鉄筋コンクリート構造物が劣化する最大の原因は、内部の鉄筋が錆びることです。コンクリートに含まれる水酸化カルシウムがアルカリ環境を形成し、通常は鉄筋を保護していますが、経年劣化によってひび割れが生じると、外気や雨水に含まれる塩化物イオンと二酸化炭素が浸入します。この瞬間、アルカリ性が失われ、鉄筋の急速な腐食が始まります。
防錆剤は、このプロセスを化学的に遮断する役割を担っています。特に亜硝酸イオンを主成分とした防錆剤は、鉄筋表面に「不動態被膜」と呼ばれる保護膜を形成します。この被膜は酸化クロムで有名なステンレス鋼と同様のメカニズムで機能し、錆の発生を根本的に防ぎます。塗布型の防錆剤をコンクリート表面に施工することで、その浸透性により鉄筋深さまで到達し、長期間にわたって防錆効果を維持するのです。
防錆剤にはいくつかの種類があり、施工環境や鉄筋の状態によって使い分ける必要があります。ポリマーセメント系防錆剤は一般的な鉄筋工事で用いられ、エポキシ樹脂系は塗膜の耐久性が高く高耐久が求められる環境向けです。錆転換型防錆剤は既に発生した浮き錆に効果があり、低級アルコール系は揮発性が高く短期保管に適しています。
また、亜硝酸リチウムを主成分とした浸透型防錆剤「ペガサビン」のような製品は、既に劣化したコンクリートの表面から塗布するだけで、鉄筋位置まで有効成分が浸透する特徴があります。コンクリート打設時にあらかじめ防錆剤を混入する方法と、施工後に表面塗布する方法では効果の発現時間が異なるため、工程管理を含めて検討することが重要です。
一般的に防錆効果は約半年から最大16年程度持続するとされており、塩害環境の程度に応じて定期的な再施工を計画すべきです。
防錆剤をコンクリートに添加または塗布する際、その性能への影響を慎重に評価する必要があります。コンクリートとの付着強度については、未塗布の普通鉄筋を基準(100%)とした場合、防錆剤塗布鉄筋は約85%程度の付着強度となることが報告されています。これはエポキシ樹脂塗装鉄筋と同等のレベルであり、構造的には許容範囲内です。
一方、フレッシュコンクリートと硬化後のコンクリートの圧縮強度や耐久性に対しては、適切に選定された防錆剤であればほとんど悪影響を与えません。むしろ、シリカフューム(シリカヒューム)や飛灰を組み合わせた高性能防錆システムでは、コンクリートの耐久性が向上するケースもあります。塩化カルシウムを硬化促進剤として添加する場合、その塩分由来の鉄筋腐食リスクを防錆剤で相殺する必要があるため、このような環境下では防錆剤の添加がむしろ構造体寿命を大幅に延伸させます。
防錆剤の効果を最大化するには、施工前の表面準備が極めて重要です。コンクリート表面に付着した藻類やカビ、また既に浸入した塩化物イオンが存在すると、防錆有効成分の浸透が阻害されます。高圧洗浄機で表面を洗浄した後、アルカリ性洗浄剤での中和処理を施し、充分な乾燥期間を確保します。
防錆剤の塗布方法としては、刷毛やローラー、噴霧器が用いられます。均一な塗布厚さは約1mm(または200~400cc/㎡相当)を目安とし、飽和状態になるまでしっかり浸透させることがポイントです。2回塗布する場合は、1回目の塗布面が完全に乾燥した後に施工します。桟橋や海岸橋梁などの塩害激甚地では2回塗布が標準となり、塗布後1ヶ月から数年経過するにつれて、防錆成分がコンクリート深部へ徐々に移動し、特に鉄筋近傍に集積する性質があります。
塩分量が1.7kg/㎥程度の実構造物における研究では、防錆期間が約16年と推定されており、定期的な劣化診断に基づいた再施工計画が求められます。
通常の局所修復では見落とされやすい「マクロセル腐食」という現象があります。これは補修した部分と未補修部分が電池を形成し、未補修部の鉄筋腐食が加速する電気化学的な劣化メカニズムです。従来の部分修復では補修部周辺の鉄筋がかえって早期に腐食してしまう悪循環に陥ります。
しかし、防錆剤をペガモルタル等の修復材に混和して全面施工する方法では、亜硝酸イオンがコンクリート内部に浸透し、補修範囲外の鉄筋にも防錆効果が及びます。この「セルガード工法」により、補修部と未補修部の電位差が解消され、全体的な腐食進行が抑制されるのです。
さらに、鉄筋の腐食は膨張してコンクリートを押し出し、「爆裂」と呼ばれる剥落現象を引き起こします。築10年程度でも、塩害地域では階段やスラブ表面に爆裂が見られるケースが報告されています。防錆剤の早期施工により、腐食膨張圧の発生を未然に防ぐことができ、構造物の見た目の美しさのみならず、長期的な安全性確保にも寄与します。この観点から、防錆剤は単なる表面処理ではなく、構造体延命化の総合的な戦略の一部として位置づけられるべき重要な投資なのです。
コンクリート表面から鉄筋を防錆できる画期的防錆材について、浸透性防錆剤「ペガサビン」の浸透メカニズムと既設構造物への適用事例が詳細に記載されています
組み立てた鉄筋の防錆方法から、塗布型防錆剤の効果持続期間や付着強度への影響、コンクリート打設時の施工上の注意点について、実践的な技術情報が提供されています
それでは、検索結果から抽出した頻出単語に基づいて、記事を作成します。