自衛隊の車両は原則として未解体のまま払い下げられることはなく、使用期限を過ぎた装備は入札で指定業者に引き渡され「スクラップとして解体」されるのが建前だ。ところが、一部の解体業者が解体前の車両や主要パーツを外部へ転売し、それをミリタリーマニアや整備工場が購入するケースが後を絶たない[1]。
具体的には、
それでも「公道走行可能な個体」を探すには次の三つが定番ルートだ。
1つ目はスクラップ業者のヤード在庫を直接交渉で譲ってもらう方法。2つ目はオークションサイトや中古車情報誌にひそかに出る「レストア済み個体」を狙う方法。3つ目が国外、特にフィリピン・タイで再組立てされた73式を輸入業者経由で買う方法だ[1]。
いずれのルートも書類の整合性が最大のネックで、車検証の“車台番号”が生きているかどうかが可否を分ける。ナンバー取得の壁が高い分、走行可能な個体はプレミア化し、相場は300万~450万円に達することも珍しくない。
1973年に採用された初代73式小型トラックは、三菱ジープJ24をベースに最大積載量を1/2tへ強化した“純粋ミリタリー仕様”である[2]。特徴は以下のとおり。
1996年にジープ生産が終了すると、二代目はパジェロV10系を基本骨格に転換。自衛隊内部では“Gカー”と呼ばれ、2001年度からは制式名を「1/2tトラック」へ変更した[3]。
世代間の分かりやすい差異をまとめる。
項目 | 初代(J24) | 二代目(V10パジェロ) |
---|---|---|
サスペンション | 前後リーフ | 前コイル/後リーフ[3] |
排ガス規制 | 旧基準 | 平成9年基準対応 |
快適装備 | ほぼ無 | パワステ・エアコン一部装備 |
中古流通 | 希少だが多彩 | 車両価格は比較的安い |
マニア人気が高いのは無骨さ全開のジープ系だが、実用性と部品入手性ではパジェロ系が優位だ。
解体名義で放出された車両を公道へ復帰させるには、陸運支局で再登録を行う必要がある。主な手順は
ここで問題になるのが車台番号の欠損だ。現地でフレーム加工を受けた個体は番号が潰れている場合が多く、その場合は“打刻し直し”の指示を受ける。加えて、灯火類・ミラー・シートベルトなど道路運送車両法に適合させなければナンバーは下りない。
自衛隊独自の装備――例えば無反動砲架台――は原則取り外しが必要で、残したままでは保安基準上「銃砲等を固定する構造」と見なされる恐れがある。SNSで「車検通った」と語るユーザーもいるが、陸運支局ごとの判断がブレるため、必ず事前相談しよう。
払い下げジープは購入より維持が難しい。
現在も三菱ふそう部品部には一部純正ストックがあるが、流通量は年々減少。パジェロ系は民生パーツが流用できるため維持費は約3割低いと言われる[3]。
購入前チェックポイントは
これらをクリアできない車両は、初期費用が安くてもトータルで数百万円規模の出費になる。
筆者が取材した元陸自輸送科OBは「ジープは“装備品”だから、走るたびに当時の訓練の記憶が蘇る」と語る。具体的な魅力は次の三つだ。
一方で隊員時代には「雨漏り・寒さ・騒音」で苦労した思い出も多いそうだ。ミリタリー車両は不便そのものだが、その不便さを受け入れてこそ“自分だけの一台”になる――これが払い下げジープの最大の醍醐味だろう。
「車両の流通規制と抜け穴」について詳しく解説している防衛省の入札契約ページ
防衛省 資機材売払・入札情報
「初代73式小型トラック(J24A)の構造写真が豊富」
Automesseweb 73式小型トラック特集