2024年2月、福岡市天神の繁華街で発生した衝突事故は、偽装覆面パトカーの危険性を如実に示す事例となりました。事故当時、本村陸被告(24歳)が運転する偽装覆面パトカーは、赤色灯を点滅させながらサイレンを鳴らし、マイクで「交差点に進入します」と周囲に呼びかけながら赤信号を無視して交差点に進入しました。
この結果、青信号で直進していたタクシーと衝突し、運転手と乗客合わせて4人が負傷する重大事故となりました。ドライブレコーダーには、タクシー運転手が緊急通報サービスに「事故の相手はパトカーだったと思います」と報告する音声が記録されており、偽装の巧妙さを物語っています。
福岡地裁は2024年10月3日、本村被告に懲役2年2カ月・執行猶予5年、助手席の仰木康汰被告(26歳)に懲役2年・執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。田野井蔵人裁判官は「浅はかにも緊急車両の真似事をした被告人の運転が危険極まりないことは明らか」と厳しく指摘し、「周囲の迷惑や警察活動への悪影響も顧みない自己中心的な犯行」と断罪しました。
SNS上では、一般車両を覆面パトカー風にカスタマイズした写真が頻繁に投稿されており、「エセ覆面」として話題となっています。これらのカスタマイズには以下のような手法が用いられています。
主要な改造内容
インターネットオークションサイトでは、警察で使用されているものと同タイプの赤色灯やサイレン機器、アンテナなどが一般向けに販売されており、これらを利用してリアルな偽装を行う人が少なくありません。
カスタマイズの動機として、「警察車両が好き」「カッコイイ」といった趣味的要素に加え、「覆面パトカー仕様にすることで周囲の車両から煽られない」というメリットを挙げる人もいます。しかし、このような安易な考えが重大な法的問題を引き起こす可能性があることを理解していない場合が多いのが実情です。
偽装覆面パトカーの製作・使用には、複数の法的問題が存在します。最も重要なのは、警察のロゴや記号を車両に表記した場合、刑法第166条第2項に規定する「偽造公記号使用罪」に抵触し、3年以下の懲役が科せられる可能性があることです。
主要な違反法令
2020年12月には、北海道札幌市内でハロウィーンの夜に偽装パトカーを走行させた2人の男が道路運送車両法違反と道路交通法違反の疑いで書類送検されています。また、前述の福岡市の事例では、危険運転致傷罪が適用され、重い刑事罰が科せられました。
私有地での使用については法的問題は少ないものの、公道に出た瞬間から様々な法的リスクが発生します。特に赤色灯を点灯させたり、サイレンを鳴らしたりして緊急車両を装った走行を行うことは、極めて重大な犯罪行為となります。
偽装覆面パトカーの存在は、社会全体に深刻な影響を与えています。最も重要な問題は、本物の警察車両に対する信頼性の低下です。一般市民が偽装車両と本物の区別がつかない状況では、緊急時の適切な対応が困難になる可能性があります。
社会への悪影響
福岡市の事例では、被告らが約10回にわたって「緊急走行ごっこ」を繰り返していたことが明らかになっています。このような行為により、他の車両に無理な道路譲渡を強要したり、交通信号を無視したりすることで、交通秩序全体が乱れる危険性があります。
また、SNSでの拡散により、同様の行為に憧れを抱く人が増加する傾向も見られます。特に若年層において、警察車両への憧れから安易に偽装行為に手を染めるケースが報告されており、教育的観点からも大きな問題となっています。
一般市民が偽装覆面パトカーを見分けるためには、いくつかの独自の観察ポイントがあります。これらの知識は、緊急時の適切な判断や、不審な車両の通報に役立ちます。
車両外観の違い
運転行動の特徴
特に注目すべきは、偽装車両の運転者の行動パターンです。本物の警察官は訓練された運転技術と判断力を持っているため、緊急走行時でも周囲の安全を最優先に考えた運転を行います。一方、偽装車両の運転者は往々にして自己満足的な運転を行い、真の緊急性がないにも関わらず危険な運転を続ける傾向があります。
また、本物の覆面パトカーは特定の車種やカラーリングに限定される傾向があり、これらの知識を持つことで判別の精度を高めることができます。しかし、最終的には疑わしい車両を発見した場合、直接対応せずに正規の警察機関に通報することが最も安全で確実な対応方法です。
覆面パトカーの偽装は単なる趣味の範囲を超えた重大な犯罪行為であり、社会全体の安全と秩序を脅かす行為です。法的な処罰の重さと社会への影響を十分に理解し、このような行為に手を染めることのないよう、強く警鐘を鳴らす必要があります。