ホンダは長らく軽SUV市場への参入を見送ってきましたが、2024年9月にN-BOXジョイを発売し、ついに本格的な軽SUV市場への参入を果たしました。これまでスズキのハスラーやダイハツのタフト、三菱のeKクロスシリーズが市場を牽引してきた軽SUVカテゴリーに、満を持してホンダが参戦した形となります。
ホンダが軽SUV市場への参入を遅らせてきた理由として、同社の軽自動車戦略が挙げられます。ホンダは軽自動車市場において、N-BOXを中心とした「実用性重視」の戦略を取ってきました。実際に、N-BOXは2016年から2025年まで毎年軽自動車販売台数ランキング1位を獲得し続けており、2023年度だけで218,478台という圧倒的な販売実績を記録しています。
この成功により、ホンダは軽SUVという新しいカテゴリーに参入する必要性を感じていませんでした。しかし、近年のアウトドアブームと軽SUVの市場拡大を受けて、戦略の見直しを図ったのです。
N-BOXジョイは、3代目N-BOXをベースとしたSUVスタイルの軽自動車です。従来のN-BOXスタンダードとカスタムに加えて、新たに設定された第3のグレードとして位置づけられています。
N-BOXジョイの最大の特徴は、N-BOXの優れた室内空間をそのまま活かしながら、SUVテイストを加えたデザインにあります。室内長2,125mm、室内幅1,350mm、室内高1,400mmという軽自動車の制限ギリギリのサイズを実現し、スーパーハイトワゴンならではの広さを提供しています。
特に注目すべきは、ホンダ独自のセンタータンクレイアウトです。燃料タンクを前部座席の真下に配置することで、無駄なく車内スペースを確保できる技術が採用されており、これによって軽自動車とは思えない広々とした室内空間を実現しています。
アレンジ性の高さも魅力の一つです。前席のヘッドレストを外して座席を倒せば後部座席と繋がって寝転がれるようになり、後部座席を縦に折り畳むことで高さのある積載スペースを作ることも可能です。これらの機能により、アウトドアシーンでの活用度が大幅に向上しています。
ホンダのN-BOXジョイの直接的なライバルとして、三菱のデリカミニが挙げられます。両車種ともに軽スーパーハイトワゴンをベースとしたSUVスタイルの車種であり、アウトドアを意識した装備を備えています。
デリカミニは、三菱の軽スーパーハイトワゴン「eKスペース」のSUV仕様「eKクロススペース」の後継機種として位置づけられています。三菱のSUVに共通する「ダイナミックシールド」をテーマとしたフロントマスクが特徴で、ラギッド感やたくましさを強調したデザインとなっています。
価格面での比較では、eKクロススペース(デリカミニの前身)の中古車市場での動向が参考になります。当時の新車価格が165.6万~220万円だったのに対して、現在の中古車総額は140万円前後で、最も安いものでは総額110万円から購入可能な状況です。
装備面では、両車種ともに先進安全・運転支援機能が充実しています。eKクロススペースには「マイパイロット」などの機能が搭載されており、N-BOXジョイにも同様の安全装備が期待されます。
室内空間については、N-BOXジョイがホンダ独自のセンタータンクレイアウトにより優位性を持っています。一方、デリカミニは三菱のSUVノウハウを活かした本格的なSUVテイストが魅力となっています。
ホンダの軽SUVを検討する際には、まず使用目的を明確にすることが重要です。N-BOXジョイは、日常使いからアウトドアまで幅広く対応できる万能性が魅力ですが、本格的なオフロード走行を想定している場合は、他の選択肢も検討する必要があります。
価格面での検討も重要なポイントです。N-BOXジョイの価格設定は、従来のN-BOXよりも高めに設定されることが予想されます。N-BOXの現在のメーカー希望価格が1,689,600円からとなっているため、SUVテイストが加わったN-BOXジョイはさらに高価格帯になる可能性があります。
燃費性能も重要な選択基準です。N-BOXシリーズは優れた燃費性能を誇っており、N-WGNでは特に優れた燃費性能が評価されています。N-BOXジョイでも同様の燃費性能が期待できるため、ランニングコストを重視する方には魅力的な選択肢となります。
室内空間の活用方法も考慮すべき点です。N-BOXジョイは両側スライドドア搭載で、広い室内空間を持っているため、子育て世帯にも適しています。一方で、よりスポーティーな走りを求める場合は、ホンダのS660のような軽スポーツカーも選択肢に入れることができます。
ホンダの軽SUV戦略を独自の視点で分析すると、同社の電動化戦略との連携が重要なポイントになると考えられます。ホンダは2040年までに全世界で販売する四輪車をEVまたはFCVにする目標を掲げており、軽自動車分野でも電動化が進むことが予想されます。
軽SUVカテゴリーは、アウトドア用途での使用が多いため、電動化との親和性が高いジャンルです。キャンプ場での電源供給機能や、静粛性を活かした自然環境での使用など、電動化によって新たな価値を提供できる可能性があります。
また、ホンダの軽自動車ラインナップを見ると、N-BOX(218,478台)、N-WGN(33,470台)、N-VAN(27,856台)、N-ONE(19,468台)という販売実績があり、これらの車種とN-BOXジョイがどのような棲み分けを行うかが注目されます。
特にN-VANとの関係性は興味深く、N-VANは車中泊に適した仕様となっているため、アウトドア用途ではN-BOXジョイとの競合が予想されます。しかし、N-VANがより実用性重視であるのに対し、N-BOXジョイはファッション性も重視した設計になると考えられます。
市場予測としては、軽SUVカテゴリーの拡大に伴い、ホンダも段階的にラインナップを拡充していく可能性があります。N-BOXジョイの市場反応を見ながら、より本格的な軽SUVの開発や、他の車種へのSUVテイスト展開も考えられます。
さらに、ホンダの軽自動車開発における技術的優位性を活かし、他社とは差別化された独自の軽SUVを展開する可能性もあります。センタータンクレイアウトのような独自技術を軽SUVでも活用することで、室内空間と走破性を両立した革新的な車種の登場が期待されます。