移動式クレーン免許を持っていても、荷物を1個も吊れない場合があります。
クレーンの免許と聞いて「1種類だろう」と思っている人は少なくありません。実際には、つり上げ荷重5t以上を扱うための国家資格だけで4種類あります。
それぞれの免許が対応できるクレーンの範囲が異なるため、「どのクレーンを動かすか」によって取得すべき免許が変わってきます。
| 免許の種類 | 運転できるクレーン | 学科合格率 |
|---|---|---|
| クレーン・デリック運転士免許(限定なし) | 移動式クレーンを除くすべてのクレーン+デリック | 約65.9% |
| クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定) | 移動式クレーンを除くすべてのクレーン | 約57.7% |
| クレーン・デリック運転士免許(床上運転式限定) | 床上運転式クレーン・床上操作式クレーン、5t未満クレーン | 約45.5% |
| 移動式クレーン運転士免許 | すべての移動式クレーン(公道走行には別途自動車免許が必要) | 約64.2% |
上位免許である「限定なし」はデリックも操作できますが、実技試験の合格率がわずか17.9%と非常に低い点が特徴です。合格率17.9%というのは、試験会場に10人が受験した場合、合格するのはたったの1〜2人という水準です。取得の難易度は高めと覚えておきましょう。
一方で、「床上運転式限定」の実技合格率は66.1%と比較的取りやすいため、工場内の天井クレーンを扱いたい人には現実的な入口になります。
受験料は学科8,800円・実技14,000円(2024年8月現在)です。教習所を利用した場合の総費用は13万〜16万円程度が相場になります。
つり上げ荷重の「5トン」は、小型バスや大型トラック1台分に相当する重さです。この重量を超えると国家資格が必須になるという基準を覚えておくと整理しやすいです。
日本クレーン協会|クレーン等の就業制限早見表(各資格で扱えるクレーンが一目でわかる公式資料)
国家試験の「免許」以外に、教習所での受講で取得できる「技能講習」と「特別教育」があります。難易度が下がる分、操作できるクレーンの範囲も限られてきます。
これが基本です。
まず「特別教育」は、つり上げ荷重5t未満のクレーンに対応した最もハードルの低い資格です。受講料は1万2,000円〜1万3,000円程度で、学科9時間・実技4時間を受講すれば取得できます。法的な合否試験が存在しないため、原則として受講さえすれば修了証が交付されます。
次に「技能講習」は、特別教育と免許の中間に位置します。
| 技能講習の種類 | 対応できるクレーン | 受講料の目安 | 講習期間 |
|---|---|---|---|
| 床上操作式クレーン運転技能講習 | 5t以上の床上操作式クレーン+5t未満のクレーン | 2万〜3万円程度 | 約3日間 |
| 小型移動式クレーン運転技能講習 | つり上げ荷重1t以上5t未満の移動式クレーン | 3万〜5万円程度 | 約3日間 |
| 玉掛け技能講習 | つり上げ荷重1t以上のクレーンへの玉掛け作業 | 約2万2,000円 | 約3日間 |
街中でよく見かける「ユニック車(クレーン付きトラック)」の小型なものは、小型移動式クレーン運転技能講習でカバーできます。講習時間は学科13時間・実技7時間の合計20時間程度で、車の免許のように何ヶ月もかかる心配はありません。
厳しいところですね。
技能講習で取得した資格は、上位免許へのステップアップが可能な設計になっています。たとえば「床上操作式クレーン運転技能講習」の修了者が「クレーン・デリック運転士免許(床上運転式限定)」を受験する際は、学科の一部科目が免除されます。持っている資格を積み上げながら、より上位の免許を目指せる仕組みです。
また、玉掛け技能講習を先に受講しておくと、小型移動式クレーン運転技能講習受講時に「力学」と「合図」の科目が免除されます。順番を工夫するだけで費用と時間を節約できます。これは使えそうです。
厚生労働省|クレーン等運転関係技能講習規程(各技能講習の受講時間・科目の公式規程)
車好きの人が気になるのは、やはり「走る」クレーン、つまり移動式クレーンでしょう。ここに重要な落とし穴があります。
移動式クレーンは、クレーン作業の資格だけでは公道を走れません。
クレーン操作の資格(移動式クレーン運転士免許など)はあくまで現場での「吊り上げ作業」に対応した資格であり、公道を走行するための自動車免許とは法律上まったく別物として扱われています。
車種によって必要な走行免許が変わる点は、車好きの感覚とズレやすい部分です。
| クレーンの種類 | 必要な走行免許 | 必要な操作資格 |
|---|---|---|
| ユニック車(小型クレーン付きトラック) | 普通〜大型自動車免許(車両総重量による) | 小型移動式クレーン運転技能講習 |
