2023年7月3日に東風ホンダが正式発表した新型インスパイアは、歴代7代目となるフラッグシップセダンです。ボディサイズは全長4979mm×全幅1862mm×全高1449mmと、日本で見かけるトヨタ15代目クラウンほどのサイズ感を持っています。
ホイールベースは2830mmと、先代から大きな変更はありませんが、全長が70mmほど延長されており、より堂々とした存在感を放っています。この大型化により、後席の居住性向上と荷室容量の拡大が図られています。
パワートレーンは2種類を設定しており、ガソリンエンジンモデルには1.5L VTECターボエンジン(最高出力191ps/最大トルク260Nm)を搭載。一方、プラグインハイブリッドモデルには最高出力148ps、最大トルク182Nmの2Lエンジンに、最高出力183ps、最大トルク335Nmのモーターを組み合わせています。
新型インスパイアの価格設定は、ガソリンエンジンモデルが18.28万元(約364万円)から、プラグインハイブリッドモデルが22.98万元(約458万円)からとなっています。この価格帯は、中国市場における競合他社の同クラスセダンと比較しても競争力のある設定となっています。
先進装備面では、Honda CONNECT 4.0とHonda SENSING 360を標準搭載。これらのシステムにより、最新のコネクテッド機能と安全運転支援機能を提供しています。プラグインハイブリッドモデルには、新たにアップグレードされたADSフルタイムアダプティブダンピングシステムも搭載され、正確なサスペンション制御でロールやバンプを徹底的に抑制します。
ボディカラーは、ディープブルーやモダングレーなど全5色から選択可能で、多様な顧客ニーズに対応しています。
新型インスパイアのエクステリアデザインは、東風ホンダが「エレガントでゴージャス」と表現する流線型のスポーティなデザインを採用しています。最も注目すべきは、「ストレートウォーターフォールグリル」と名付けられた縦型グリルで、欧州の高級車にも負けない存在感を放っています。
このデザインは、ここ最近のZR-Vやアキュラで発表された新型インテグラなど、最新のホンダデザインの流れを汲んだものとなっています。「スマートエリート」をキャッチフレーズとして標榜し、知的なイメージを前面に押し出したデザインコンセプトが特徴的です。
フロントマスクは精悍な印象を与える一方で、サイドビューは流麗なプロポーションを保持しており、スポーティさと上質さを両立させています。リアデザインも洗練されており、LEDテールランプの配置やトランクリッドの造形により、モダンな印象を演出しています。
インスパイアの歴史を振り返ると、1989年に登場した「アコードインスパイア4ドアハードトップ」を起源に持つ4ドアセダンです。日本では5代目まで販売されていましたが、2018年に中国で誕生した6代目以降のモデルは日本では販売されていません。
日本で最後に販売された5代目インスパイア(2007年~2012年)は、全長4,940mm×全幅1,845mm×全高1,475mmと、歴代インスパイアの中でも最も大きなボディサイズを持っていました。エンジンは最高出力280PSに達した3.5L V型6気筒のJ35A型を搭載し、走行状況に合わせてエンジンの燃焼気筒数を変化させる可変シリンダーシステムを採用していました。
価格面では、5代目インスパイアは330万円から390万円の設定でしたが、現在の中古車市場では45万円から229万円程度で取引されています。一方、新型7代目は中国専売モデルとなっており、日本市場への導入予定はありません。
新型インスパイアの日本導入については、現時点では公式な発表はありません。しかし、日本市場におけるセダン需要の減少が大きな要因となっており、導入の可能性は低いと考えられています。
日本のセダン市場は年々縮小傾向にあり、特に大型セダンの需要は限定的です。ホンダ自身も、日本市場ではSUVやコンパクトカーに注力する戦略を取っており、大型セダンの新規投入には慎重な姿勢を示しています。
一方で、中国市場では依然としてセダンの需要が高く、特に高級セダンに対するニーズが強いことから、新型インスパイアは中国専売モデルとして開発されました。東風ホンダは「賢く、合理的で、積極的なスマートエリート向けのクルマ」として位置づけており、中国の富裕層をターゲットとした戦略的な商品展開を行っています。
ただし、将来的に日本市場でのセダン需要が回復した場合や、電動化技術の進展により環境性能が大幅に向上した場合には、導入の可能性も完全に否定できません。特に、プラグインハイブリッドモデルの技術は、日本の環境規制にも適合する可能性があります。
現在、日本のホンダファンにとっては、中国市場での新型インスパイアの動向を注視しながら、将来的な展開を期待するしかない状況です。しかし、ホンダの技術力とデザイン力を結集した新型インスパイアは、確実に同社のセダン開発における新たなマイルストーンとなっており、今後の製品開発にも大きな影響を与えることは間違いありません。