イネオス・グレナディアの誕生には、興味深い背景があります。開発のきっかけは、大手化学メーカーのイネオスグループ会長で冒険家のジム・ラトクリフ氏が、ランドローバーの初代ディフェンダー生産中止を受けて「頑丈で無駄を省いたオフロード車」を求めたことでした。
イネオス・オートモーティブは2017年に設立された新興自動車メーカーで、親会社のイネオスは総資産329億ユーロ、従業員数2万6000人を誇るイギリス屈指の石油化学企業です。自動車の設計・開発は未経験でしたが、グレナディアが同グループとして初めての自動車となりました。
興味深いことに、イネオスはサイクルレースのスポンサーとしても有名で、ツール・ド・フランスなどでグレナディアがサポートカーとして活躍していました。2020年後半からはチーム名を「イネオス・グレナディアーズ」に変更し、レースでの露出を通じて車両の存在感をアピールしていたのです。
グレナディアのボディサイズは、全長4895mm×全幅1930mm×全高2050mm、ホイールベースは2922mmとなっています。車両重量は2800kg前後と重厚な作りが特徴です。
パワートレインには、BMW製の直列6気筒ターボエンジンを搭載しています。
ディーゼルエンジン仕様
ガソリンエンジン仕様
両エンジンともに副変速機付きの8速ATを組み合わせ、4WDシステムはメルセデス・ベンツGクラスの生産を手掛けるマグナ・シュタイアが開発したものを採用しています。
オフロード性能も本格的で、シュノーケルを備えるモデルでは最大渡河水深800mmを実現。最小回転半径は6.75mとなっています。
グレナディアの内装は、航空機のコックピットを参考にしたデザインが採用されています。センターコンソールとオーバーヘッドコンソールには、トグルスイッチとダイヤルが広い間隔で配置され、まさに「戦闘機」のような雰囲気を演出しています。
内装の特徴的な要素。
インフォテインメントシステムは12.3インチのタッチスクリーンを搭載し、Apple CarPlayおよびAndroid Autoに対応しています。内装素材はファブリックとレザーから選択可能です。
シフトノブはBMWの先代X3と同様のものを採用していますが、それ以外はSUVオフローダーの原点回帰を感じさせるデザインとなっています。
日本市場におけるグレナディアの状況は複雑です。正規輸入は現在行われておらず、アジア仕様の目処も立っていない状況です。しかし、一部の専門業者がヨーロッパからの直輸入を開始しており、「もう待てない」という愛好家向けに販売が行われています。
チーム・ルパルナスでは、2019年よりイネオス社にコンタクトを取り、日本への生産枠割り当てのため、先行予約顧客約195名のリストを既に送付済みです。価格は1300万円から1600万円の設定で、ボディタイプは「バン」「ワゴン」「ピックアップ」の3種類が予定されています。
中古車市場では、2025年式のディーゼル4WDモデルが走行距離0.7万kmで販売されている例もあり、車検は2028年2月まで取得済みとなっています。
グレナディアの主要な競合車種として、ランドローバー・ディフェンダーとメルセデス・ベンツGクラスが挙げられます。
ボディサイズ比較
車種 | 全長 | 全幅 | 全高 | ホイールベース | 車重 | 最小回転半径 |
---|---|---|---|---|---|---|
グレナディア | 4895mm | 1930mm | 2050mm | 2922mm | 2800kg | 6.75m |
ディフェンダー110S | 4945mm | 1995mm | 1970mm | 3020mm | 2400kg | 6.1m |
Gクラス | 4660mm | 1930mm | 1975mm | 2890mm | 2490kg | 6.3m |
グレナディアは3車種の中で最も重く、最小回転半径も最大となっています。これは本格的なオフロード性能を重視した設計の結果と言えるでしょう。
エンジン性能比較
グレナディアのディーゼルエンジンは249PS/550Nmを発生し、ディフェンダーの300PSには劣るものの、十分な性能を持っています。特に最大トルクの550Nmは、オフロード走行において重要な低速トルクを確保しています。
構造面では、グレナディアは見た目と同様にトラディショナルなフレーム式を採用し、リジッドサスペンションを前後に装備するなど、より原始的で頑丈な設計となっています。
特別仕様車「カイジュウ・クォーターマスター」
2024年12月には、オーストラリアで「カイジュウ・クォーターマスター」という1台限りの特別仕様車が発表されました。「カイジュウ」は日本語の「怪獣」に由来し、グレナディアの強力な性能を表現するために選ばれた名称です。
この特別仕様車は、オールブラックの外装を持ち、ノーウェルドのエリートトレイやブラウンデイビスの長距離燃料タンクなど、極限のオーバーランディングに対応した装備を搭載しています。工場出荷時の90リットルタンクに加えて168リットルの燃料を搭載可能で、遠隔地への移動に最適化されています。
グレナディアは、EV開発に注力する新興メーカーが多い中で、アナログ色の強い異色の存在として注目を集めています。飾り気のないエクステリアは初代ディフェンダーを彷彿とさせ、メーカーも「ディフェンダーのレプリカではないが、その哲学を反映した」と説明しています。
本格的なオフロード性能と現代的な快適装備を両立させたグレナディアは、究極の趣味人が乗る「御道具車」として、日本市場でも徐々に認知度を高めています。正規輸入の実現が待たれる中、直輸入による入手が現実的な選択肢となっているのが現状です。