| トラッククレーン(大型) | 大型自動車免許 | 移動式クレーン運転士免許 |
| ラフタークレーン | 大型特殊免許 | 移動式クレーン運転士免許 |
| クローラークレーン | 大型特殊免許(公道走行時) | 移動式クレーン運転士免許 |
注目したいのがラフタークレーンです。建設現場でよく見る大きなクレーン車の一種ですが、道路交通法上は「大型特殊自動車」に分類されるため、大型自動車免許では公道を走れません。大型免許を持っていても別途「大型特殊免許」が必要になります。
つまり大型免許だけでは走れません。
大型特殊免許は教習所に通うことで取得できます。費用は8万〜15万円程度、取得日数は3〜10日程度が目安です。すでに普通自動車免許を持っていれば取得自体はそれほど難しくありません。一方、移動式クレーン運転士免許の教習所費用は13万〜16万円程度かかります。両方合わせると、ラフタークレーンを1台使いこなすまでに20万〜30万円以上の投資が必要になる計算です。
2017年3月12日以降に普通免許を取得した場合は、運転できる車両の総重量が3.5t未満に制限されます。クレーン付きトラックの多くはこの重量を超えるため、免許区分の確認が必須です。自分の免許の取得日を一度確認しておきましょう。
ARAV|ラフタークレーンとは?特徴・サイズ・必要な免許をわかりやすく解説
これは知らないと痛い話です。
クレーン免許を取得した直後に陥りやすいのが、「免許を持っているんだから荷物もかけられるだろう」という思い込みです。しかし実際には、クレーンのフックに荷物を掛けたり外したりする「玉掛け作業」は、クレーン免許とは完全に独立した別の資格が必要です。
昭和53年10月1日以降にクレーン・移動式クレーンの運転士免許を取得した者は、玉掛け技能講習を修了していなければ玉掛け作業の業務に就くことができません。これは日本クレーン協会の公式FAQでも明記されています。
無資格で玉掛け作業を行った労働者には50万円以下の罰金、そして無資格者に作業を行わせた事業者には6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。法的リスクは原則として原因者と管理者の双方に及びます。
50万円の罰金は大きいですね。
玉掛け技能講習の受講料は約2万2,000円。学科5時間・実技4時間で、約3日間で修了できます。これに対して、無資格作業によるリスクは刑事罰・行政処分・民事賠償まで広がりますので、コストとリスクの差は圧倒的です。
取得の順番としては、玉掛け技能講習を先に受講しておくことをおすすめします。玉掛けを先に修了しておくと、その後に小型移動式クレーン運転技能講習を受講する際に「力学」と「合図」の学科が免除され、費用と時間を節約できます。順番に注意すれば大丈夫です。
現場で実際にクレーン作業を担当する予定がある方は、クレーン操作の資格と玉掛けの資格の両方がセットであることを覚えておく必要があります。
日本クレーン協会|よくある質問(クレーン運転士免許と玉掛け作業の関係を公式FAQで解説)
車好きの人がクレーン免許を目指すとき、実は有利に働く知識・経験があります。意外な事実ですね。
まず、大型自動車免許や大型特殊免許をすでに持っている人は、移動式クレーンを「走らせる」部分のハードルが大幅に下がります。ラフタークレーンを動かすために別途必要な「大型特殊免許」の取得費用(8万〜15万円)を節約できるため、他の人より費用面でスタートが有利です。
また、エンジンや油圧系統への興味が深い人ほど、クレーンの学科試験で出題される「原動機および電気に関する知識」や「力学に関する知識」を習得しやすい傾向があります。移動式クレーン運転士免許の学科試験ではこれらが大きな得点源になるため、車の整備や構造に詳しい人は勉強時間を短縮できる可能性があります。
キャリアの観点からも、車好きとクレーン免許の組み合わせは実用的です。
資格の組み合わせを考えるうえでの鉄則は「特別教育→技能講習→免許」の順に積み上げていくことです。
たとえば、まず「クレーン運転の業務に係る特別教育(約1万2,000円)」を取得して実際の現場感覚をつかみ、次に「小型移動式クレーン運転技能講習」や「床上操作式クレーン運転技能講習」へ進む流れが費用面でも合理的です。国家試験の「移動式クレーン運転士免許」を最初に目指すと教習所費用だけで13万〜16万円かかりますが、段階を踏むことで費用と時間の両面でスムーズに進めます。
クレーン免許取得を検討している方は、まず自分が「どのクレーンを、どの現場で使うか」を明確にするところから始めるのがおすすめです。目標を決めれば、必要な資格の組み合わせが自然と絞り込めます。
公益財団法人 安全衛生技術試験協会|移動式クレーン運転士免許の受験案内(受験料・試験科目の公式情報)