ホンダフィットのマニュアルトランスミッション(MT)は、初代モデルから3代目まで長年にわたって設定されていました。特に2代目フィットから登場したRSグレードでは、1.5L i-VTECエンジンと組み合わされた6速MTが多くのスポーツドライビング愛好者に支持されていました。
先代3代目フィットRSに搭載されていた1.5L直噴DOHC i-VTECエンジンは、最高出力132psを発生し、MTとの組み合わせにより軽快なドライビングフィールを実現していました。このモデルは2017年に登場し、2020年1月まで販売されていましたが、現行4代目フィットの登場と共にMT設定は廃止されました。
歴代フィットMTの特徴。
2022年8月にホンダが発表したフィットRSの復活は、多くのスポーツカーファンに期待を抱かせました。しかし、2022年秋のマイナーチェンジで実際に登場したRSグレードには、残念ながらMT設定がありませんでした。
現行フィットRSは、ガソリンモデルとe:HEVモデルの両方が用意されていますが、トランスミッションはCVTのみとなっています。2024年9月の一部改良でも、オートリトラミラーや全席オートパワーウィンドウなどの装備は充実したものの、MT追加は実現していません。
この状況に対して、従来のフィットMTオーナーからは「MT無いから乗り換えを断念」という声が多数上がっており、販売現場でも思わぬ反響となっています。特に先代フィットRSのMTオーナーにとっては、後継車種の選択肢が限られる結果となりました。
興味深いことに、スーパー耐久レースでは現行フィットに旧型フィットの6速MTを移植した車両が特認制度により出場しており、華麗な走りを披露しています。これは技術的にはMT搭載が可能であることを示唆しています。
フィットMTの復活が実現しない背景には、複数の技術的課題と市場要因があります。最も大きな要因は、先代フィットでMT仕様の販売比率が約2%程度と極めて低かったことです。
現行フィットの設計上の課題。
また、現行フィットは従来のスポーティさよりも「親しみやすさやリビング感」を重視したコンセプトで開発されており、MTのようなスポーティな仕様は方向性が異なるという側面もあります。
技術的には、エンジンとトランスミッションのマッチング最適化、ギア比の調整、燃費性能の維持など、多くの課題をクリアする必要があります。これらの開発コストを考慮すると、限られた需要に対して投資対効果が見込めないというのがメーカーの判断と考えられます。
フィットMTの復活可能性について、いくつかの観点から分析すると、完全に諦める必要はないかもしれません。ホンダは「楽しい運転」を提供することを重視しているメーカーであり、フィットRSの復活もその一環として位置づけられています。
復活の可能性を示す要因。
特に、電動化が進む中でも一部のスポーツカーではMT需要が根強く残っており、ホンダもその動向を注視していると考えられます。フィットMTの復活は、特定のニッチ市場をターゲットにした有効な戦略となる可能性があります。
市場の反応としては、若年層やドライビングを趣味とする層からの支持が期待でき、運転の楽しさや車との一体感を求めるユーザーにとって大きな魅力となるでしょう。また、MT車は燃費効率が高く、メンテナンスコストも比較的低いという実用的なメリットもあります。
現在フィットMTの復活を待ち望んでいるユーザーにとって、代替車種の選択は重要な課題です。国産コンパクトカーでMT設定がある車種は限られており、選択肢は狭まっています。
現在MT設定がある主な国産コンパクトカー。
これらの車種の中でも、フィットに近い性格を持つのはヤリスやスイフトですが、それぞれ異なる特徴があります。ヤリスは比較的新しい設計で燃費性能に優れ、スイフトはスポーティな走りが魅力です。
フィットMT復活を実現するためには、ユーザーの声を継続的にメーカーに届けることが重要です。SNSでの発信、ディーラーでの要望、ユーザーコミュニティでの議論など、様々な形でニーズを表明することが復活への道筋となるかもしれません。
また、中古車市場では先代フィットRSのMT仕様が人気を集めており、程度の良い個体は価格が上昇傾向にあります。現在フィットMTを所有している方は、その価値を理解して大切に維持することが重要です。
将来的には、ホンダの電動化戦略の中でも、スポーティなモデルに対する需要は一定程度残ると予想されます。フィットMTの復活は、ホンダの技術力と熱意を示すシンボルとなる可能性があり、多くのファンがその実現を心待ちにしています。