はドアが開く可能性があります。まずシートベルトを外し、ドアを押してみてください。水位がまだ低い段階であればドアは開くことがあります。電動式のパワーウィンドウも、電気系統が完全に故障していなければ動作する場合があります。
ステップ2:シートベルトカッターを使う(必要な場合)
転覆などでシートベルトがロックしている場合は、プッシュブレイクに付属のシートベルトカッター部分をベルトに当て、引き切ります。JIS D5716適合品であれば1本あたり2秒未満で切断が可能です。
ステップ3:プッシュブレイクをサイドガラスの隅に押し当てる
割るのはサイドガラスです。これが絶対のルールです。フロントガラスは合わせガラスなので使用しません。サイドガラスの「四隅のどこか」に先端を当てます。ガラスの性質上、中央ほど弾性があって割れにくく、隅に向かうほど割れやすいためです。
ステップ4:垂直に押し込む
先端を角に当てたら、垂直に強く押し込みます。スプリングが作動し、内部のスパイクが飛び出してガラスが粉砕されます。ガラスは細かい粒状に砕けるので、素手でも比較的安全に窓を押し広げて脱出できます。
ステップ5:窓から脱出する
水中での脱出の場合、車内外の水位差がほぼなくなるまで待ってからドアを開けるか、割れた窓から脱出します。水没が深刻な場合は、車内に水が入ってくるまで待ち、水圧が均等になった瞬間にドアを開けて脱出するのが有効です。
警視庁は「ガラスの四隅を垂直に数回叩くことがコツ」と案内しており、プッシュブレイクでも同様に「隅に垂直に押し当てる」ことが重要です。
参考:JAFによる水没時の窓割りテスト結果(ヘッドレスト・キー・ハンマーの比較)
水没時、何を使えば窓が割れるのか?(JAFユーザーテスト)
プッシュブレイクを購入する際、最も重要なのが品質の見極めです。2013年に国民生活センターが行った調査では、市場に出回っていた19銘柄のうち5銘柄でガラスが正常に割れないことが判明しました。これらはいずれも中国製の低品質品でした。市販品の約26%が機能しなかったという事実は、商品選びの重要性を物語っています。
品質の信頼性を担保する指標として活用したいのが「JIS D5716」です。これは自動車用緊急脱出支援用具に関する日本工業規格で、世界の緊急脱出ハンマー規格の中でも最も厳しい基準とされています。JIS認証を取得した商品は、第三者機関による8つ以上の試験に合格しており、品質と性能が保証されています。
価格の目安として、信頼できるプッシュブレイクは2,000〜5,000円程度が一般的です。JIS認証品は3,000円前後からが目安で、カー用品店・ホームセンター・オンラインショップで入手可能です。命を守るツールに数千円を惜しむのは本末転倒ですね。
また、国民生活センターのテストでは「耐熱性試験で4銘柄に柄の変形や割れが見られた」という結果も出ています。日本の夏の車内は最高で70℃以上になることがあります。夏場の炎天下でも劣化しにくい耐熱性能を持つ商品を選ぶことも、長期使用を考えると重要な観点です。
購入後は定期的に動作チェックをすることも忘れないようにしましょう。プッシュブレイクはスプリングを使った機構なので、長期間使わないとスプリングの劣化が起きる場合があります。数年に一度は交換を検討するか、製品の推奨使用期限を確認しておくと安心です。
参考:国土交通省による緊急脱出ハンマーの市場製品の破砕性能調査
脱出用ハンマーの市場製品の破砕性能調査結果(国土交通省)

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