リメイク版『グロリア』(1999年)は、製作費3,000万ドルをかけながら興行収入が約420万ドルにとどまり、投資額の14%しか回収できなかった。
映画『グロリア』(1980年)は、ジョン・カサヴェテス監督・脚本、ジーナ・ローランズ主演によるアメリカのアクション映画です。舞台はニューヨークのサウス・ブロンクスで、当時世界最高水準の犯罪率を誇ったとされるエリア。落書きだらけの電車や荒廃した路地が映し出される生々しいロケーションが、作品に独特のリアリティを与えています。
物語の核心はこうです。マフィアの会計係だったジャック(バック・ヘンリー)は、組織の秘密をFBIに売ったことがバレて一家ごと抹殺されます。その直前、ジャックは隣人の中年女性グロリア・スウェンソン(ジーナ・ローランズ)に6歳の息子フィル(ジョン・アダムス)を預けます。子供嫌いのグロリアは渋々フィルを引き取りますが、そこからマフィアとの壮絶な逃避行が始まります。グロリアはかつてこのマフィアのボスの愛人でもあったため、組織との因縁は複雑に絡み合っています。
主演のジーナ・ローランズは、当初この役を断ったと伝えられています。カサヴェテス監督はバーブラ・ストライサンドにも打診したとも言われていますが、最終的にはローランズが引き受け、その決断が映画史に残る名演を生みました。
キャスト情報をまとめると以下のとおりです。
| 役名 | 俳優 | 説明 |
|---|---|---|
| グロリア・スウェンソン | ジーナ・ローランズ | マフィアのボスの元愛人。子供嫌いだが母性に目覚める |
| フィル | ジョン・アダムス | マフィアに家族を殺された6歳の少年 |
| ジャック | バック・ヘンリー | マフィアの会計係。FBIに情報を売って命を落とす |
注目すべきは子役のジョン・アダムスです。350人ものオーディションを経て7歳で大抜擢されましたが、ゴールデン・ラズベリー賞の最低助演男優賞を受賞するという複雑な結果になります。それでも同賞を同点で受賞したのが名優ローレンス・オリビエだったのは、ある種の名誉といえるかもしれません。アダムスはこの作品1本で俳優業を引退し、ニューヨークのビリヤード場のマネージャーになったといいます。これも意外な事実ですね。
参考リンク:オリジナル版グロリア(1980年)のキャスト・受賞歴の詳細が確認できます
グロリア(1980年)公式情報 - ソニー・ピクチャーズ公式サイト
1999年のリメイク版『グロリア』は、名匠シドニー・ルメット(『12人の怒れる男』『狼たちの午後』)が監督し、シャロン・ストーンが主演を務めました。製作費は3,000万ドル(当時のレートで約33億円)という大規模な予算が投じられています。ところが北米での興行収入は約420万ドルにとどまり、製作費の14%しか回収できませんでした。
なぜここまで差がついたのでしょうか?ストーリーの変更点を見ると、その答えが見えてきます。
Rotten Tomatoesの評価は29件中わずか4件(14%)が高評価という惨敗です。Metacriticでも100点満点中26点と低評価が並んでいます。名監督・名女優を揃えても、オリジナルの持つ「自然な母性の芽生え」という核心的な魅力を再現するのは難しかったといえます。
つまりリメイクが失敗したのは、技術や予算の問題ではなく「物語の本質を変えてしまった」ことが原因といえます。
参考リンク:リメイク版の詳細情報・受賞歴・評価が確認できます
グロリア(1999年の映画) - Wikipedia
オリジナルの『グロリア』(1980年)が後世の映画に与えた影響は計り知れません。これが基本です。
最もよく知られているのが1994年のリュック・ベッソン監督作品『レオン』です。12歳の少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)が家族を皆殺しにされ、隣に住む殺し屋レオン(ジャン・レノ)に助けを求めるという設定は、『グロリア』の男女を逆にしただけともいえます。
舞台も同じニューヨークで、「組織の秘密を持つ」「命を狙われた子どもを隣人が守る」「最初はうまくいかない2人の関係が徐々に変化する」という構造が一致しています。ジャン・レノ自身も、役作りにあたってジーナ・ローランズをイメージしたと伝えられています。
「グロリア型」の映画は他にも多く存在します。
