ファステストラップポイントをとっても、11位以下でゴールすれば1点ももらえず丸損になります。
ファステストラップポイントとは、F1決勝レースで最速ラップを記録したドライバーにボーナスポイントが与えられる制度のことです。2019年シーズンから2024年シーズンまでの6年間、F1の公式ポイントシステムの一部として機能していました。
ただし、重要な条件があります。それが「トップ10以内でゴールすること」です。決勝レース中にどれだけ速いラップタイムを刻んでも、11位以下でフィニッシュした場合はポイントが与えられません。これが意外と知られていない落とし穴で、見ている側も混乱しやすいポイントでした。
条件をまとめると次の通りです。
- 決勝レース中に最速ラップを記録すること
- 最終的な順位が10位以内(入賞圏内)であること
- ポイントは+1点のみ(コンストラクターズにも加算)
- 2022年以降は、規定周回数の50%以上が消化されていることも条件に追加
獲得できるポイントは1点のみです。シンプルに聞こえますが、チャンピオン争いの終盤では1点が天と地の差を分けることも十分あり得ます。1シーズン24戦なら最大24点が上乗せされる計算になり、タイトル争いに大きく絡む可能性があります。
これが基本の仕組みです。ただし実際には、この1点をめぐってチーム戦略が複雑化し、最終的には廃止へとつながることになります。
参考:ファステストラップポイントを含むF1ポイントシステムの詳細な変遷はこちらで確認できます。
解説:F1ポイントシステムとチャンピオン決定方法 | Formula1-Data
実はファステストラップポイントは、F1世界選手権が始まった1950年から存在していました。意外と知られていない事実です。
1950年のF1開幕戦イギリスGP。初代ワールドチャンピオンに輝いたジュゼッペ・ファリーナは、優勝で8点を獲得しながらさらにファステストラップの1点を加算し、合計9点を手にしました。ファステストラップポイントはF1誕生とほぼ同時に生まれたルールだったのです。
当時のポイント配分は「8-6-4-3-2+FL1」という形式で、最速ラップ記録者には1点が与えられていました。ただしこの時代のF1は技術が未熟で、同じタイムを複数のドライバーが記録することもありました。1954年のイギリスGPでは7人がファステストラップで並び、1点を7分割した「0.14ポイント」が各自に配分されるという珍事も起きています。
しかし1960年には廃止され、その後なんと約60年間もこの制度は存在しませんでした。「廃止」という歴史があります。
| 時代 | ファステストラップポイントの扱い |
|---|---|
| 1950〜1959年 | あり(+1点) |
| 1960〜2018年 | なし(約60年間廃止) |
| 2019〜2024年 | あり(トップ10条件付き+1点) |
| 2025年〜 | なし(再廃止) |
2019年に復活した背景には、F1の「見どころ不足」への危機感がありました。タイヤや燃料のマネジメントが優先され、ドライバーたちが全力でプッシュする場面が少ないという批判が続いていたため、レース終盤に新たな見どころを追加する目的で制度が復活したのです。
F1はポイントシステムをこれまでに10度以上変更してきた歴史があります。ファステストラップポイントは、その中でも「導入→廃止→復活→再廃止」という珍しい軌跡をたどったルールと言えます。
参考:F1ポイントシステムの変遷の全体像は以下のページで詳しく解説されています。
2025年の廃止は突然の決定ではありませんでした。それには明確な「最後の引き金」がありました。
2024年F1シンガポールGP。レッドブルの姉妹チームであるRBに所属するダニエル・リカルドが、レース終盤に「フリーピットストップ」を行い、新品のソフトタイヤを装着してファステストラップを記録しました。リカルド自身はトップ10圏外でゴールしたため+1点の恩恵は受けられませんでしたが、その結果、チャンピオンシップを争っていたランド・ノリス(マクラーレン)が獲得できたはずの1ポイントが奪われることになったのです。
これが問題を一気に炎上させました。ノリスのライバルはレッドブルのマックス・フェルスタッペン。リカルドのチームであるRBはレッドブルの姉妹チーム。「2チームが組んでノリスから意図的にポイントを奪った」という共謀疑惑がパドックを駆け巡りました。
