ビルの中に高速道路が通る大阪の奇跡的建築物

大阪市福島区にあるTKPゲートタワービルは、世界でも珍しい高速道路がビルを貫通する建物です。なぜこのような構造が生まれたのでしょうか?

ビルの中に高速道路が通る大阪の驚異

ビルの中に高速道路が通る大阪の奇跡
🏢
TKPゲートタワービル

阪神高速道路11号池田線の梅田出口が5~7階を貫通する16階建てビル

🛣️
立体道路制度

1989年に制定された道路と建物の一体整備を可能にする制度

⚖️
5年間の交渉

地権者と阪神高速道路公団が譲らず生まれた妥協案

ビルの中に高速道路が通るTKPゲートタワービルの基本情報

大阪市福島区にあるTKPゲートタワービルは、世界でも極めて珍しい高速道路がビルを貫通する建築物です。地下2階、地上16階建てのこのオフィスビルは、5階から7階部分を阪神高速道路11号池田線の梅田出口に向かう出路が貫通しています。

 

建物の構造は非常にユニークで、阪神高速道路がビルの「テナント」として5~7階部分に入居している形態をとっています。エントランスの案内板にも、5階から7階部分に「阪神高速道路」と明記されており、まさに道路が賃貸物件として入居している状況です。

 

📍 基本データ

  • 所在地:大阪市福島区福島1丁目
  • 建物規模:地下2階、地上16階建て
  • 竣工年:1992年(平成4年)
  • 貫通階層:5~7階(3フロア)
  • 運営会社:ティーケーピー(TKP)

JR大阪駅から徒歩約10分という好立地にあり、現在は貸し会議室大手のティーケーピーが「TKPガーデンシティ大阪梅田」として運営しています。ビルと道路は完全に分離された構造となっており、仮にビルを解体しても道路には影響がないという設計になっています。

 

ビルの中に高速道路が通る構造の安全性と技術

TKPゲートタワービルの安全性は、最新の建築技術と厳格な安全基準によって確保されています。道路とビルは物理的に接触しておらず、それぞれが独立した構造体として設計されています。

 

🔧 安全対策の詳細

  • 防火対策:ビル内部とその前後5メートルの道路上空・側面をシェルターで完全に覆う
  • 落下物防止:専用の防護構造により、ビルからの落下物を完全に遮断
  • 振動対策:道路の振動がビルに伝わらない独立構造
  • 騒音対策:防音設備により、道路騒音がビル内に影響しない設計

道路部分は1車線の急カーブとなっており、制限速度も一般的な高速道路より低く設定されています。トンネル内は十分な照明が確保され、路面標示も明確に表示されているため、初めて通行するドライバーでも安全に走行できます。

 

また、ビルのエレベーターからはガラス越しに高速道路の本線を間近で眺めることができますが、エレベーターは道路部分の5~7階には停止しません。これは安全性の確保と、道路とビルの完全分離を維持するための措置です。

 

建築基準法や道路法の厳格な基準をクリアしており、定期的な安全点検も実施されています。竣工から30年以上が経過していますが、大きな事故やトラブルは報告されておらず、その安全性の高さが証明されています。

 

ビルの中に高速道路が通る誕生秘話と5年間の交渉

この奇跡的な建築物が誕生した背景には、地権者と阪神高速道路公団(現・阪神高速道路株式会社)による5年間にわたる壮絶な交渉がありました。

 

📅 交渉の経緯

  • 1983年:地権者の末澤産業が社屋改築を計画
  • 同時期:阪神高速道路の梅田出口建設計画が浮上
  • 1983年~1988年:約5年間の交渉期間
  • 1989年:立体道路制度の制定
  • 1992年:現在の形での竣工

地権者の末澤産業は1893年(明治26年)創業の老舗企業で、1909年(明治42年)からこの場所で製薪炭業やLPガス事業を営んでいました。社屋の老朽化により改築を計画しましたが、都市計画により高速道路が通ることになっていたため、建築許可が下りない状況でした。

 

