飛騨トンネル4車線化事業の最大の課題は、既存の複雑な地質環境への対応です。全長10,712mのこのトンネルは、建設当初から「蓋を開けてみるまでわからない」という状態での工事でした。最大土被りが1,000mを超え、水圧は5.4MPa(55kgf/cm²)、最大湧水量は毎分70トンに達するなど、青函トンネル以上の過酷な条件でした。
現在の4車線化工事では、このような地盤変状のデータを活用して施工計画が立案されています。NEXCO中日本は、I期線(既存の現在運用中の部分)の維持管理経験を踏まえながら、新たに拡幅される部分の施工に取り組んでいます。特に長大トンネル内での大規模工事であるため、既存の交通流を維持しながらの施工という高度な技術的課題が存在します。
トンネル拡幅時には、換気システムの最適化も重要です。飛騨トンネルは世界初の「選択集中排気式縦流換気システム」を採用しており、4車線化に対応した新たな換気機能の設計が必要となっています。
最大の改善効果は対面通行の解消です。飛騨トンネルは暫定2車線で開通しており、上下線が同じトンネル空間を使用する対面通行形式です。特に下り線(小矢部・砺波方面)では下り勾配により速度が増すため、運転の際に注意が必要な状況が続いていました。
4車線化により、上下線が完全に分離されます。これにより交通事故のリスクが大幅に低下し、運転者のストレスも軽減されます。NEXCO中日本も、対面通行解消による安全性向上を最大のメリットとして挙げています。
さらに重要な改善として、ネットワーク信頼性の向上と災害時のリダンダンシー(冗長性)確保があります。豪雪地帯の山岳路線であるこの区間では、冬期の通行止めが発生しやすい傾向にありました。4車線化によって交通容量が増加し、渋滞による通行止めの頻度が低下することが期待されています。
飛騨トンネルの4車線化は、地域経済に大きな波及効果をもたらします。特に白川郷・五箇山といった世界遺産地域への観光アクセスが改善されることが重要です。
従来、高山方面から白川郷・五箇山へ向かう観光バスは、飛騨トンネルの対面通行という制限があったため、一旦荘川ICまで下りて国道156号を北上するという大回りなルート選択を余儀なくされていました。4車線化により、より効率的で安全なアクセスルートが実現されます。
また、国道360号天生峠は幅員狭小で急カーブ・急勾配が続き、1年の約半分が冬期通行止めです。飛騨トンネルの4車線化により、このような山岳地方特有の交通問題が段階的に解消されることで、地域の観光業と物流業の活性化が期待されます。
東海北陸自動車道の4車線化事業は、北から南へ段階的に進められています。2025年10月の白川郷IC~五箇山IC間での4車線運用開始は、この進捗の重要なマイルストーンとなりました。
飛騨トンネルを含む飛騨清見IC~白川郷IC間(11.9km)については、2024年から準備調査が始まっています。この大規模長大トンネルの4車線化には、複数年単位の工事期間が予想されます。建設当初から難工事で知られた飛騨トンネルの特性を考慮すると、施工計画には相応の余裕が設定されるものと見られます。
全体計画では、富山県側の平野部から順次事業化が進められており、経済的合理性と工事難度を勘案した優先順位付けがなされています。これにより、地域への交通利便性向上が段階的かつ着実に達成されていく見込みです。
飛騨トンネルは、過去の建設経験を通じてAA級長大トンネルとしての高度な安全対策が既に施されています。トンネル内には、ドライバーへの気分転換としてピンクと青のアクセント照明が設けられており、心理的圧迫感が軽減されています。
さらに、壁面の白色タイル貼りには出口までの距離を1kmごとに表示し、電光掲示板による残距離表示も行われています。これらの設計は、11kmという超長距離トンネルの走行による運転者の疲労と不安を最小化するための工夫です。
4車線化により、これらの安全機能はさらに効果を発揮することになります。対面通行の廃止により、突然の対向車との危険が消滅し、トンネル内の単調性による眠気や注意散漫のリスクも相対的に低下します。飛騨トンネルは、日本の長大山岳トンネルにおける新しい安全基準を示すプロジェクトとなっています。
東海北陸自動車道飛騨トンネルについて、詳細な建設経緯と現在の状況をご確認ください。
飛驒トンネル - Wikipedia:トンネルの規格、設備、建設の難工事詳細を記載
最新の4車線化事業の進捗状況について、最新ニュース記事です。
「天空の高速」4車線化さらに前進! 豪雪山岳地帯の東海北陸道で10月運用開始 - TrafficNews:2025年10月の白川郷IC~五箇山IC間の4車線化開始を報道