暴力行為等処罰法と刑法の違いとは?車での脅迫適用例

運転中のトラブルや喧嘩で適用される暴力行為等処罰法と刑法の違いを知っていますか?凶器使用や集団暴行の場合、通常の暴行罪より刑罰が重くなることも。どんなケースで適用されるのでしょうか?

暴力行為等処罰法と刑法の違い

この記事でわかること
⚖️
暴力行為等処罰法の適用条件

凶器使用や集団暴行など、通常の暴行罪より厳しく処罰される条件を解説

🚗
車の運転と法律適用

あおり運転や車内での暴力行為に適用される法律の具体例

📊
刑罰の違いと実例

刑法と暴力行為等処罰法での刑罰の差と実際の事件例

暴力行為等処罰法の基本的な内容と目的


暴力金脈 [VHS]

 

暴力行為等処罰法は、正式には「暴力行為等処罰ニ関スル法律」といい、大正15年に施行された特別法です。この法律は、元来は暴力団による暴力行為を処罰するために制定されましたが、過去には学生運動を取り締まる際にも適用されました。現代では、集団的ないじめや配偶者間での暴力、さらには車の運転中のトラブルでも適用されています。
参考)暴力行為等処罰に関する法律とは? 時効や適用されるケースを解…

e-Gov法令検索の暴力行為等処罰法条文
暴力行為等処罰法の正式な条文を確認できる政府の公式サイトです。

 

刑法における暴行罪、脅迫罪、器物損壊罪などの基本的な犯罪に対して、集団的な威力を示したり、凶器を使用したりした場合に、より重い刑罰を科すことを目的としています。暴力行為等処罰法第1条では、団体もしくは多衆の威力を示したり、凶器を示したり、数人共同して刑法第208条(暴行罪)、第222条(脅迫罪)、第261条(器物損壊罪)の罪を犯した者は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金に処すると規定されています。
参考)暴力行為等処罰に関する法律|小島法律事務所|福岡県飯塚市の弁…

法律が制定された背景には、集団での暴力行為が社会秩序を大きく乱す危険性があることから、通常の個人犯罪よりも厳しく処罰する必要性があったためです。暴力団による組織的な犯罪を抑止する目的で作られましたが、現在では幅広い状況に適用されています。
参考)暴力行為等の処罰に関する法律違反事件

暴力行為等処罰法と刑法の適用基準の違い

暴力行為等処罰法と刑法の最も大きな違いは、適用される状況と刑罰の重さにあります。刑法第208条の暴行罪は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立し、法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。一方、暴力行為等処罰法第1条が適用されると、懲役刑の上限が3年に引き上げられます。
参考)暴行罪(ぼうこうざい)

刑法の脅迫罪(第222条)の法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金ですが、暴力行為等処罰法1条が適用されると3年以下の懲役または30万円以下の罰金となり、刑罰が重くなります。さらに、銃砲または刀剣類を用いて人の身体を傷害した場合、暴力行為等処罰法第1条の2により1年以上15年以下の懲役に処されますが、これは刑法第204条の傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)と比較して罰金刑の選択肢がなく、最低でも1年以上の懲役となる点で厳格です。
参考)暴力行為等処罰に関する法律違反事件で書類送検

犯罪類型 刑法での法定刑 暴力行為等処罰法での法定刑
暴行罪 2年以下の懲役または30万円以下の罰金、拘留、科料 3年以下の懲役または30万円以下の罰金
脅迫罪 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 3年以下の懲役または30万円以下の罰金
傷害罪(刀剣類使用) 15年以下の懲役または50万円以下の罰金 1年以上15年以下の懲役
常習的傷害罪 適用なし 1年以上15年以下の懲役

適用基準としては、暴力行為等処罰法は①実際に団体や多数人で威力を示して行った場合、②本来は違うのに団体や多数人であるかのように装って威力を示して行った場合、③凶器を示して行った場合、④数人で共同して行った場合のいずれかに該当する必要があります。これに対して刑法の暴行罪や脅迫罪は、単独犯でも成立するという点で適用範囲が異なります。
参考)【事例解説】集団を装っての脅迫 暴力行為等処罰法違反事件

暴力行為等処罰法が車の運転中に適用される事例

車の運転中に発生したトラブルで暴力行為等処罰法が適用される典型例は、複数人による共同暴行や凶器を使用した脅迫です。実際の事例として、タクシー内で包丁などの凶器を示して脅迫行為を行った場合、暴力行為等処罰法違反の疑いで逮捕されることがあります。包丁という凶器を示しながら「殺すぞ」という脅迫行為を行ったケースでは、暴力行為等処罰法1条が適用され、法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
参考)タクシーで凶器を示して暴力行為等処罰に関する法律違反

あおり運転に関連した事件でも、暴力行為等処罰法が適用されることがあります。2017年に発生した東名高速道路での死亡事故では、被告人が追い越し車線上で被害車両を強引に停車させ、車から降りてきた被害者夫婦に暴行を加えました。この事件では、悪質なあおり運転と暴行行為が組み合わさったことで、危険運転致死傷罪とともに暴行罪でも訴追されました。
参考)危険運転致死傷罪に当てはまるケースと逮捕された後の流れ|ベン…

