アンモニア燃料を「クリーンエネルギー」と信じると、電気代がむしろ上がります。
アンモニア燃料のデメリットとして、最初に挙げるべきはNOx(窒素酸化物)の排出問題です。アンモニア(NH3)は炭素を含まないためCO2は一切排出しませんが、燃焼時に窒素と酸素が高温下で反応し、NOxが発生します。これが見落とされがちな大きな課題です。
NOxが問題視される理由は、その温室効果の高さにあります。NOxの一種である亜酸化窒素(N2O)はCO2の約273〜300倍という非常に強力な温室効果を持っています。「CO2を出さないからクリーン」という認識だけでは不十分ということですね。加えて、NOxは光化学スモッグや酸性雨の原因物質でもあり、人の呼吸器・気管への悪影響も指摘されています。健康への直接リスクも無視できません。
ただし、この課題は制御不可能ではありません。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の研究では、2014年〜2018年にかけた実証実験で、アンモニアを20%混焼しても石炭専焼と同等レベルにNOxを制御できることが証明されました。また、IHIグループは2024年4月のアンモニア燃焼実証実験で、従来燃料と比較してNOxを同等以下に抑えることに成功しています。
NOx対策が技術的に実現可能になってきている点は、アンモニア燃料の未来にとって前向きな材料です。現時点では、排煙脱硝機の設置や乾式選択的接触還元法(SCR法)によって対応が図られており、日本の電力各社のNOx排出原単位は、アメリカ・イギリス・フランス・イタリアよりも低い水準です。NOx制御の技術が整うことが条件です。
NOxに関する最新の技術情報は以下のIHIの記事でも確認できます。
IHI「脱炭素社会の鍵!燃料アンモニアに期待される可能性や課題を解説」
アンモニア燃料のデメリットの中でも「落とし穴」として特に注意が必要なのが、製造過程でのCO2排出です。「燃やしてもCO2ゼロ」という特性に注目が集まる一方で、製造段階の排出が見落とされがちです。
現在、世界で生産されるアンモニアの大半は「ハーバー・ボッシュ法」によって製造されています。この製法では高温・高圧下で窒素と水素を反応させますが、この水素の原料として天然ガスなどの化石燃料が使われているため、製造時にCO2が必然的に発生します。つまり、製造段階のCO2を含めたライフサイクル全体で見ると、必ずしも「カーボンフリー」とは言えない状況です。このようなアンモニアを「グレーアンモニア」と呼びます。
この問題への対策として、2つのアプローチが注目されています。1つ目は「ブルーアンモニア」で、製造時に発生するCO2をCCS技術(回収して地中に貯留する技術)で処理します。2つ目は「グリーンアンモニア」で、太陽光・風力などの再生可能エネルギーで製造したグリーン水素を原料として用い、製造工程でもCO2を排出しません。これが理想形です。
ただし、グリーンアンモニアの製造コストは現時点でまだ高く、大規模な普及にはさらなる技術革新と再生可能エネルギーの低コスト化が必要です。現在は「グレーアンモニアで普及させながら、ブルー→グリーンへ段階的に移行する」というロードマップが描かれています。段階的な移行が基本です。
経済産業省 資源エネルギー庁「アンモニアが"燃料"になる?!(後編)〜カーボンフリーのアンモニア火力発電〜」
アンモニア燃料の実用化において、最も現実的・即時的なデメリットが「供給量とインフラの不足」です。技術論の前に、そもそもの物量が足りないというのは深刻な問題です。
数字で見るとその深刻さが際立ちます。世界のアンモニア年間生産量は約2億トン(2019年時点)ですが、そのうち国際市場で流通しているのはわずか約1割、つまり約2,000万トンに過ぎません。一方、日本国内の石炭火力発電所すべてで20%アンモニア混焼を行うには、年間約2,000万トンのアンモニアが必要とされています。現在の世界全体の貿易量をそっくり日本1国が消費しなければならない計算になります。これは圧倒的に不足ということですね。
現在の日本のアンモニア消費量は年間約108万トンですが、これは肥料・化学製品用途が中心です。燃料用途に転換した瞬間に、需要が約20倍近くに跳ね上がる計算になります。需給バランスが一気に崩れる可能性があります。そして需要が急増すれば、当然ながら市場価格の高騰が起きます。アンモニアの輸出量が多い国はトリニダード・トバゴ、ロシア、サウジアラビアが上位3カ国で、これら3カ国だけで世界輸出量の約半数を占めており、供給源の地政学的リスクも無視できません。
