サンキューハザードの歴史は1980年代にさかのぼります。この習慣はトラックドライバー同士のコミュニケーション手段として始まったとされており、高速道路上での合図や挨拶の代わりに使われていました。当時のトラックドライバーたちは、長距離運転中に他のドライバーとの意思疎通を図る手段として、ハザードランプを活用していたのです。
この文化が一般のドライバーにも広がったのは、トラックドライバーの運転マナーが評価され、模倣されるようになったからです。特に高速道路での合流や車線変更において、後続車に対する感謝の気持ちを表現する手段として定着していきました。
現在では、自動車教習所で教えられることはないものの、多くのドライバーが自然に身につけている運転マナーの一つとなっています。しかし、この習慣は地域差があり、関東から北では多く見られる一方、四国地方ではあまり見かけないという報告もあります。
ハザードランプの正式名称は「非常点滅表示灯」であり、本来は危険を周囲に知らせるための装置です。道路交通法では、ハザードランプの使用が義務付けられているのは以下の場面に限定されています。
サンキューハザードは、これらの本来の用途とは明らかに異なる使用方法です。厳密に言えば道路交通法違反に問われる可能性がありますが、実際に検挙されるケースは極めて稀です。取り締まる側も、お礼であることが明らかな状況で数回の点滅後にすぐオフにする場合は、特に問題視していないのが現状です。
ただし、ハザードランプの誤用は重大な事故につながる可能性があります。後続車がハザードランプを見て「前の車が停車する」と判断し、追い越しを試みた際に接触事故が発生するリスクがあります。
サンキューハザードは基本的に日本独自の文化とされています。2016年に海外の自動車情報サイト「7TUNE.com」のFacebookページで「How japanese drivers say thanks!(日本人ドライバーの御礼の言い方)」として紹介された際、瞬く間に2000シェアされ、多くの外国人から驚きと称賛のコメントが寄せられました。
海外からの反応例。
しかし、完全に日本だけの文化というわけではなく、インドや香港、ハンガリーなどの一部地域でも類似の習慣が見られます。それでも、これほど広く一般化しているのは日本が特徴的と言えるでしょう。
海外でレンタカーを運転する際は、サンキューハザードが通用しない可能性が高いため、注意が必要です。現地のドライバーに誤解を与える可能性もあるため、海外では控えることが賢明です。
サンキューハザードを使用する際は、周囲の状況を十分に考慮することが重要です。適切な使用タイミングと注意点は以下の通りです。
適切な使用場面:
避けるべき場面:
使用する際は、必ず2〜3回の短時間点滅に留め、すぐにオフにすることが大切です。長時間の点滅は本当の緊急事態と誤解される可能性があります。
サンキューハザードの法的リスクや安全性への懸念から、代替手段を検討するドライバーも増えています。より安全で確実な感謝の表現方法をご紹介します。
手のジェスチャー:
最も確実で誤解の少ない方法です。ルームミラー越しに手を上げる、会釈するなどの動作は、相手に確実に感謝の気持ちが伝わります。ただし、夜間や悪天候時には視認性が低下するという欠点があります。
市販の「ありがとうランプ」:
リアウィンドウに取り付ける表示板に「ありがとう」や「Thanks」などの文字が浮き上がる専用装置です。通信販売やカー用品店で購入でき、ハザードランプの違法性を気にすることなく感謝の気持ちを伝えられます。
アイコンタクト:
ルームミラーやサイドミラーを通じて相手ドライバーと目を合わせ、会釈することで感謝を表現する方法です。信号待ちなどの停車時に特に効果的です。
これらの代替手段を状況に応じて使い分けることで、より安全で確実なコミュニケーションが可能になります。重要なのは、感謝の気持ちを伝えることよりも、まず安全運転を最優先に考えることです。