ホンダ t880 市販化の可能性とスポーツ軽トラの魅力

ホンダアクセスが開発したコンセプトカー「T880」の市販化について、その可能性と技術的特徴、ファンの反響を詳しく解説します。夢の軽トラは実現するのでしょうか?

ホンダ t880 市販化への道のり

T880の基本情報
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コンセプトカーの位置づけ

2017年東京オートサロンで発表されたホンダアクセス製作のスポーツ軽トラック

パワートレイン

バモス用660ccターボエンジン+ビート用5速MTの組み合わせ

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開発コンセプト

「働くクルマはカッコいい」をテーマにしたスポーティな軽トラック

ホンダ t880の誕生背景とコンセプト

ホンダアクセスの有志チーム「N Lab.(エヌラボ)」が約1年をかけて製作したT880は、軽トラックの概念を根本から覆すコンセプトカーとして誕生しました。開発コンセプトは「働くクルマはカッコいい」で、従来の軽トラックが持つ実用性一辺倒のイメージを刷新し、スポーティでスタイリッシュな軽トラックの可能性を提示しています。

 

このプロジェクトの背景には、ホンダの軽トラック「アクティトラック」の持つ独特な魅力があります。アクティトラックは1977年に初代モデルが登場し、2021年4月の生産終了まで約44年間、4世代にわたって展開された歴史ある軽トラックです。最大の特徴は、軽トラックでは珍しいミッドシップレイアウトを採用していることで、この特殊な駆動方式がT880の開発において重要な要素となりました。

 

T880の名前にも深い意味が込められています。「T」で始まる車名は、ホンダ初の4輪車である「T360」から受け継がれた由緒ある名前で、「880」という数字は搭載されるエンジンの馬力を排気量に換算すると880ccクラスのものであることを示しています。この命名からも、ホンダの軽トラックに対する思い入れと、スポーツ性能への強いこだわりが感じられます。

 

ホンダ t880の技術的特徴とエンジン性能

T880の心臓部には、ベースのアクティトラックに搭載されていたエンジンではなく、軽ワンボックス「バモス」に搭載されていた「E07Z」型ターボエンジンが採用されています。このエンジンはハイオク仕様にファインチューニングが施され、より高性能な走りを実現しています。

 

当初の構想では、初代「インサイト」の3気筒1.0リッターエンジンにスーパーチャージャーを搭載する予定でしたが、パワートレーンやスペースの問題により断念されました。代替案として選ばれたバモスのターボエンジンは、ベース出力64PSを発生し、ブロックはアクティでバモスのクランクをフィットさせるという技術的な工夫が施されています。

 

トランスミッションには、同じくホンダのMRスポーツカーである「ビート」用の5速MTが組み合わされています。この組み合わせにより、従来の軽トラックでは味わえないスポーティな走りが実現されています。通常の軽トラックは低速走行が主体でギヤ比も低く設定されていますが、T880ではクロスしたギヤ比により伸びのある加速が可能になっています。

 

冷却システムにも工夫が凝らされており、インタークーラーは容易に冷却できるフロントエンドに配置されています。ECUはバモス用を使用しているため、最初はエンジンの始動すらできず、開発チームは大変な苦労を重ねたといいます。

 

ホンダ t880のデザインと外観の革新性

T880の外観は、ベースのアクティトラックの面影をほとんど残さない大胆なデザイン変更が施されています。最も印象的な変更点は、ルーフを約150mm下げたチョップドルーフで、これによりスポーティで低重心なシルエットを実現しています。

 

ドアの全長を伸ばしつつ屋根を下げることで、平らで長いスポーティなフォルムへと変化させています。さらにオーバーフェンダーの採用により全幅は65mm拡大され、軽トラックのイメージを一新する迫力あるスタイリングを見せています。

 

