覆道(ふくどう)は、雪崩や落石、土砂崩れから道路や線路を守るために作られた防護用の建造物です。トンネルとは異なり、交通を目的として建設されるのではなく、既存の道路を自然災害から保護することが主な目的となっています。
山岳部の道路では、切土によって山の斜面を削った箇所に覆道が設置されることが多く、落石や土砂などを道路を越えて反対側(谷側)に落とす役割を果たしています。この防護機能により、ドライバーは安全に山道を通行することができるのです。
覆道は「洞門(どうもん)」や「半トンネル」とも呼ばれ、英語では「シェッド」や「シェード」という名称でも知られています。これらの呼び方は、その形状や機能を表現した名称として広く使用されています。
トンネルは2地点間の交通を目的に建設される、断面の高さや幅より長さの方がある細長い地下空間を指します。地下や海底、山岳などの土中を通るため、道路の周りは完全に壁に囲まれているのが一般的です。
一方、覆道は防護という目的を達成できれば全面的に壁に囲まれている必要がないため、採光や景観などを考慮して左右のどちらか片側が支柱だけになっていたり、壁ではあるものの窓が設けられていたりするのが特徴です。
断面形状についても違いがあり、トンネルは断面が半円形なのに対し、覆道は長方形のものが多くなっています。この形状の違いは、それぞれの建造物の目的と機能を反映したものといえるでしょう。
覆道は目的に応じて以下のように細かく分類されます。
これらの分類は構造物の剛性を決定するために想定される荷重、または最も作用する頻度の多い荷重の名称によって決められており、実際には2つ以上の用途を兼ねていることが多いのが実情です。
特にロックシェッドの場合、落石の規模が大きく道路の幅員に余裕がなく落石防護柵等では防げない場合や、落石の跳躍高が大きいため柵を飛び越す場合に用いられます。一般に高価であるため、他の落石防護では対策できない場合に検討される最後の手段として位置づけられています。
覆道の構造は上部構造(主構・主梁・頂版・側壁・柱)と下部構造(山側受台・谷側受台・底版・基礎)、支承部によって構成されています。
落石防止用の覆道では、頂部を水平にしていると落石の衝撃を受けることで洞門が破壊されることがあるため、予め斜面を崩しておいて、天井上部の土砂と切土とで斜面を一体化させた緩やかな勾配を作って落石の衝撃を和らげ自然に流下させる工夫が施されています。
落石で生じる衝撃力を和らげるためには緩衝材が設けられ、主に砂が使用されますが、砂・鉄筋コンクリート版・発泡スチロールの三層緩衝構造も開発されています。これらの緩衝材は降雨で流出しないよう、土砂留め壁を設けるなどの対策が必要です。
設計上で必ず考慮する荷重は自重・土圧・落石・地震・雪崩・自動車衝突であり、現場の条件によって水圧・堆積土・積雪も考慮に入れられます。特に堆積土の荷重は非常に大きく、一般には取り除くことが原則とされていますが、土砂の除去が困難な場合は設計時に考慮する必要があります。
覆道は本来防護を目的とした建造物ですが、近年ドライブスポットとしても注目を集めています。片側が開放された独特の構造により、トンネルとは異なる開放感のある走行体験を提供してくれます。
特に山間部の覆道では、走行中に美しい渓谷や山並みを眺めることができ、まるで額縁に切り取られた絵画のような景色を楽しむことができます。この「額縁効果」により、普通の道路からは見えない角度での景観を堪能できるのが覆道ドライブの魅力です。
また、覆道内部の照明効果や、外光との明暗のコントラストが生み出す幻想的な雰囲気も、写真愛好家やドライブ愛好家から高い評価を受けています。SNSでは「映える覆道」として話題になることも多く、新たな観光資源としての価値も見出されています。
さらに、覆道の中には歴史的価値の高いものも存在し、建設当時の土木技術の粋を集めた構造物として、産業遺産的な価値を持つものもあります。これらの覆道は、単なる通過点ではなく、日本の土木技術の発展を物語る貴重な文化財としても位置づけられています。
覆道を通過する際は、その建造物が持つ防護機能と美的価値の両方を意識することで、より深いドライブ体験を得ることができるでしょう。安全運転を心がけながら、覆道が織りなす独特の空間美を楽しんでみてはいかがでしょうか。