こうした影響の広がりは、オリジナルが打ち立てた「グロリア型」のジャンルがいかに普遍的なテーマを持つかを示しています。これは使えそうですね。一方でリメイク版は、こうした影響力の連鎖には加われませんでした。
参考リンク:グロリアと後世の映画群との関係性を詳細に解説した記事
映画ファンの間でもあまり知られていない事実がいくつかあります。
まず、カサヴェテス監督は自分で書いた脚本なのに「グロリアはあまり好きではない」と公言していたことです。インディペンデント精神の強い彼にとって、大衆向けのエンタメ作品は自分のスタイルとは異なると感じていたようです。しかし皮肉にも、『グロリア』はカサヴェテスのキャリアの中で最も興行的に成功した作品になりました。
さらに衝撃的なのは、カサヴェテスは1980年代後半に続編の脚本を書いていたという事実です。ジーナ・ローランズの主演も想定されていましたが、1989年のカサヴェテスの死によってこの計画は幻に終わりました。続編の存在が判明したのは彼の没後のことで、ファンの間で大きな話題になりました。
一方で、黒澤明監督がこの作品に贈った言葉も見逃せません。日本公開時のパンフレットに寄稿した黒澤は、カサヴェテスの初期作品『アメリカの影』(1959年)との出会いから20年越しに『グロリア』を観た感動を、次のように記しています。
「この映画の流れの美しさは、生れつきのものだと思います。私はこれ迄、試写室ですぐれた映画を見て感動した事は沢山あります。しかし『グロリア』を見た試写室の感動は、それとは違う特別なものでした。」(サンケイ新聞、1981年2月26日夕刊)
黒澤明は『黒澤明が選んだ100本の映画』の中で、この作品を第78位にランクインさせています。世界的な映画人から絶賛されながら、監督本人があまり気に入っていなかったという点が実に面白い逆説です。
また、1980年のヴェネツィア国際映画祭では、ルイ・マルの『アトランティック・シティ』と同時に金獅子賞(最高賞)を受賞しています。ジーナ・ローランズはこの演技でアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされており、当時の映画界全体から高い評価を受けた作品です。
参考リンク:黒澤明の絶賛コメントや制作背景の詳細が読めます
オリジナルとリメイクを比べると、なぜオリジナルが傑作と呼ばれるのかがより明確に見えてきます。
核心は「グロリアの変化」にあります。最初は子供嫌いで、フィルを疎ましく思っていたグロリアが、逃避行を続けるうちに少しずつ母性本能に目覚めていくプロセスが、ジーナ・ローランズの圧倒的な演技によって自然に描かれています。目玉焼きがうまく作れず、フライパンごとゴミ箱に捨てるシーンに象徴されるような、細かなユーモアと人間的なリアリティが積み重なることで、観客はグロリアに感情移入していきます。
リメイク版は「少年を人質にする」という設定変更で、この自然な変化の流れを最初から歪めてしまいました。技術的な完成度や俳優の演技力とは別のところで、作品の根幹が変わってしまっていたのです。これが本質です。
現在、オリジナル版(1980年)はU-NEXTなどの動画配信サービスで視聴が可能です。リメイク版(1999年)はBS10スターチャンネルなどの放送でも視聴できます。両作品を見比べることで、映画リメイクの難しさをより体感できるでしょう。
| 項目 | オリジナル(1980) | リメイク(1999) |
|---|---|---|
| 監督 | ジョン・カサヴェテス | シドニー・ルメット |
| 主演 | ジーナ・ローランズ | シャロン・ストーン |
| 製作費 | 非公開 | 約3,000万ドル |
| 興行収入 | 約406万ドル | 約420万ドル |
| Rotten Tomatoes | 91% | 14% |
| 主な受賞歴 | ヴェネツィア金獅子賞、アカデミー賞主演女優賞ノミネート | 受賞なし |
| 後世への影響 | 『レオン』など多数 | ほぼなし |
リメイク版が興行収入でわずかにオリジナルを上回りながら、評価では大きく負けているという事実は興味深いですね。予算を10倍以上かけても、映画の価値は数字に比例しないということを証明しています。
映画の原点を知りたいなら、まずオリジナル版から観るのがおすすめです。製作から45年以上が経った今も色褪せない作品の力を、ぜひ確かめてみてください。
参考リンク:オリジナル版の感想・評価・視聴情報をまとめた記事
衝撃のラストに震える…女性映画の最高峰『グロリア』(1980)- 映画チャンネル