LPガス充填所という特殊な事業の性質上、簡単に移転することができない末澤産業と、都市部の交通渋滞解消のため梅田出口が必要な阪神高速道路公団、双方ともに譲ることができない事情がありました。

 

💰 経済的メリット

  • 阪神高速側:土地買収費用の大幅削減(区分地上権設定の方が安価)
  • 地権者側:一等地での事業継続が可能
  • 社会的効果:都市部の限られた土地の有効活用

この交渉は単なる対立ではなく、最終的には両者にとってメリットのある解決策となりました。梅田に近い一等地で地価が高いこの場所では、土地を完全に買収するよりも区分地上権を設定する方が阪神高速側にとって経済的でした。

 

ビルの中に高速道路を可能にした立体道路制度

TKPゲートタワービルの実現には、1989年に制定された「立体道路制度」が不可欠でした。この制度は、道路と建築物の一体的整備を可能にする画期的な法制度です。

 

⚖️ 立体道路制度の概要

  • 制定年:1989年(平成元年)
  • 改正法律:道路法、都市計画法、都市再開発法、建築基準法
  • 目的:都市部での効率的な道路建設と土地有効活用
  • 適用第1号:TKPゲートタワービル

従来の道路区域は平面的な区域で指定されるため、地表面だけでなく上空や地下空間も道路区域となり、建物の建築は原則として認められていませんでした。立体道路制度では、道路区域を立体的な範囲で指定することで、立体的区域の外側空間は道路区域ではなくなり、建物等の建築が可能になります。

 

🏗️ 制度の活用パターン

  • 地下道路の地上部分への建物建築
  • 既存建物の地下への道路新設
  • 建物内への高架道路通過(TKPゲートタワービルのケース)
  • サービスエリア・パーキングエリアとの一体整備
  • 地下道路換気施設との一体建築

この制度により、大都市部での用地買収問題を解決し、限られた土地を最大限に活用することが可能になりました。TKPゲートタワービルは、この制度を活用した日本初の事例として、建築史上重要な意味を持っています。

 

現在では全国各地でこの制度が活用されており、都市部の交通インフラ整備に大きく貢献しています。類似する制度として、河川立体区域や立体都市公園制度も存在し、限られた都市空間の有効活用が進んでいます。

 

ビルの中に高速道路が通る大阪のもう一つの事例

実は大阪には、TKPゲートタワービル以外にも立体道路制度を活用した施設があります。それが浪速区にある「湊町リバープレイス」内の「湊町パーキングエリア」です。

 

🅿️ 湊町パーキングエリアの特徴

  • 所在地:大阪市浪速区湊町1丁目
  • 施設:イベントスペース「湊町リバープレイス」2階
  • 駐車台数:普通車21台、身障者用2台
  • 制限:大型車駐車不可(高さ2.1m、長さ5.0mまで)

この施設は阪神高速道路の湊町出口の出路を分岐して、パーキングエリアの入り口に到達する構造になっています。ビル内にパーキングエリアが設置されているという、これもまた世界的に珍しい事例です。

 

施設内には売店やレストランはありませんが、トイレや自動販売機、休憩所、道路交通情報板、スマートフォン充電器の貸し出し、無線LANなど、ドライブの小休止に必要なサービスが一通り揃っています。

 

⚠️ 利用時の注意点

  • 湊町パーキングエリアを利用すると湊町出口からは出られない
  • PA出口は阪神高速道路本線に合流
  • 最寄りの出口は信濃橋出口
  • 同じビル内のライブハウス「なんばHatch」等への移動は不可

この施設も立体道路制度の恩恵を受けており、都市部での効率的な交通インフラ整備の好例となっています。TKPゲートタワービルとは異なり、パーキングエリアとしての機能に特化した設計となっているのが特徴です。

 

両施設とも、大阪の限られた都市空間を最大限に活用した革新的な建築物として、国内外から注目を集めています。これらの事例は、今後の都市開発における重要な参考事例となっており、同様の計画が全国各地で検討されています。