この課題に対応するため、2020年10月に経済産業省は「燃料アンモニア導入官民協議会」を設立し、2030年までに300万トンの燃料アンモニア導入と、新たな市場の形成・サプライチェーン構築を目標として官民連携で取り組んでいます。2050年には日本企業が関与するサプライチェーンで1億トン規模の供給を目指すという壮大な計画です。
インフラ整備が進むまでの間は、アンモニア混焼率を緩やかに上げていく段階的なアプローチが現実的な選択肢になります。貯蔵・輸送インフラについては既存の肥料用アンモニアの設備を一部流用できる点がメリットです。インフラの完全な整備が条件です。
アンモニア発電のデメリット・供給不足の詳細解説(offsel.net)
アンモニア燃料を導入する際に、エネルギーコストの観点からも厳しい現実があります。「脱炭素=コスト削減」というわけではなく、むしろ大幅なコスト増になり得るという点は正確に理解しておく必要があります。
英国の気候シンクタンク「Transition Zero」の分析によると、環境配慮なしで製造したグレーアンモニアを使った20%混焼でも、燃料費は石炭専焼の約2倍になります。さらに、グリーンアンモニア(再生可能エネルギー製)を使った場合は約4倍にまで跳ね上がるという試算があります。コスト面での負担は相当に大きいです。
発電コスト単体で比較しても、水素発電(専焼)が97.3円/kWhであるのに対し、アンモニア発電(専焼)は23.5円/kWhと水素よりは安いものの(2018〜2020年時点)、石炭火力発電よりも依然として高いのが実情です。また、アンモニアは石炭と比べて燃焼温度が低いため、混焼率を上げれば上げるほど発電効率が下がり、コストが増す構造的な課題もあります。混焼率が高いほど割高になるということですね。
さらに、欧州シンクタンク「E3G」や「BNEF」などの複数のレポートが指摘しているように、20%アンモニア混焼をグリーンアンモニアで行っても、CO2排出量は天然ガス火力発電を上回ってしまうという試算もあります。コスト対効果の面で疑問符がつく状況です。コストと効果のバランスが条件です。
こうした経済的リスクを踏まえると、アンモニア混焼は現時点で「コスト最適解」ではなく、「脱炭素への移行期における現実的な選択肢のひとつ」として位置づけるのが正確です。企業・消費者双方がエネルギーコスト上昇の可能性を念頭に置いておくことが重要です。
第一生命経済研究所「アンモニア混焼を巡る日本と欧米の温度差」(コスト・温室効果に関する詳細データ掲載)
あまり語られていませんが、アンモニア燃料には「国際的な孤立リスク」というデメリットも存在します。技術的・経済的な課題とは異なる、外交・政策的な観点からのリスクです。
日本は現在G7の中で唯一、石炭火力発電の廃止時期を明示していない国です。アメリカは2035年、カナダは2030年、イタリアは2025年、イギリスは2024年、フランスは2022年と、他のG7諸国はそれぞれ廃止年限を明確にしています。日本はアンモニア混焼を「脱炭素の現実解」として推進していますが、欧米からは「石炭火力の延命策」との批判が相次いでいます。国際的な温度差は深刻です。
2023年のG7広島サミットでも、石炭火力廃止時期の明記には日本が反対し、欧米との摩擦が表面化しました。国際エネルギー機関(IEA)は2021年の「Net Zero by 2050」で、先進国の石炭火力について2040年までの完全廃止を求めており、日本のアンモニア混焼の商用化目標が2040年代以降であることとの矛盾が指摘されています。これは厳しいところですね。
この問題が実際のデメリットとして表れるシナリオの1つが、「アンモニア混焼技術のガラパゴス化」です。日本が独自路線を推進する一方で、欧米が別の脱炭素技術に集中投資した場合、アンモニア混焼のグローバル市場が形成されず、日本企業の技術が国際的な採用を得られないリスクがあります。経済的損失につながる可能性があります。
ただし、G7広島サミットの共同声明では「水素やアンモニア混焼等を使用を検討している国があることにも留意する」との一文が挿入されており、完全に否定されているわけでもありません。日本が掲げるASEAN向けの「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の枠組みも、アンモニア混焼の国際展開を後押しする可能性を持っています。国際的な戦略展開が今後の鍵です。
E3G「石炭火力発電におけるアンモニア混焼の問題点を解説(日本語版)」

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