あおり運転と暴行罪の関係についての詳細解説
あおり運転で妨害運転罪が新設される前の暴行罪適用について解説されています。

 

車内での共同暴行も暴力行為等処罰法が適用される事例です。同僚2人が一緒になって被害男性へ暴行行為をした場合、「数人共同して」刑法第208条の暴行罪を犯したとして、暴力行為等処罰法第1条違反となります。この場合、刑法の暴行罪(2年以下の懲役)ではなく、暴力行為等処罰法違反(3年以下の懲役)として検挙されることになります。
参考)(事例紹介)同僚への共同暴行で暴力行為等処罰法違反事件に

さらに、あおり運転の際に車の窓を開けてほかの車に対して物を投げつけるような行為や、幅寄せなどの危険行為そのものが暴行罪にあたる可能性があり、複数人で行った場合は暴力行為等処罰法が適用されることもあります。暴行罪の「暴行」とは「人の身体に対する不法な有形力の行使」と定義されており、人に接触しない行為も含まれるため、あおり運転の煽り行為についても不法な有形力の行使に該当し、暴行罪が成立し得ます。
参考)あおり運転に暴行罪は適用される?妨害運転罪の新設により厳罰化…

暴力行為等処罰法における常習犯と特別規定

暴力行為等処罰法には、常習的に暴力行為を繰り返す者に対する特別な規定があります。暴力行為等処罰法第1条の3は、「常習として刑法第204条(傷害罪)、第208条(暴行罪)、第222条(脅迫罪)又は第261条(器物損壊等罪)の罪を犯した者」について、より重い刑罰を規定しています。常習的に人を傷害した場合は1年以上15年以下の懲役、常習的に暴行・脅迫・器物損壊をした場合は3月以上5年以下の懲役に処されます。​
常習犯として認定されるためには、単に複数回の犯罪を行っただけでなく、反復して同種の犯罪を行う習癖があることが必要です。家庭内で夫から妻への暴力が日常的に行われている場合には、常習的暴行として暴力行為等処罰法第1条の3が適用される可能性があります。車の運転に関しても、日常的にあおり運転やドライバーへの暴力行為をおこなっていたことが判明した場合、常習犯として扱われることがあります。​

  • 常習的傷害罪:1年以上15年以下の懲役
  • 常習的暴行罪:3月以上5年以下の懲役
  • 常習的脅迫罪:3月以上5年以上の懲役
  • 常習的器物損壊罪:3月以上5年以下の懲役

さらに、暴力行為等処罰法第2条には、「財産上不正の利益を得又は得しむる目的を以て第1条の方法に依り面会を強請し又は強談威迫の行為を為したる者は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処す」という規定があります。これは、不正な利益を得る目的で集団的・常習的に脅し従わせる行為を処罰するものです。​
常習犯の認定では、過去の犯罪歴や犯行の態様、動機などが総合的に考慮されます。車に乗っている人の場合、運転中のトラブルで繰り返し暴力行為に及んでいる場合は、常習犯として暴力行為等処罰法が適用されるリスクが高まります。​

暴力行為等処罰法違反での車運転者の防衛策と注意点

車を運転する際に暴力行為等処罰法違反で検挙されないためには、いくつかの重要な注意点があります。まず、複数人で車に乗っている状況で口論やトラブルが発生した場合、集団での威力を示す行為として暴力行為等処罰法が適用される可能性が高まります。単独での暴行や脅迫であれば刑法の暴行罪や脅迫罪にとどまりますが、複数人で共同して行うと刑罰が重くなるため、同乗者がいる状況での暴力行為は特に慎重に避けるべきです。​
車内に包丁やバット、スタンガンなどの凶器を所持している状態でトラブルになった場合、それを示すだけで暴力行為等処罰法違反となる可能性があります。実際に凶器を使用しなくても、「凶器を示し」て脅迫や暴行を行った場合に適用されるため、車内に不要な凶器類を置かないことが重要です。あおり運転の際に、相手を停車させて車外に出て胸倉をつかむ、胸を強く押すなどの行為をすると、暴行罪に問われるだけでなく、状況によっては暴力行為等処罰法違反となる可能性があります。
参考)あおり運転に該当する違反行為とは? 逮捕された場合の罰則につ…

もし暴力行為等処罰法違反で検挙された場合、早期に弁護士に相談することが重要です。暴力行為等処罰法違反の場合、懲役刑の選択肢しかないケースもあり(例:銃砲または刀剣類を使用した傷害では1年以上15年以下の懲役)、罰金刑で済まない可能性が高いためです。被害者との示談交渉を迅速に進めることで、不起訴処分や執行猶予判決を得られる可能性が高まります。​

  • 運転中のトラブルでは冷静さを保ち、暴力行為に発展させない
  • 複数人で相手に対峙する状況を作らない
  • 車内に凶器となり得るものを不必要に置かない
  • あおり運転をされても報復行為に出ない
  • トラブル発生時は警察に通報し、自力での解決を避ける

道路交通法違反とは別に、暴力行為等処罰法違反や刑法の暴行罪・傷害罪で処罰される可能性があることを理解し、運転中の感情的な行動を避けることが最も効果的な防衛策となります。​

 

 


治安政策と法の展開過程