カローラ スポーツのMT廃止は2022年10月の一部改良で実施されました。この廃止は「カローラ」「カローラ ツーリング」「カローラ スポーツ」の3車種で同時に行われ、6速MT仕様が完全にカタログから姿を消しました。
廃止前のカローラ スポーツMTは、1.2L直列4気筒ターボエンジンを搭載し、116馬力を発揮する仕様でした。2018年6月の発売から約4年間という比較的短い期間での廃止となり、MT車ファンにとっては衝撃的な出来事でした。
興味深いことに、この廃止は単独の決定ではなく、トヨタの全体的な戦略転換の一環として実施されました。同時期に1.2リッターターボエンジン自体も廃止され、パワートレインの大幅な見直しが行われています。
カローラ スポーツのMT廃止には複数の要因が絡んでいます。最も大きな理由は、圧倒的な需要の少なさです。カローラシリーズ全体でのMT比率はわずか4%未満で、年間約4,000台程度の販売にとどまっていました。
この数字を店舗レベルで見ると、全国約6,000のトヨタ販売店のうち、3分の1の店舗では年に1台もMTのカローラを販売していない計算になります。販売現場からも「ここ数年、カローラ スポーツのMTが新車納車されているのを見たことがない」という声が多く聞かれました。
さらに、先進安全技術の進化も廃止の要因となっています。現代の予防安全パッケージは電子制御が前提となっており、アナログなMTとの連携が技術的に困難になってきています。トヨタセーフティセンスの機能拡大に伴い、MT車では対応できない制御システムが増加していることも影響しています。
カローラ スポーツに搭載されていたiMT(インテリジェント・マニュアルトランスミッション)は、従来のMTとは一線を画す技術でした。この技術は、クラッチ操作をアシストし、初心者でもスムーズなギアチェンジを可能にする画期的なシステムでした。
iMTの最大の特徴は、エンジンとトランスミッションの協調制御により、シフトチェンジ時のショックを大幅に軽減することです。従来のMTでは熟練を要するヒール&トゥやダブルクラッチといった技術を、システムが自動的にサポートしてくれました。
しかし、一部のMT愛好家からは「ゲート位置が掴みづらく、ニュートラルの直立感もない」「燃費対策のためファイナルが高すぎて低回転がまるでダメ」といった厳しい評価も受けていました。特に海外仕様と比較して、日本仕様のファイナルギア設定が高すぎることが問題視されていました。
現在のところ、カローラ スポーツのMT復活の可能性は極めて低いと考えられています。トヨタは電動化戦略を加速させており、2030年に向けてハイブリッドやEVへのシフトを進めています。
この流れの中で、MTのような従来技術への回帰は現実的ではありません。市場全体でAT車が主流となり、特に日本市場では若年層のMT離れが深刻化しています。運転免許の取得時点でAT限定を選択する人が増加しており、MT車の潜在的な顧客層が縮小し続けています。
ただし、完全にMTが消滅するわけではありません。トヨタはGRカローラという高性能スポーツモデルで6速MTを継続しており、スポーツ走行に特化したモデルでは今後もMTの選択肢が残る可能性があります。
また、他メーカーではホンダのシビックタイプRやスズキのスイフトスポーツなど、MT比率が高いモデルも存在しており、ニッチな需要に対応する戦略も見られます。
カローラ スポーツMTの廃止により、中古車市場での価値が注目されています。新車での購入が不可能になったことで、MT仕様の中古車に対する関心が高まっています。
しかし、購入を検討する際には注意が必要です。カローラ スポーツMTには「パワー不足」「後席・荷室の狭さ」といった課題があり、購入後に後悔する声も聞かれます。116馬力のパワーは日常使用には十分ですが、スポーツ走行を期待すると物足りなさを感じる可能性があります。
また、MT車特有の課題として、渋滞時の運転疲労や駐車時の煩わしさ、坂道発進の難しさなどがあります。これらの要素を総合的に検討した上で、購入判断を行うことが重要です。
中古車選びでは、iMTシステムの状態確認が特に重要です。電子制御システムが複雑なため、故障時の修理費用が高額になる可能性があります。購入前には必ず専門店での詳細な点検を受けることをお勧めします。
現在、カローラ スポーツMTの中古車は限られた流通量となっており、良質な個体を見つけるには時間と労力が必要です。MT車にこだわる場合は、GRシリーズなどの新しいスポーツモデルも選択肢として検討する価値があるでしょう。