中国におけるアルファードの新車価格は、メーカー公式発表で77.2~85.6万元(約1235万~1369.6万円)となっている。これは日本の車両本体価格352~761万円と比較すると実に2~3倍の価格設定だ。
しかし、この価格はあくまで参考価格に過ぎない。実際のディーラー販売価格では、人気の高さから公式価格での販売はほぼ不可能で、優先納車のための追加料金(納車費用)が上乗せされる。その結果、最終的な販売価格は約2500万円に達することもある。
この高額な価格設定の背景には、15%の関税が課税されることに加え、日本からの輸入車であることが大きく影響している。中国の自動車市場では、輸入車に対する関税政策が価格形成に大きな影響を与えているのが現状だ。
中国のアルファード中古車市場では、「保値率」(残存価格率)が異常に高い水準を維持している。中国最大級の自動車メディア「汽車之家」のデータによると、以下のような驚愕の数値を記録している。
特に注目すべきは、1年経過しても保値率が100%を超えている点だ。これは新車よりも中古車の方が高値で取引されていることを意味する。5年経過してようやく中古車販売価格がメーカー公式の新車価格とほぼ同等に落ち着くという、日本では考えられない市場状況となっている。
この異常な保値率の背景には、新車の入手困難さと、VIP送迎車としての需要の高さがある。中国の富裕層にとって、アルファードは単なる移動手段ではなく、ステータスシンボルとしての価値を持っているのだ。
アルファードの中国での人気は、実は香港から始まった現象である。2002年に日本で登場したアルファードは、その直後に右ハンドル・左側通行という香港の道路事情に適したミニバンとして現地に導入された。
香港では「車には3種類しかない。高級車、小型車、そして保姆車(お金持ちの送迎車)だ」というジョークがあるほど、アルファードは保姆車の代名詞となっている。この文化的背景には、テレビや香港映画のスターがアルファードを移動用に使用していたことが大きく影響している。
香港でのアルファード人気は中国本土にも波及し、現在では中国全土でVIP送迎車としての地位を確立している。特に中国では、パーソナルユースよりもビジネスユースが主体となっており、いかに豪華で快適、そしてゴージャスな車であるかが重要視されている。
アルファードの異常な人気を受けて、中国では数多くの類似デザインを持つ車両が登場している。特に話題となったのが、軽自動車サイズの未奥汽車「BOMA」である。
主な中国製アルファード類似車両:
これらの車両は、フロントフェイスを中心にアルファードのデザインを模倣したものが多く、「軽みたいなアルファード」として話題を集めた。特に未奥「BOMA」は全長3.5mという軽自動車サイズでありながら、完全にアルファードと言えるフロントデザインを採用していた。
ただし、2024年3月のマイナーチェンジ以降、BOMAは異なるデザインに変更されており、中国の自動車メーカーも独自性を重視する方向に転換している。
現在の中国自動車市場では、かつての「コピー車大国」のイメージから脱却し、独自のデザインと技術力を持つメーカーが台頭している。中堅以上の自動車メーカーでは、欧米の著名デザイナーを引き抜き、特色ある独自デザインを展開している。
中国独自の高級ミニバン市場の特徴:
2024年の北京モーターショーでは、XPENG X9、ZEEKR 009、DENZA D9 PIONEERなど、アルファードとは異なる独自のアプローチを取る高級ミニバンが多数展示された。これらの車両は、アルファードの影響を受けながらも、中国市場特有のニーズに応える独自の進化を遂げている。
特に注目すべきは、中国の高級ミニバン市場では、単なる移動手段ではなく「動くVIPルーム」としての機能が重視されている点だ。ゼログラビティシート、巨大ディスプレイ、冷蔵庫などの豪華装備が標準的に搭載されており、日本のアルファードを上回る豪華さを実現している車両も存在する。
中国のアルファード市場は、今後も高い人気を維持しながら、現地メーカーとの競争激化により、より多様で高品質な選択肢が提供される市場へと発展していくと予想される。トヨタにとっても、この巨大な市場での地位を維持するため、中国市場特有のニーズに応える戦略的な取り組みが求められている。