マクラーレンCEOのザク・ブラウンはSiriusXMで「それは素晴らしいA/Bチームスポーツのやり方だが、私はそれが許されるとは思っていなかった」と公言しました。レッドブル代表は共謀を否定したものの、この騒動は大きな議論を残しました。
さらに数字を見ても、このルールの欠陥が明確です。2019年の導入から2024年までの125レース中、優勝者がファステストラップを獲得したのはわずか37回(29.6%)に過ぎません。残りの約70%は優勝者以外、つまり「フリーストップ」が可能だったドライバーや、ポジションを気にしなくて良い状況のドライバーが記録しています。これが問題の本質です。
FIAとFOMは最終的に「ボーナスポイントが時に物議を醸す話題となる」ことを理由として、2025年シーズン限りで廃止を決定しました。
参考:廃止の経緯とシンガポール事件の詳細は以下の記事が詳しいです。
廃止の発表を受けたドライバーたちの反応は、大きく割れていました。数の上では廃止に賛成する声が圧倒的多数でした。
廃止を歓迎した代表的なコメントを見てみましょう。
- カルロス・サインツ(フェラーリ):「今は、レース終了1周前にポジションを落とすことなくピットストップできた人にポイントが入る。誰がレースで1番速かったかを示すのではない」
- ジョージ・ラッセル(メルセデス):「冴えないレースを戦っているドライバーがピットに入り、新しいタイヤを履いてファステストを記録することが多かった」
- エステバン・オコン(アルピーヌ):「レースは勝つために戦うもので、1周だけ最速を刻むために戦っているわけじゃない」
- ケビン・マグヌッセン(ハース):「トップ10に入っていても、フリーストップが得られる状況は本当に稀で、僕らには全く無関係のシステムだった」
一方、廃止を惜しんだのが少数派です。
- セルジオ・ペレス(レッドブル):「1シーズン24ポイントが積み重なる。タイトル争いが熾烈な状況では、それが大きな違いをもたらしたレースもあった」
- ランド・ノリス(マクラーレン):「どうして変更されたのかさっぱり分からない。何か別のことをするチャンスがあるという点で気に入っていた」
意外ですね。チャンピオン争い当事者のノリスが存続を望んでいた事実は、多くのファンにとっても驚きだったはずです。
また、最も経験豊富なドライバーの一人、フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)は冷静にこう言いました。「僕はキャリアの90%を通して、このポイントがない状況でレースをしてきたけど、何の問題もなかった」。20年以上のキャリアの大半をこの制度なしで戦ってきた強みが、発言の重みを増しています。
F1では廃止されたファステストラップポイントですが、すべてのカテゴリーで消えたわけではありません。これが独自の視点から見て非常に興味深いポイントです。
FIAが公式に確認しているのは、FIAのジュニアカテゴリーであるフォーミュラ2(F2)とフォーミュラ3(F3)では、この制度が当分の間継続されるという点です。つまり、F1を目指す若手ドライバーたちは「ファステストラップポイントを意識した戦略」を今も学び続けている一方で、実際にF1に昇格した瞬間にそのスキルが意味を持たなくなるという逆説的な状況が生まれています。
F1ではポイントなしです。ただし、「ファステストラップを記録した」という記録自体はレース後も公式データとして残ります。記録として残るだけで、選手権ポイントには影響しません。
この変化がF1の戦略にどう影響するかは、2025年シーズンを通じて注目されました。実際にはファステストラップを狙うために終盤にピットインする動きは激減し、タイヤマネジメントとポジション確保に徹したレース運びが主流になりました。
また、ファンの視点からもこの変化は無視できません。ファステストラップポイントがあった時代は、レース終盤でも「誰がピットに入るか」「タイムが更新されるか」という小さな緊張感がありました。廃止後はその緊張感が一つ失われたとも言えます。F1観戦の楽しみ方が少し変わった部分として、知っておくと観戦がより深くなるでしょう。
現在のF1ポイントシステムを正確に理解するには、FIAの公式スポーティングレギュレーションを参照するのが最も確実です。
FIA公式スポーティングレギュレーション(英語)|ファステストラップを含む最新ルール一覧