ヘッドライトには旧車のような「丸型」タイプが採用され、レトロで生命感あふれるフロントフェイスに刷新されています。この丸型ヘッドライトは、T880に独特のキャラクターを与える重要なデザイン要素となっています。

 

足元には、スポーツホイールの名門「RSワタナベ」製の14インチホイール(7.5J×14 インセット+3mm)が装着され、195/45 R14というおよそ軽トラックには合わないサイズのタイヤが履かれています。ホワイトレター仕様のタイヤと合わせて、硬派でありながらスタイリッシュな印象を演出しています。

 

荷台部分にも独特の工夫が施されており、後部アオリは下ヒンジで通常のように開けられるとともに、横ヒンジで観音開きにもできる構造になっています。荷台の前部中央には窪みがあり、これはホンダらしくバイクを積み込んだ時に前輪を収めるためのものです。

 

ホンダ t880の市販化に対するファンの反響

T880は2017年の東京オートサロンでの発表以来、自動車ファンの間で大きな話題を呼び続けています。SNSなどでは「絶対売れる」「欲しい」といった市販化を望む声が多数寄せられており、その人気の高さがうかがえます。

 

特に軽トラックの「農作業」などの従来のイメージを覆し、スポーティでワイルドに生まれ変わらせたT880には、当時から市販化を希望する声が多数上がっていました。車好きの間では「めちゃ楽しそう」「旧車のスポーツカーみたい」といった評価が寄せられ、5速MTとターボエンジンの組み合わせに対する期待の高さが表れています。

 

実際にサーキットでの試乗を行った自動車ジャーナリストからは、「短い試乗を終えた時に思わず顔がほころんだ」という感想が寄せられています。制動力の前後バランスの良さ、十分な制動力、自然なハンドリングなど、実用性も兼ね備えた完成度の高さが評価されています。

 

しかし、ホンダアクセスは量産計画がないことを明言しており、現時点では市販化の予定はありません。それでも、T880が示した軽トラックの新たな可能性は、多くの自動車ファンの心に深く刻まれています。

 

ホンダ t880市販化の現実的な課題と将来性

T880の市販化を考える上で、いくつかの現実的な課題が存在します。まず、コンセプトカーとして製作されたT880は、現行の安全基準や環境基準をクリアするための装備が不十分です。市販化するためには、エアバッグシステム、ABS、各種安全装置の追加が必要となり、これらの装備により車両重量の増加とコストアップが避けられません。

 

また、T880に使用されているバモスのターボエンジンやビートの5速MTは、すでに生産終了となっているため、市販化する場合は新たなパワートレインの開発が必要になります。現在のホンダの軽自動車ラインナップを考慮すると、N-BOXやN-VANに搭載されているS07B型エンジンをベースとした新しいパワートレインの開発が現実的でしょう。

 

さらに、軽トラック市場における需要の問題もあります。現在の軽トラック市場は実用性と経済性を重視する商用ユーザーが中心であり、T880のようなスポーツ仕様の軽トラックに対する実際の需要がどの程度あるかは不明です。価格設定も重要な要素で、通常の軽トラックの2倍以上の価格になることが予想されます。

 

しかし、近年のアウトドアブームや軽自動車の多様化を考えると、T880のような個性的な軽トラックに対する潜在的な需要は存在する可能性があります。特に、趣味性の高い軽自動車として、週末のレジャーや趣味の道具として活用したいユーザー層からの支持が期待できます。

 

ホンダとしても、軽トラック市場からの撤退後、新たな軽商用車の展開を模索している状況です。T880の市販化は、ホンダが軽トラック市場に再参入する際の差別化要素として有効かもしれません。ただし、現実的には限定生産や特別仕様車としての展開が最も可能性の高いシナリオと考えられます。

 

T880が示した軽トラックの新たな可能性は、今後の軽商用車開発において重要な指針となるでしょう。市販化の実現は困難かもしれませんが、その革新的なコンセプトは確実に自動車業界に影響を与え続けています。